「横須賀市がChatGPTを試験導入から本格運用へ」の記事に感じる違和感|㈱キャパ メディア連携企画
今話題の「ChatGPT」面白いですよね。皆さんはもう試されましたか?
会話型AIとして、あっという間に登録ユーザー数を爆増させ、Googleを慌てさせた新サービスです。
さっそくMicrosoftもその機能を取り入れ、検索エンジンやOfficeに実装するなど、今後あらゆる場面で利用が拡大していくでしょう。今回はついに行政機関でも利用が始まったという記事を中心に、そこで感じた違和感についてまとめていきたいと思います。
この記事でわかること
・横須賀市で始まったChatGPTの利用について
・ネット記事に感じた違和感
・ChatGPTだけでは足りないかもしれない点について
横須賀市で始まったChatGPTの利用に関するまとめ
まずは事実を確認していきましょう。*注1
・横須賀市は全国の自治体に先駆けて、2023年4月にChatGPTを試験導入
・市の広報文の作成や会議の議事録要約のほか、新規事業のアイデア創出などに活用
・対象は正規職員と非常勤職員の一部の計約4000人で期間は約1カ月
・自治体専用チャットツール「LoGoチャット」と連携して利用
・LoGoチャットを介して入力した内容は、ChatGPTに学習されない仕組みになっている
試験導入により成果が確認できたことから、2023年6月に本格運用へと切り替えることとなりました。
・使用した職員の約8割が「仕事の効率が上がる」と肯定的に評価
・導入により、文書作成の業務時間を少なくとも1日10分程度短縮できると試算
・今後は外部の専門家をAI戦略アドバイザーとして配置する予定
・他の自治体に導入・活用のノウハウを伝える研修なども企画
基本的にお堅い上に、IT技術の導入と活用に関しても及び腰のイメージがある役所ですが、最新AIサービスをいち早く利用し、成果が出たというのですから、非常に喜ばしいニュースに思えます。
このことに関しては問題はないのですが、それを伝える記事やニュース動画の内容が通り一遍であり、ちゃんと検証しているのか気になりました。
おそらく、市役所からのニュースリリースや市長の記者会見、職員へのインタビューをまとめて記事にしているのだと思われますが「事実の確認」が少し甘く、記事の書き方にも問題があるように見えます。その辺りを少し紹介しながら検討してみましょう。
ネット記事に感じた違和感に関して
いくつかの動画ニュースやネット記事を中心に、今回の話題を調べてみましたが、テック系を専門としていない場合、違和感を感じる表現が多々ありました。
1)自治体チャットサービスを使うことで機密が守れる?
東京新聞の記事によると
「個人情報の流出を懸念する市民の声もあることから、LoGoチャットを介して入力した内容は、チャットGPT(記事ママ)に学習されない仕組みになっているという。」
と書かれています。この部分を一読すると、まるで「(自治体チャットサービスである)LoGoチャットが、データの保存をさせない仕様になっている」ように感じる人も多いのではないでしょうか。
しかし、そもそもChatGPTはサーバ上で入力されたデータを処理するサービスです。LoGoチャットでOpenAIのサーバーに対して何らかの制限をかけたり、制約をつけることはできません。LoGoチャットは職員が入力したデータを「スルーパス」するだけのはずです。
これに関しては、そもそもOpenAI側が2023年4月から、「ユーザーの入力したデータや生成された文章がサーバーに保存されない仕様」を実装しています。
もし記事で書かれている「ChatGPTに学習されない仕組み」がこのことを指すのであれば、「LoGoチャットを介する」などと誤解を与えそうな表現は避けるべきでしょう。
なお、データの保存に関してもChatGPTの仕様は「30日後にサーバーから消去」であり、一切保存されない訳ではありません。
今回は東京新聞を例に挙げましたが、同様の記述は他のニュースサイトでも見かけますので、おそらくは横須賀市からの発表をそのまま文章にしたものと思われます。
細かな点ですが、同じ記事の中でChatGTPのことを「チャットGPT」と書いたり、表記に揺れがあるのも気になります。直前に「LoGoチャット」という単語が出てきますので、それに引きずられたのでしょう。* 注2
2)ChatGPTを活用する場面
横須賀市の発表によると、ChatGPTは「市の広報文の作成や会議の議事録要約のほか、新規事業のアイデア創出」などの作業で活用されるとのことです。動画ニュースでは、職員が横須賀市で開催されるイベントのキャッチコピーをChatGPTに作成させるシーンが紹介されていました。
この時、プロンプトに入力された文章は
「横須賀市で開催されるウィンドサーフィンW杯のキャッチコピーを10個考えてください。」であり、ものの10秒ほどで生成された文章は
「海と風のアンサンブル、ウィンドサーフィンW杯!」
「次世代のサーファーたちが集う、ウィンドサーフィンW杯!」
「風を縫い、波を越える華麗な競技、ウィンドサーフィンW杯!」
「世界の強豪が集結する、ウィンドサーフィンW杯!」
などです。正直な感想としては、凡庸でありきたりなものばかりです。
ChatGPTは、インターネットの世界にある膨大な情報を収集・整理し、その中から質問に対する「平均で妥当な回答」を自然文章として吐き出すサービスです。何か全く新しいクリエイティブな用途には向いてません。
もちろん、基礎的な情報をまとめさせておいて、それをアイディアの元として活用し、人間の方でクリエイティブ性を出していく助けとして利用することはできるでしょう。
しかしそれであれば「過去にどんなキャッチが使われていたか」の方が参考になりそうです。
そもそも、イベントを外部に対して魅力的にアピールするキャッチコピーの製作を、市役所がしていることに驚きました。本気でやるなら、このようなクリエイティブ性が問われる仕事は、外部の専門家に依頼するべきでしょう。
もし、手作りでやりたいのであれば一般市民にコンペで募集したり、せっかく内部チャットがあるのだから、職員にアイディアの募集してみれば良いのではないでしょうか。
「ChatGPTを使った業務効率化」を図る前に、このような業務の内製化をやめて、専門的でクリエイティブ性が問われることは外部に投げた方が良い気がします。ついでに言えば、ChatGPTはこのようなクリエイティブな分野では「一番センスがない」ツールです。
地元の高校生10人ぐらいを集めて、アイディア出しをした方が、良いものができる気がします。
3)ChatGPT利用により期待できる効果
文章作成業務の効率化であれば、どの程度の時間短縮が可能かを数値で評価することができそうです。ところがこの点についても、報道されている数値が一致しておらず、正確に評価できているのか疑問が残ります。
例えば、東京新聞(2023年6月5日)の記事によると、
「市は職員へのヒアリングを踏まえ、導入により文書作成の業務時間を少なくとも1日10分程度短縮できると試算した。」
とされています。
試験導入した41日間で、全職員の約半数に相当する1900人ほどが実際に利用したとのこと。それならば、利用した職員が文章作成に要した時間を集計し、これまでの実績と比較してどの程度の短縮効果があったか試算したのだろう、と捉えるのが普通でしょう。
しかし、一概に文章作成と言っても内容によって作成に要する時間は異なりますし、個人の能力にも大きく左右されます。実際にChatGPTありとなしで時間差を比較するのは、大変そうに思えます。
ところが産経新聞では、同じ約10分の短縮について、異なる書き方がなされています。
「消防用設備の検査や指導のための文書や高校生向けのアンケート概要を作成した例では、1日約10分の業務短縮効果があったという。」
もしこれが「約10分の短縮効果」の根拠だとすれば、単なる『サンプル1』にしかすぎません。他の部署、内容の異なる文章などにそのまま展開できるものでもなさそうです。
また、NHK横浜放送局によると
「市は文書の作成にかかる時間を、年間2万2700時間短縮できる可能性があるとしています。」
と紹介されています。
横須賀市の職員数は約3800人、年間240日勤務するとして1日あたりの短縮時間を計算してみると、約1.49分です。前述の短縮効果と異なる数値になってしまいます。
せっかく数値で出しているのにもかかわらず、根拠がよくわからないこともあり、そのまま信頼して良いものかどうか悩ましいところです。*注3
横須賀市の業務改善にはChatGPTだけでは足りないのかも知れない
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