国交省モデル事業採択のPJ内でも重要視される「ライフサイクルコンサルティング」に迫る
建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度も本格化しています。第3回は、「ライフサイクルコンサルティング」業務の現状について、実際に業務に携わった方の視点から解説します。
目次
時系列で分断されていた建築情報を横断的に蓄積し、建物の長期的な使用を適正化する新しいビジネス
設計から施工を経て施設管理・運用へと連関する建築物のライフサイクルを最適化する職能として脚光を浴びているのが「ライフサイクルコンサルティング」だ。
そこで今回は、buildingSMART JapanでBIMによる建築確認申請の取り組みにも関わるなど、官民を横断した日建設計の安井謙介氏 (設計監理部門品質管理グループ技術部アソシエイト)の活動から「ライフサイクルコンサルティング」業務の現状を報告する。
先導事業者型モデルのプロジェクトで明示した発注者が作成すべきEIR(発注者情報要件)
日建設計がライフサイクルコンサルティング業者として参加したプロジェクトが「(仮称)プレファス吉祥寺大通り」だ。国土交通省の「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」において令和3年度先導事業者型モデルとして採択されている。
発注者(建築主)は荒井商店、施工者は西松建設だ。関連資料「Life Cycle Consulting 発注者視点でのBIM・LCCに関する効果検証・課題分析」を基に、ライフサイクルコンサルティングの重要性を紐解く。
設計施工でのBIMの援用は、建設業内部からの要請に則り行われている。BIMのより一層の普及を促進する上で、国交省のモデル事業の中で発注者(建築主)の役割に着目し、発注者(建築主)が主体的、自覚的にEIR(Employer’s Information Requirements:発注者情報要件を作成すべきだと明示した意義は大きい。
EIRは、建築物のライフサイクルを見据えて、発注者(建築主)の立場で、BIMデータをどのような目的で、どのように利用するかを記述する。EIRの明確化こそが何十年もの長期に渡る建築物のライフサイクル全般をコントロールする起点となる。
ハンドブック「BIM USES Definitions Vol.1 BIMを活用するプロセスやタスク」をWEBで広く公開
日建設計は、ハンドブック「BIM USES Definitions Vol.1 BIMを活用するプロセスやタスク」をWEBで公開している。発注者(建築主)がBIM利用法を21項目から選択し、EIRに記載することで受注者との円滑な意思疎通をサポートする。「(仮称)プレファス吉祥寺大通り」においても※1「BIM USES Definitions Vol.1 BIMを活用するプロセスやタスク」を適用し、有効性を確認している。
ガイドブック※2「BIM USES DEFINITIONS Vol.1 BIMを活用するプロセスやタスク やさしいガイドブック」も合わせて公開している。発注者(建築主)から受注者まで幅広く理解できるように解説や分析を追加したもので、二冊でのセット利用を想定している。
共に建設業全般におけるBIMの利用促進の目的であれば出典を明らかにすることで二次利用が可能だ。
BIM-FMシステムは維持管理コストを軽減するだけでなく将来発生するコストも予知し可視化
建設のコストは氷山の一角であり、水面下に隠れる竣工後の維持管理・運用コストはそれの数倍となる。多くの建築物の老朽化が進み、維持管理コストの負担増も課題となる中で、BIMデータの守備範囲を建築物の維持管理に拡張し、維持管理コストを極小化する動きも生まれている。
建築物の変遷をデジタル化するBIM-FMシステムは、長期に渡り、維持管理コストを軽減するだけでなく、将来的に発生するリスクやコストを予知するなど、コスト、時間、人的資源などの挙動を可視化する。それら高度にデジタル化された維持管理のためのBIMデータを保持する建築物は、資産価値向上の面でも発注者(建築主)に大きなメリットを与える。
現状は紙ベースでのアナログ情報に基づく不正確な資産評価によって多くの企業のバランスシートが成立している。発注者(建築主)は、それらの課題に気づき始めている。BIM-FMシステムの普及は、建設業内部に留まらず、広く社会全般に影響を及ぼす。今こそ「ライフサイクルコンサルティング」の果たす役割は大きい。
※1「BIM USES Definitions Vol.1 BIMを活用するプロセスやタスク」
https://www.nikken.jp/ja/news/press_release/pj4urv0000004mab-att/20220510_02.pdf
※2「BIM USES DEFINITIONS Vol.1 BIMを活用するプロセスやタスク やさしいガイドブック」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001598507.pdf