デジタルアーカイブの事例紹介|文化庁京都移転で機能強化
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「デジタルアーカイブ」についてピックアップします。2022年3月に文化庁が京都に移転し、機能強化が期待されています。本記事では文化庁でもDX推進の一環として取り組まれているデジタルアーカイブの概要や、主な事例をご紹介していきます。
文化庁が京都移転|2023年3月27日より業務開始
これまで霞が関にあった文化庁が、2022年3月27日より京都に移転します。中央省庁の移転は「明治以来初」のことであり、地方創生や地域の文化芸術振興といった意義を持ちます。
京都には伝統的建築や文化資産が多いという点が評価され、移転先に選ばれました。それだけでなく「東京一極集中」を是正し、巨大災害へのリスクを回避するという狙いもあります。
文化庁の移転先は、今出川通と丸太町通の中程・御所西側にある「旧京都府警察本部本館」です。こちらは1928年に建設された文化遺産ですが、改築・増築して新庁舎として利用されます。
2022年には新庁舎が竣工しており、3月27日から業務開始・5月15日に大半の職員が移動すると発表されています。
文化庁京都移転はなぜ?
文化庁移転には、上述したように「東京一極集中の是正」というメリットがあります。一方で受け入れる側の京都にとっても、下記のような意義があるでしょう。
- 名実ともに「文化首都」となる画期的な出来事
- 都市の魅力や国内外への発信力を一層高める
10年以上も誘致活動を行ってきた結果が実ったとあって、京都では文化関係や宗教界も一致団結して歓迎しています。
文化庁も「DX推進」の動き
新天地に移転する文化庁ですが、「文化を守り 文化で未来をつくる 世界とつながる」という使命を全うするため「DXの推進」についても検討を進めています。
具体的には、博物館資料のデジタル・アーカイブ化や、博物館業務DX化の⽀援を行っています。これにより、デジタル化されたデータの活⽤や業務フローの効率化を図る計画です。2023年度には「Museum DXの推進」として1億円の予算を計上しています。
デジタルアーカイブとは
ここでは、文化庁でも取り組みが進んでいる「デジタルアーカイブ」についてご紹介します。
デジタルアーカイブの概要
デジタルアーカイブとは、「デジタル技術で文化的価値のある資産をデータ化すること」を指します。主に行政が博物館や美術館の収蔵品をデータ化することが多いですが、民間でも独自にデジタルアーカイブを行う事例が増えてきました。
また対象は文化遺産だけでなく、「市井の人々の生活」「ファッションカルチャー」といったものも大切な記録としてデジタルアーカイブされています。
デジタルアーカイブの主な作り方|技術を紹介
ここでは、実際にデジタルアーカイブされる際の主な作り方をご紹介します。
①アートスキャン|絵画や彫刻
絵画のデジタルアーカイブでは、大型スキャナを用いたスキャニングが行われます。高品質で緻密な複製が可能なので、細かなディティールも再現可能です。彫刻など立体の造形物の場合は、3Dスキャナーが用いられます。
②点群データ|建築物
点群データとは、「位置情報(X,Y,Z)と色情報(R,G,B)を持った点の集合データ」のことを指します。地形や物体などを「大量の点の集合体データ」として表現することで、あらゆる分野で応用できるのが特徴です。主にレーザースキャナーを用いてデータを取得します。
上図は、登録有形文化財である「大阪瓦斯ビルヂング」の点群データです。設計図の残っていない建築物でも、3Dスキャンを行うことでデータ化できます。
「点群データ」について詳しくは、下記記事をご覧ください。
③VR(バーチャル・リアリティ)|空間
絵画や建築物は個々に完結しているためデータ化しやすいですが、「都市空間」といった文化遺産は同様の手法では対応しきれません。そこで凸版印刷では、「VRによる空間の再現」に取り組んでいます。上図は、故宮博物院の共同研究で再現されたVRの紫禁城です。
デジタルアーカイブの事例
ここでは、デジタルアーカイブされた建築や土木関連の事例をご紹介します。
①仁和寺|高精細3D計測によるVRコンテンツ
世界遺産である「仁和寺(京都市)」の金堂が、VRコンテンツ化されました。データ取得は大日本印刷が行い、「フォトグラメトリ計測」とレーザーを対象物に照射し3Dデータを取得する「レーザー計測」を最適に組み合わせる技術が使われています。短時間で高精度のデータが取得できるため、文化財に負担を掛けないのも特徴です。
②田谷の洞窟|壁面彫刻を3Dデータ化
「田谷の洞窟(横浜市)」は壁面に仏教のレリーフがある洞窟で、横浜市の登録史跡です。デジタルアーカイブ活動を行っているのは「田谷の洞窟保存実行委員会」という一般の方からなる組織で、後世に文化を伝えるために活動されています。
洞窟という「空間」をデータ化するため、レーザー測量やドローンを使った写真測量など様々なデジタル測量が使われているのが特徴です。
③中銀カプセルタワービル|
中銀カプセルタワービルは、黒川紀章氏による「メタボリズム建築」の代表作です。「カプセルごとに交換できる」というコンセプトやデザイン性の評価が高い名建築でしたが、2022年から解体が始まっています。
しかし文化的価値が高いことから、「3Dデジタルアーカイブプロジェクト」が立ち上げられました。レーザースキャンのデータ、ドローンによる2万枚以上の写真等を組み合わせ、3Dデータ化されます。
デジタルアーカイブのメリット
デジタルアーカイブの主なメリットには、下記が挙げられます。
- データは劣化しない
- どこからでもアクセス可能
- 技術の継承
貴重な文化遺産や建築物は、時間とともに劣化が進んでしまいます。しかしデジタルアーカイブとして残せば、そのままの状態を保ったまま保存・複製が可能です。
またオンラインにアップロードすれば、時間や場所が離れてもアクセスできます。さらに「技術の継承」という意味でも、職人の技術がそのまま伝えられる点が注目されています。
デジタルアーカイブのデメリット・課題
- データ量が膨大になる
- データが消える恐れがある
データは実体がないように思われがちですが、データ量が増えれば増えるほど管理が大変になります。クラウドで保管するにしても、システムのアップデートや変更があれば都度手間が掛かってしまいます。また適切にバックアップを取っておかないと、大切なデータが消えてしまう恐れがあるでしょう。
まとめ|デジタルアーカイブで文化の継承を
文化庁もデジタルアーカイブに取り組んでおり、京都への移転を機にDX推進が期待されます。貴重な文化遺産を後世に伝える「3Dスキャナやドローン」といった最新技術の活躍からも目が離せません。