
2兆円規模「グリーンイノベーション基金」とは?CO2削減と経済成長を両方叶える採択事例紹介も
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「水素社会」についてピックアップします。次世代のエネルギーとして注目が高まっていますが、「水素社会は来ないのでは?」という疑問も。本記事では、水素エネルギーのメリット・デメリットや建設会社での具体的な取り組みについてご紹介していきます。
水素(H2)は、酸素(O2)と結合して発電したり、燃焼による熱エネルギーとして利用したりといった使い方ができます。その過程でCO2を出さないため、環境に優しいエネルギー源として注目されています。
水素エネルギーには、大きく3つの種類があります。
まず「グレー水素」は、石炭など化石燃料を燃焼させて作る水素です。製造過程でCO2を排出してしまうため、環境負荷が大きいのが課題となります。
次に「ブルー水素」は、水素の製造で発生してしまったCO2を貯留や再利用するのが特徴です。CCUSという手法は、古い油田にCO2を注入することで「残った油田の押出・CO2の貯留」の両方が叶うシステムとなっています。
そして「グリーン水素」は、太陽光発電などの再生可能エネルギーを使って生成する方法です。水を電気分解する「電解」で製造されるため、CO2を排出しないのがメリットです。
将来的にはすべてグリーン水素とするのが目標ですが、コスト面や製造の手間からグレー水素やブルー水素が多くを占めているのが現状となっています。
経済産業省は「水素・燃料電池戦略ロードマップ評価ワーキンググループ」を立ち上げ、水素社会への道筋を示しました。
具体的には、自動車やバスといったモビリティ分野で、2025年をめどに水素利用拡大が進められています。また製造コスト低下を図ることで、供給面での課題解決も図られる予定です。
水素社会の主なメリットは、下記が挙げられます。
水素は炭素分を含まず、二酸化炭素(CO2)を排出しません。そのため環境に優しく、脱炭素社会の実現に貢献します。またエネルギーキャリアとして再生可能エネルギー等を貯 め、運び、利用することができる特性も持っています。
日本は資源に乏しく、90%以上のエネルギーを輸入に頼っています。しかし水素は様々な資源から生成可能なため、日本でも製造が進めばエネルギー供給リスクを減らすことができます。
一方で、水素社会にはデメリットや課題もあります。
グレー水素やブルー水素の製造時にはCO2が排出されてしまうので、環境への負荷が大きくなります。またグリーン水素に関しても、電気分解では莫大な電力が必要になる点が課題です。
また供給価格に関しては、1,200円/kgと比較的高額です。ハイオクガソリンと同程度の価格のため、普及のためには値下げが求められます。こういった背景から、経済産業省では「2030年に現在の3分の1の価格にする」という目標を設定しています。
ここでは、水素社会の実現に向けた取り組みをご紹介します。ゼネコンなど建設会社では、積極的な水素エネルギーの取り組みが進められています。
清水建設の「Hydro Q-BiC」は、再生可能エネルギーの余剰電力を水素に変えて水素吸蔵合金に蓄えたのち、必要に応じて水素を取り出して発電できる建物付帯型水素エネルギー利用システムです。
水素の吸蔵・放出に、実績あるシミズ・スマートBEMSを活用することで、施設の需要に応じたエネルギーの最適運用が可能になります。
エネルギー源の水素は、水道水を濾過して生成した純水を電気分解することで作り出します。この時の水素は湿気を含んでいるため、除湿プロセスを経て水素吸蔵合金に吸蔵させます。エネルギーとして利用するときは、こうして貯められた水素を空気中の酸素と化学反応させ、電気と熱として取り出します。
大林組は2021年7月、地元の大分地熱開発株式会社の協力のもと、地熱発電施設に水素製造プラントを併設し、地熱発電電力(125KW)を用いてグリーン水素の製造(10Nm³/h)を開始しました。
地熱由来の電気を系統連系ではなく水素製造のためのエネルギーとして利用する、つまり電気を「運べるエネルギー」としての「水素」に変換して有効利用するという点が注目されています。
製造したグリーン水素は、主に地元企業の脱炭素実証事業に利用され始めています。グリーン水素の利用促進においては、需要先の利用状況や需要予測に基づいたプラントの運転調整、効率的な搬送計画を一元的に管理できるシステムが欠かせません。
大林組は、このエネルギーマネジメントシステム(EMS)の構築にも力を入れており、地元の脱炭素化のニーズに対する最適なソリューションを提供しています。
水素エネルギーは環境に優しいのはもちろんですが、資源に乏しい日本でも製造可能という点も大きなメリットです。製造コストの面では課題があるものの、今後ますます活用の幅が広がると期待されます。
二級建築士/インテリアコーディネーター(IC)/福祉住環境コーディネーター。 建築学科卒業後、インテリアメーカーにてICの業務を経験。 現在は建築・住宅系ライターとしてコラムを担当。ハウスメーカー、リフォーム、住宅設備会社での執筆多数。