驚きと共に試行したフェーズは終わり建設業においても実務への積極援用が始まった生成AI|深堀り取材【毎月15日・月末更新】

生成AI。誰も彼もがだ。まさに猫に杓子もだ。登場したばかりの驚愕の度合いは薄れたが、個人的に相談しようものならば、こちらを決して汚さず、当たり障りのよい教科書的な回答をしてくれる。答えが欲しいのではない。人間には、考える過程が重要なのだとうそぶいてみても、その優秀さには、嫉妬さえ覚える。
そうこうしている内に、実務に使い、成果を挙げるべく、生成AIを積極的に援用する事例が増えている。
最初は、NTTドコモとNTTファシリティーズとNTTドコモの事例だ。両社では、建物維持管理業務に対話型AIエージェント技術を援用することによって、誰もがチャットでの自然な会話の中でBIMデータを活用できるようする。重要なのは、BIMの専用的な知識がなくても、BIMに蓄積された膨大な建物の情報を自然言語で操作可能にする点だ。
矢作建設工業では、建設業にとって最重要な生産拠点である建設現場における繰り返し災害を撲滅するためにAIを用いる。AIが工事の進捗に合わせて過去の災害事例を検索・抽出し、チャットで配信するシステム「AIあんぜん指示ボット」を開発した。
目次
対話型AIエージェント技術を建物維持管理業務に活用+有効性を評価する共同実験を実施
NTTドコモとNTTファシリティーズでは、NTTドコモが独自に開発した対話型AIエージェント技術を実際の建物維持管理業務において活用し、同技術の有効性を評価する共同実験を行った。
対話型AIエージェント技術は、建物の複雑なデータ構造に関する専門知識やBIMなどの専用ソフトの操作スキルがなくても、BIMに蓄積された膨大な建物の情報を自然言語で操作可能にするものとなっている。この実験では、NTTファシリティーズが管理する既存建物のBIMデータを用いて、建物維持管理業務における対話型AIエージェント技術の有効性と実用性を検証することによって、誰もがチャットでの自然な会話の中でBIMデータを活用できるようにし、建物ライフサイクル全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させることを目指している。

BIMデータをAIがナレッジグラフ形式で整理+自然言語で情報を正確かつ高速に検索・抽出
対話型AIエージェント技術は、グラフRAG※1による複雑なデータ構造の理解によって特徴づけられる。膨大で複雑なBIMデータをAIが理解しやすいナレッジグラフ形式※2で整理し、これによって大規模言語モデル(LLM)※3が自然言語の質問から、必要な情報を正確かつ高速に検索・抽出できる。
具体的に、マルチエージェントによる高精度な対話応答では、ユーザーの意図を解釈+ナレッジグラフを探索+回答を生成するなど異なる役割を持つ複数のAIが連携・協調することにより、単体のAIでは難しい曖昧な質問にも多角的な視点から精度の高い回答を導き出す。
※1:グラフRAG;グラフRAG: Retrieval-Augmented Generation。ナレッジグラフを参照資料として利用することによって情報間の複雑な関係性をAIが正確に理解し、回答を生成する検索拡張生成 (Retrieval-Augmented Generation:RAG)技術の一種。
※2:ナレッジグラフ形式: BIMデータに含まれる「部屋」や「設備」といったさまざまな建物情報と、それらの複雑な関係性をAIが理解しやすい関係図のように整理したデータ構造のこと。
※3:大規模言語モデル(LLM): LLM: Large Language Model。大量のテキストデータに基づいて機械学習により訓練された大規模な人工知能モデルのこと。
対話型AIエージェント技術によって建設を初めさまざまな領域における社会実装を目指す
両社は、今回の実験を実施することで誰もが直観的にBIMデータを扱える環境を実現し、建物の維持管理におけるBIM活用を大きく前進させると共に、建物ライフサイクル全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させていく。合わせて対話型AIエージェント技術を通じて得られる知見を基に、この技術を更に高度化させることによって、建設・不動産業界を初めとするさまざまな領域における技術の社会実装を目指す。
設計者だけでなく、オフィスビル、データセンター、商業施設の管理者や利用者、ビルのオーナーといった建物に関わるあらゆる人々がBIMデータを活用できる新しいワークスタイルを確立し、建設・不動産業界の生産性向上や、建物利用者の利便性向上に貢献していく。
AIが災害事例を検索・抽出+チャットで当該事例を配信する「AIあんぜん指示ボット」開発
矢作建設工業では、建設現場における繰り返し災害を撲滅するためにAIが工事の進捗に合わせて過去の災害事例を検索・抽出し、チャットで当該事例を配信するシステム「AIあんぜん指示ボット」を開発した。
行政側が公表している労働災害事例ではなく、矢作建設工業の作業所で実際に発生した事例を整理して活用することによって、職員や協力会社は、矢作建設工業が手掛ける工事の規模や建物の用途などに合致した災害事例や事故防止のポイントを確認することができる。
「AIあんぜん指示ボット」を活用することで、職員は検索の手間をかけることなく、適切な安全指示を行うことができるため、繰り返し災害の撲滅に繋げることが可能となり、安全管理の質の向上が期待できる。合わせて職員は、効率的に実践経験を積むことができるため、若手職員の早期育成にも繋がる。
「AIあんぜん指示ボット」の仕組み・概念+導入によって実現する効果を図示して概説
AIが工事の進捗に合わせて過去の災害事例を検索・抽出し、チャットで当該事例を配信するシステム「AIあんぜん指示ボット」の仕組みを列記してみる。
翌日の作業予定情報をAIが読み取る。具体的には、建設現場施工管理サービス「Buildee(ビルディー)調整会議」に入力されている翌日の作業予定情報をAIが取得・解析する。
災害事例を抽出する。AIがクラウドストレージ内の災害事例フォルダを検索し、作業内容にマッチする災害事例を抽出する。
チャットで配信する。抽出した災害事例を、現場向けビジネスチャット「direct(ダイレクト)」で配信(PDF)する。

「AIあんぜん指示ボット」の導入によって、どのような効果があるのかをみてみよう。
繰り返し災害の防止が実現する。矢作建設工業の職員や協力会社の職長は、工事の進捗に合わせて過去に発生した労働災害の事例を確認することができる。これによって事前に作業リスクに気づくだけでなく、安全に対する感度が高まることで再発防止意識の向上が期待できるため、繰り返し災害の発生防止に繋がる。
職員の負荷を減らす。AIが翌日の作業予定情報を取得・解析して災害事例を抽出・配信するため、有効な災害事例を探すという職員の負荷を減らすことに繋がる。
若手職員の早期育成が実現する。職員は、「AIあんぜん指示ボット」を活用して安全指示を行うことで、効率的に実践経験を積むことができるため、若手職員の早期育成にも資することが期待できる。現場職員からは、「自分の安全指導に説得力があるように感じる」「朝礼やKY(危険予知)指導」の際に、具体例を持って話せるようになった」という声が上がっている。

定期的に現場職員からフィードバックを受けて改良+将来的には品質管理においても活用
「AIあんぜん指示ボット」開発の背景をみてみよう。安全環境部は、労働災害が発生した場合、「災害の種類」「発生日時」「発生状況」「被災者に関する情報」「災害原因」「事故防止のポイント」を写真付きで簡潔にまとめている。
一方で、それらの過去事例はこれまで整理されておらず、効率的な活用ができていなかったため、結果として同種の災害が繰り返し発生したことがあった。そのため、過去15年に渡り、蓄積している災害事例を有効活用し、現場職員や作業員に危険に対する「気づき」を与えることで、繰り返し災害の防止に繋がると考え、「AIあんぜん指示ボット」を開発した。
今後、「AIあんぜん指示ボット」は、定期的に現場職員からフィードバックを受けることで、より効果的なツールへと改良していく。更に、将来的には、安全管理だけでなく品質管理においても活用していきたいと考えている。
「AIあんぜん指示ボット」は、現場の作業予定データと労働災害の過去事例を活用したシステムだが、社内には依然として有用なデータが多く蓄積されている。それらのデータを活用しやすい状態に整理することで、より良い建物を安全に造ることができる環境を整えていきたいと考えている。