建築設備耐震設計・施工指針とは?2025年時点での最新版(2014)をプロ視点で解説【BIM情報も】

建築設備の耐震設計は「建築設備耐震設計・施工指針」という基準にもとづいて検討を進める必要があります。2025年時点での最新版は2014年であり、外部のガイドラインなどと組み合わせながら、耐震クラスやBIM業務などに対応していかなければなりません。
そこでこの記事では、2014年版の指針の概要を説明したのち、BIMでの活用方法まで、現場目線でわかりやすく解説します。
目次
建築設備耐震設計・施工指針とは?
出典:日本建築センター「建築設備耐震設計・施工指針2014年版」
「建築設備耐震設計・施工指針」は、建築設備における耐震性の確保のために、次のような技術的な基準がまとめられた耐震設計・施工の指針です。
- 空調
- 電気
- 衛生設備
- 施工精度
阪神淡路・東日本大震災でも非構造部材の脱落による二次災害が報告されており、地震力×非構造部材を計画的に制御する必要が生じ、当指針が生まれました。
また、この指針は日本建築センター(BCJ)が監修しており、耐震設計の基準や計算方法、施工上の留意点が明文化されているのが特徴です。
一般価格(税込) | 7,700円 |
サイズ | A4 |
ページ数 | 336ページ |
発行所 | (一財)日本建築センター |
監修 | (独)建築研究所 |
初版発行日 | 2014年09月25日 |
指針の目的と適用範囲
「建築設備耐震設計・施工指針」は、主に次の目的で作成されました。
- 地震時における設備損壊・落下による人的・機能的被害の最小化
- 公共施設や医療施設など重要建築物の機能継続
また、設備設計・施工では、以下の設備が検討対象となります。
分野 | 主な対象設備 |
機械設備 | 空調配管、ダクト、消火設備、給排水設備 |
電気設備 | 照明器具、非常電源設備、弱電機器 |
建築付属設備 | パーティション、天井下地、サインなど |
建物や施設内部の設計に欠かせない指針であることから、耐震設計・施工業務に当たるうえで、内容の理解が欠かせません。
また建築設備の概要からチェックしたい方は、以下の記事がおすすめです。
なぜ2014年版が現時点での最新版なのか?【誤解注意】
当指針についてWeb検索をすると「2022年版」「2024年版」などのキーワードが流通しています。ですが実際には、日本建築センターが2025年時点で公表する最新版は2014年版です。
ではなぜ、このような検索キーワードが表示されるのでしょうか。その理由は、当指針に関連する以下のような周辺ガイドラインの整備・補足資料が増えているためです。
名称 | 内容 | 発行元 | 発行年 |
建築設備システム耐震設計・施工機能確保ガイドライン | 地震時の機能保持に焦点 | JABMEE | 2023年3月 |
建築設備設計・施工上の運用指針 | 設備全般に関する設計指針 | 日本建築設備・昇降機センター | 2024年 |
2025年現在、設備関連の耐震設計・施工は2014年版の指針をベースに、最新の技術情報や施工事例を組み合わせて使うのが基本です。
2014年版だけでは、最新のBIMや4Dシミュレーションに対応できないため、上記のような資料と組み合わせながら、検討を進める必要があります。
耐震クラスとアンカーボルトの基本設計
建築設備耐震設計・施工指針では、設備機器の「重要度」「設置環境」に応じて、耐震クラスを3段階に分類し、それに応じたアンカーボルトや支持金具の設計方法を明記しています。
耐震クラスの概要表
耐震クラス | 主な対象建築物 | 必要な措置 |
クラスS | 災害拠点病院・防災拠点 | 二重支持、アンカー強度確認必須 |
クラスA | 公共施設・学校等 | ワイヤ振れ止め、剛性固定 |
クラスB | 一般的な事務所・店舗等 | 吊りボルトなどによる標準固定 |
たとえば、クラスSでは、天井下の照明器具・空調機器などに二重固定と支持力検証が求められます。対してクラスBでは、標準的な吊り支持で問題ありません。
また、アンカーボルトの設計には、引張・せん断力に対する耐力計算が必要です。指針では「JIS B 1178 機械用アンカーボルト」などの規格にもとづき、施工管理や試験方法も定められています。
BIMで読み解く「建築設備耐震設計」
従来、耐震設計は紙図面や2DCADで進めるのが基本でした。
対して、近年の技術革新によって生まれたBIM(Building Information Modeling)により、近年では「支持金具の配置」「構造部材との干渉確認」などを、パラメトリックデザインとして、3D上でシミュレーションできるようになっています。
以下より、建築設備耐震設計における実務的なBIM活用のメリットをまとめました。
BIMでできること|干渉チェック・耐震計算
建築設備のBIMモデルでは、設計対象の設備と、建物の「柱」「梁」「壁」などの構造体が干渉しないようにする干渉チェック(クラッシュチェック)の機能が搭載されています。
たとえば、AutodeskのNavisworksなどの専用ソフトを用いれば、施工前にモデル上で干渉箇所の検出が可能です。3DのBIMモデルとして視覚的に情報をチェックできることから、施工時の手戻りや設計変更のリスクを最小限に抑えられます。
さらに近年では、設計作図で用いることの多い「Revit」「Archicad」といったBIMソフトで作成した設備モデルに対し、耐震補強部材(アンカーボルトや振れ止めなど)をテンプレート化して配置する手法も一般化しています。耐震計算に必要な荷重条件や重心位置の可視化が容易になり、設計の精度向上と工期短縮の両立が実現しやすくなりました。
施工前の耐震検証|4D・5D BIMによるスケジュール安全性検討
BIMソフトでは、施工スケジュール(時間軸)と3Dモデルを組み合わせる「4D BIM」を活用できます。いつ・どの工程で・どの耐震部材を設置すべきかを、施工前に可視化して計画できるようになりました。
さらに「5D BIM」では、コスト情報をモデルに連携させて、耐震補強材の数量算出や原価管理も正確に行えるようになります。これらのBIM技術を組み合わせることで、以下のような実務的効果が期待できます。
- 耐震部材の設置時期や手順を事前にシミュレーション可能
- 作業工程の干渉・重複を防止
- 工期の短縮と安全性の両立が図れる
- 材料数量・コストの無駄を削減
施工前の段階で一元管理ができるため、時間や手間のかかる大規模施設・公共建築では、耐震性能の確保と工程管理を両立させる手法として、4D・5D BIMの導入が急速に進んでいます。
また、BIMに関連する建設DXの取り組み情報を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
建築設備耐震設計・施工指針のよくある質問
2024年版の建築設備耐震設計・施工指針はどこで手に入る?
現在、最新版として公式に発行されているのは「2014年版」です。2024年版は存在しません。日本建築センター(BCJ)の公式サイトから書籍またはPDFで購入・確認できます。改訂予定は未発表です。
耐震クラスの違いを簡単に知る方法は?
耐震クラスは「建物用途」「災害時の重要性」によってS・A・Bに分類されます。指針のなかにある「適用条件表」を参照すれば、誰でも簡単に判断できます。用途別の早見表もおすすめです。
BIM初心者でも施工指針を活用できる?
活用できます。Revitなどには耐震部材のテンプレートがあり、直感的な配置が可能です。JABMEEやBCJの資料・講習でも初心者向けのBIM活用事例が紹介されており、段階的に習得できます。
まとめ
建築設備耐震設計・施工指針は、非構造部材の安全を守るための基準であり、2025年現在も、2014年版が正式な最新版として活用されています。
また、耐震クラスやアンカーボルトの設計指針は、BIMの普及によってより視覚的・効率的に管理できる時代になりました。まずは公式指針を正しく理解し、BIMや4D/5D活用を通じて、耐震設計を実践的に進めていきましょうトの導入を検討してみるのもひとつの手です。