【第2回 施工BIM特集】BIM援用の典型事例として生産拠点をデジタル革新する“熊谷組”の施工BIMの現在地+展望
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施工BIMの現在地と展望を探索するに際して、典型的な実例として熊谷組の施工BIMの援用状況を報告する。
BIMソフト「Archicad」のベンダーであるグラフィソフトでは、2024年10月18日に「Building Together Japan 2024」を開催、熊谷組の遠藤元樹氏(建築事業本部建築統括部建築DX推進部生産BIM推進グループ副長)が登壇し、「Archicadとともに歩む熊谷組の現在地」と題してBIMの実践事例について講演を行った。本稿では、遠藤氏の講演を施工BIM探索の道標にして論考を進める。
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遠藤氏は、2009年4月に熊谷組のグループ企業であるテクノスペース・クリエイツ東京事務所に入社、工事現場でのCADによる施工図作成に従事した。その後、2014年8月に熊谷組BIMワーキンググループに常駐し、Archicadを中心にBIMの検証を担当した。Archicadの使用歴はArchicad17から8年に及ぶ。2019年4月には、熊谷組生産BIM推進室に転籍し、以降、施工BIMの推進とテンプレートの作成・管理、GDLオブジェクトの作成などを担当している。
講演では、BIMモデル作成から仮設検討・コンクリート数量算出・配筋検討などを実施し、工事現場へのBIM導入100%を目指して活動している現状を報告、合わせて施工BIM活用の事例や教育・推進体制などについても紹介している。
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目次
Archicadを主軸とした全社展開により19年度のBIM普及率50%を起点に21年度には100%達成
本題、施工BIMの探索に入る前に、熊谷組としてのBIM導入の推移を見てみよう。情報源(初出)は、2022年10月22日発行の日刊建設工業新聞「デジタルで建設をDXする・80/樋口一希/熊谷組が統合型職場管理システム導入」である。
熊谷組では、2013年度にBIM推進グループを発足、BIMソフトの検証を実施し、2016年度に建築事業本部建築技術統括部に生産技術部生産BIM推進グループを設置して一部工事現場作業所での施工BIMの試行を開始した。2018年度には建築事業本部建築技術統括部に生産BIM推進室、設計本部に設計BIM推進グループを設置、Archicadを主軸とした全社展開を行っている。
2019年1月には、BIMサービス・プロバイダーのグローバルBIM社に対して全社BIM展開のコンサルの要請が行われ、3カ年計画を目途にBIM普及ロードマップ策定、教育計画立案、インフラ計画立案を進めた。計画1年目の19年度には全社BIM普及率50%、20年度には全社BIM普及率80%を達成し、各支店でのBIM集合教育も22回の実施を数えた。21年度には全社BIM普及率100%を達成している。
支援内容は基本モデルの作成・展開+現場の使い方提案・相談+テンプレートルール作成+教育
遠藤氏の講演「Archicadとともに歩む熊谷組の現在地」からいくつかテーマを絞って概説する。
BIM支援体制の実際から論考する。熊谷組では、現在、設計BIM推進グルーブ5名、施工BIM推進グループ11名、鉄骨エンジニアリンググループ10名のBIM要員からなる支援体制を編成しており、グループ企業のテクノスペース・クリエイツでは、6名のBIM要員がBIMモデル作成業務を一手に担っている。BIMの援用については、全社的にBIM支援対象案件を策定しており、原則として受注金額5億円以上、新築・単独またはJVスポンサーの全ての案件=年間40件程度の新規案件を対象としている。合わせて、これ以外にも、BIM援用の効果が顕著である改修案件やBIM採用に積極的な工事現場については、BIM支援対象案件としている。
支援内容は、大別して基本モデルの作成・展開、現場の使い方提案・相談、テンプレートルール作成、教育となっている。
基本モデルは、設計図ベースの簡易的なBIMモデルで、構造・外装・敷地+一部の内装・設備から構成されており、この基本モデルに基づき現場への支援を行う。具体的には、BIMで何ができるのかを明らかにするべく現場に対して支援項目を列記し、現場に選択してもらうBIMメニューを提示する。その後、現場とのキックオフ会議を経て、誰が、いつ、どんな目的で、何をやるかを記載したBIM実行計画書を策定する。
テンプレートについては、Archicadでは、購入時、初期に用意されたものでも効果を発揮するが、支援対象案件数が増えるなどの中で、全社的に統一することでより効果を上げるため、レイヤーやお気に入りなどを最適化するべくルールを策定している。
教育については、新入社員研修時に、建築系の全社員を対象としてBIMの基本操作を教えている。一方で、それだけでは実践的なBIM活用には繋がりにくいので、現場の若手社員を少人数編成で本社に招集し、※OFF-JT教育を行っている。具体的には、2〜4人の少人数で一週間、Archicadの基本操作の再確認とグローバルBIM社のアドオンソフトSCP(smartCON Planner)の操作を学ぶ。特筆できるのは、SCP(smartCON Planner)の操作を学ぶことによって建築物本体のBIM援用だけでなく、仮設検討時のBIM援用までを習得できる点だ。
よくある質問、説明を求められる機能などについては、動画マニュアルとしてとりまとめ、イントラ内で全社員がいつでも閲覧できる方式で社内公開している。
※OFF-JT: Off-the-Job Trainingの略。日常業務を通じて教育を行うOJT(On-the-Job Training)に対して職場や日常業務から離れて特別に時間や場所を設定して行う教育・学習のこと。
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情報が曖昧な時点での仮設作業を迅速かつ正確に行うアドオンソフトSCP(smartCON Planner)
施工BIMの実施例として、新那覇市立病院(仮称)の駐車場に病棟を新築する居ながら工事を取り上げ、施工BIM援用の実際を報告している。施工BIMについては入札時から採用している。本件では、入札時に正確な敷地情報などが図面データとして入手不可であったため、その時点での情報を基に簡易で粗いBIMモデルを作成し、SCP(smartCON Planner)を用いて、全体の揚重計画、仮設計画、外部足場計画を策定、足場の概算数量を算出している。特に重機については、どの位置で、どの程度の部材が吊り上げられるのか、駆動範囲はどの程度なのかが事前に判定できるので便利である。それら情報が曖昧な時点での仮設工事を迅速かつ正確に行う際に威力を発揮するのがアドオンソフトSCP(smartCON Planner)だ。
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施工BIMによる3次元モデルを前提とした総合仮設図で従来の2次元のステップ図を革新
ステップ図とも呼称される総合仮設図は、[2工区 1節 建方][ 2工区 2節 建方]というように工事の進捗状況をあるタイミングごとの時間軸で表現する。従来は、2次元の平面表現であったため、時間軸方向には、着工から竣工まで配置されるクレーンを全部、描き入れ、高さ方向には、配置平面図を圧縮したような表現となっていた。そのため総合仮設図を読み解くには豊富な現場経験が必要であるなど、2次元の平面表現そのものに無理があった。施工BIMによる3次元モデルを前提とした総合仮設図を用いることで、工事の進捗に追随して、重機や構台の位置は何処なのか、安全通路は何処にあるのかなどが検証できる。
本件では、現場のデジタルサイネージに総合仮設図を表示し、関係者間で情報共有している。それによって工事の進捗が優れて見える化でき、次の手順を意識した上で、安全で効率的な現場運営を可能としている。近隣住民への配慮として3次元モデルを用いた総合仮設図を動画で作成し、仮囲いの外側にデジタルサイネージで表示するケースもある。
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成功した現場事例を社内メルマガなど周知してBIMは効果がありそうだとマインドチェンジ
新那覇市立病院(仮称)は他社設計ではあったが、設計者もArchicadを使用していたため、設計BIMモデルを施工BIMモデルへと展開し、設計変更時の変更点の整理、数量の変化の把握などに活用している。Archicadのリノベーション・ステータス機能を使用すれば、例えば、窓の数量増減や仕様変更など、原設計と変更案を切り替え、変更前後の状況把握も視覚的に可能だし、当然、履歴もとれる。
本件においては、BIM援用に極めて熱心であり、現場の副所長自らがArchicadを操作し、BIMモデルの編集なども行った。一方で、現実的には、このようにBIM援用に熱心な現場だけではない。更なる支援体制の強化を目指している。
BIM援用に熱心な現場に対しては、より高いレベルへ挑戦できるよう支援強化と環境整備を行い、より実利的な効果が生まれるよう誘導している。BIM援用に消極的な現場に対しては、成功した現場で何が行われたのかなどを社内メルマガなども利用して周知している。合わせて前述した社内教育の場へ参加してもらい、BIMは難しそうだとのマインドから、BIMは使えそうだ、効果がありそうだとのマインドチェンジを促している。
次なる課題として明らかとなった施工図+設計・施工連携+積算・製作+生産プロセス改革
「熊谷組の施工BIMが目指す先」と題してして次なる課題について言及している。その前に、施工BIMの現状のとりまとめについて、前述した日建連の「施工BIMの活用ガイド」を参照して明らかにされた。
「施工BIMの活用ガイド」には、10項目からなる「施工BIMの活用項目」がまとめられている。現場によって濃淡はあるものの、熊谷組では、それら10項目については、概ね、実現、達成している。今後は、各現場において、「施工BIMの活用項目」の達成を目途として施工BIMの横展開を計っていく。
BIMを援用する次なる課題としては、施工図、設計・施工連携、積算・製作、生産プロセス改革の4項目が明示されている。設計者は、創る=設計BIMにおいて、建築主の要求を設計図書(設計BIM モデル)に翻訳し、次いで施工者に対して工事に必要な情報を提示する。それを受けて施工者は、建てる=施工BIMとしてリアルに建てるための生産情報を付加していく。その際に必須となるのが施工図(施工BIMモデル)だ。そのため施工図(施工BIMモデル)には、より高度なBIMモデルとしての精度、図面表現が求められる。
施工図(施工BIMモデル)では、第一に、最終的な数値(寸法)を決定する正確性が求められる。次いで、工事に必要な情報を網羅した密度(LOD=モデル詳細度)が求められる。そして、現場の進捗と共に、日々変わる状況に対応する修正即応性が求められる。
施工図(施工BIMモデル)への対応としては、ArchicadのACUG施工図WG(アーキキャド施工図ワーキンググループ)を立ち上げるなど、業界横断的な活動も行っている。25社の企業・個人が参加するACUG施工図WGでは、ひとつのサンプル案件を基に施工図(施工BIMモデル)を作成し、その過程で発生する課題、ノウハウなどを共有し、成果とするべく試行錯誤している。
設計・施工連携については、業務ワークフロー全体、組織全体に跨る課題であるため、現実的に解決できる対策から着手している。従来、設計テンプレート、施工テンプレートと分離して運用していたが、設計と施工の情報双方を網羅したマスターテンプレートを作成し、その後、設計と施工、それぞれの情報を有する設計テンプレート、施工テンプレートを発生させる方法としている。現在、この方法を設計施工案件に適用しており、設計BIMから施工BIMへと順調に引き継げるか検証している。
積算・製作についても検証を続けている。BIMモデルは、形状、数量、仕様などの情報を有する。そこから必要な情報を参照し、金額を算出するのが積算であり、生産に結びつけるのが製作である。積算に関しては、BIMモデルのルール化が極めて厳密に行われていないと、正確な数量が算出できないなど、運用の課題解決が俎上に上がっており、継続して実現へ向けて模索している。製作に関しては、工種を限定してチャレンジしている。内装の壁のLGS(Light Gauge Steel: 軽量鉄骨下地材)とボードをBIMモデルから製作に回し、プレカットして現場に搬入する手法だ。同時にAW(Aluminum Window: アルミ製窓)、SD(Steel door: スチールドア)、鉄筋など別の工種についてBIMモデルから製作に回せないか検討している。
生産プロセス改革は、BIMを用いて、建設のワークフロー全体をいかに変革するのかという課題であり、企業としてDX戦略をいかにして進めるかという大きなテーマでもある。
それらの課題を解決するためには、個々の局面ごとにBIMを運用する従来型の情報の流れ(ウォーターフォール型)から、BIMと連携した共通のデータ基盤=データベースから情報を取り出し、運用するコンカレント型への転換が求められている。
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【予告】施工BIM特集 次回は…
施工BIM特集 第三回は2月19日(水)掲載予定です。