「炭素固定」を分かりやすく解説|建設業での事例紹介

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著者:小日向

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「炭素固定」についてピックアップします。地球温暖化が課題となっている中で、炭素固定が注目されています。本記事では主な手法の紹介や、建設業での取り組み事例についてまとめています。

炭素固定とは|カーボンニュートラルの実現

炭素固定とは、大気中や水中に存在する二酸化炭素(CO₂)を有機物として取り込むプロセスのことを指します。近年では温室効果ガスによる気候変動が社会的な課題となっており、改善が急がれています。

大気中のCO₂を吸収して有機物として保持することで、温室効果ガスの増加を抑える効果が期待されます。炭素固定は地球規模での炭素循環の重要なステップでもあり、土壌や海洋への炭素の蓄積にも寄与しています。

林野庁の炭素固定量ガイドライン

出典:林野庁,ガイドラインの事例,https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/mieruka.html,参照日2024.12.17

林野庁では『企業による森林づくり・木材利用の二酸化炭素吸収・固定量の「見える化」ガイドライン』を作成し、建築物による炭素貯蔵量の算出方法等について示しています。具体的には建築物に利⽤した⽊材に係る炭素貯蔵量を、分かりやすく表⽰する方法を示しているのが特徴です。

上図は三井ホームによる木造高層マンション「MOCXION」の事例で、「炭素貯蔵量:約740t-CO2」となっています。このように民間事業者や行政が建設した木造建築物や地方公共団体における認証など、ガイドラインの活用が広がっています。

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「炭素会計アドバイザー」資格も登場

出典: 炭素会計アドバイザー協会,炭素会計アドバイザー資格,https://www.caai.or.jp/licence/index.html,参照日2024.12.17

環境意識の高まりの中で「炭素会計アドバイザー」の注目度がアップしています。こちらはCO2排出量の算定や情報開示に対応できる人材を育成するために設立された資格で、脱炭素経営における重要なスキルを体系的に学ぶことを目指しています。

資格は「3級」「2級」「1級」「Professional」の段階に分かれており、試験内容は多岐選択式や計算問題が中心です。3級試験では約90分で50問、合格基準は約75%とされています。また講習には動画やテキストの学習が含まれ、受験者は環境省の「脱炭素アドバイザー ベーシック」としての認定も受けられます。一般の企業担当者、金融機関職員、コンサルタントなど、幅広い層におすすめです。

炭素固定の種類①自然的手法

ここでは、炭素固定の「自然的手法」に関する種類についてご紹介します。

森林・植物

植物は光合成を通じて大気中のCO₂を取り込み、糖やセルロースなどの有機物に変換します。このような自然サイクルの過程で、炭素が樹木や土壌に蓄積されます。

また森林は地球上の陸域炭素貯蔵量の約80%を占めるとされ、気候変動緩和の重要な役割を担っています。森林を計画的に伐採・再生することで、長期間にわたる炭素固定を促進できます。

海洋プランクトン

海洋表層に生息する植物プランクトンも光合成を行い、CO₂を固定化しています。固定された炭素の一部はプランクトンの死骸として海底に沈降し、長期間にわたり貯蔵されるのです。

海洋は地球上の最大の炭素貯蔵庫であり、大気中のCO₂を吸収して固定する役割を果たしています。特に鉄や窒素などの栄養素が豊富な海域では、プランクトンの炭素固定能力が高まります。

炭素固定の種類②人工的手法

ここでは、炭素固定の「人工的手法」に関する種類についてご紹介します。最新技術により、炭素を効果的に固定することが期待されています。

物理吸着

物理吸着では、特定の材料(多孔質素材など)を用いてCO₂を物理的に吸着します。圧力や温度の変化を利用して吸着・脱着を繰り返し、CO₂を回収します。

こちらはプロセスが比較的単純で、エネルギー効率が高いのが特徴です。ただし吸着材の劣化やコスト、吸着容量の限界といった点が課題です。

化学吸着

化学吸着では、化学反応を利用してCO₂を固定します。主にアミン系溶液(モノエタノールアミンなど)が利用され、CO₂と化学反応して安定な化合物を形成する仕組みです。

化学的に結合したCO₂を熱や圧力で解放することにより、再利用が可能です。高濃度のCO₂を効率的に吸着できますが、使用される化学薬品の毒性や腐食性、エネルギー消費の高さといった課題が残っています。

炭化

炭化とはバイオマスなどの有機物を高温で処理し、炭素を安定した固体(バイオチャー)として固定する方法です。有機物を炭化(熱分解)することで、長期間分解されにくい炭素形態に変換します。 固体炭素は土壌改良材としても活用可能で、広く活用されています。

地中貯留、海洋隔離

地下貯留や海洋隔離とは、CO2を地下の地質層に注入することで長期間にわたって安定的に貯留する方法のことを指します。大量のCO₂を長期間安定して貯留可能であり、海底に「湖」のようにCO₂を溜める方法や、鉱物反応を活用して固定化する方法が検討されています。

ただし貯留可能な地質構造の選定や調査のコストといった課題や、漏洩リスクや地震活動への影響といった心配があります。実用化には至っていないものの、理論的な可能性や影響評価が進められている段階です。

建設業での炭素固定の事例

ここでは、建設業における炭素固定の事例についてご紹介します。建設業は特にCO2排出量が課題となっている産業ですが、大手ゼネコンでは環境に対する取り組みが積極的に行われています。

清水建設|m-DAC技術の都市実装

出典:清水建設,大気から二酸化炭素を直接回収・利活用するm-DAC技術の都市実装を開始,https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/2024044.html,参照日2024.12.17

清水建設は、双日、Carbon Xtractと共同で東京都のm-DAC事業に取り組んでいます。具体的には建築構造物内などで、二酸化炭素(CO2)を大気から直接回収してさまざまな用途で利活用するシステムの都市実装を実施します。

実証実験は段階的に進められ、まずは回収したCO2を施設内に設置予定の植物栽培プラントで活用し、植物の光合成を促進する計画です。その後は複数の事業での利活用を検討しており、双日の広範な事業分野と企業ネットワークに基づいた新たなパートナーとの事業創出も含めて、多様な可能性を検証していく予定です。

鹿島建設|低炭素型「ECMコンクリート」をダムに導入

出典:鹿島建設,低炭素型コンクリート「ECMコンクリート」を成瀬ダム堤体へ本格導入,https://www.kajima.co.jp/news/press/202412/3c1-j.htm,参照日2024.12.17

鹿島建設は、秋田県の成瀬ダム堤体打設工事において、低炭素型コンクリート「ECM(エネルギー・CO2ミニマム)コンクリート」をダム堤体と造成岩盤コンクリートの一部に導入しました。これにより、本ダムの建設工事に伴い発生するCO2排出量を「73t」削減しました。

ECMコンクリートは、普通セメントの代わりに高炉スラグ微粉末を60~70%混合したECMセメントを使用しているのが特徴です。一般的なダムコンクリートに用いられる中庸熱フライアッシュセメントと比べて、製造時に排出されるCO2を52%削減できます。また発熱量が小さく、優れた温度ひび割れ抵抗性も有しています。

大成建設|コンクリートにCO2固定「T-Carbon Mixing」

出典:大成建設,コンクリート練混ぜ時にCO2を噴霧し固定させる技術「T-Carbon Mixing」を開発,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2023/230116_9230.html,参照日2024.12.17

大成建設は、CO2を固定させる技術である「T-Carbon Mixing」を開発しました。これはコンクリート製造工程の練混ぜ時にCO2を直接噴霧して、コンクリート内部にCO2を固定させる仕組みです。

コンクリート製造時の練混ぜ方法を工夫することで、アルカリ性を保持しながらCO2を固定させることが可能になりました。これにより、コンクリート1m3あたり約10kgのCO2を固定できます。

まとめ

CO2等の温室効果ガス削減には、炭素固定が有効な手段となります。最新技術の発達により、建設業でも炭素固定の取り組みが実施されています。カーボンニュートラルの実現のためにも、さらなる発展が期待されます。