建設業でも広がる、高度技能人材の「プロシェアリング」とは?実際の事例もご紹介。
デジタルツインは、IoT機器を活用して現実空間にある建物や周辺環境をデジタル空間で再現するものです。BIM/CIMと連携して使用され、大手ゼネコンでは、プラットフォームを通してデジタルツインを活用しているというケースも多いでしょう。
そして、能登半島の災害状況に対しても、デジタルツインで再現することで、今後の復旧に役立てる取り組みが行われています。本記事では、テクノロジーによる高度人材のシェアに対する取り組みについて詳しくみていきましょう。
目次
建設業界で進むテクノロジーによる高度技能人材の確保と共有
ここでは、建設業界でテクノロジーによる高度技能人材の確保と共有が進んでいる理由やプロシェアリングの活用事例について解説します。マッチングサービスやフリーランスプラットフォームなどを活用し、期間限定で必要な人材を確保する動きが建設業界においても増加している傾向です。
建設業界には高度技能を持つ人材が足りない
建設業界では、人材不足が深刻化しており、高度技能を持つ人材が足りない状況にあります。たとえば、BIMと連携したデジタルツインでは、建築物の設計データを活用して精密な仮想モデルを作成し、施工や維持管理に活かす技術力が大切です。
そのため、専門的スキルを持つ人材が必要です。また、社内で人材を育てるまでには時間がかかるだけでなく、労働環境やこれまでの慣習から若年層が選びにくい業界となっている点も課題だといえるでしょう。
そのうえで、産官学連携によって、自社に不足しているノウハウやスキルを持つ人材を他企業や教育機関から拡充するという仕組みが建設業界でも浸透しつつあります。たとえば、遠隔地からのドローンの操作や計測、重機操作、進捗管理も実現できる環境になりました。企業間の人材による技術協力も増加しています。今後は、高度技能を持つ人材をシェアする動きも加速していくでしょう。
プロシェアリングの活用
プロシェアリングは、期間限定で社外から必要となる人材を確保する仕組みです。ある土木工事会社では、高齢化による技術者の退職によって人材不足に陥っていました。社内で一定のスキルを持つ人材も存在したものの、受けられる工事数が減少傾向になっていた状況でした。そのため、プロシェアリングを活用し、必要な人材を定義したうえで採用活動を開始しています。
専門的な知見を持つ人材に、採用計画や採用要件作りをサポートしてもらったことで、応募が皆無の状態から半年で複数人の人材を採用できています。
大林組とKDDIがドローンによってデジタルツインを実現
2024年9月11日から、大林組とKDDIスマートドローンが共同で能登半島の災害状況をデジタルツインで再現し、今後の復旧に活用する取り組みをスタートしています。取り組みの具体的な手順は、次のとおりです。
- KDDIスマートドローンが充電式ドローンを遠隔操作し、撮影データを収集する
- 衛星通信網「Starlink」経由でクラウドにデータをアップロード
- 写真から現場の状態を表すデジタルツインやパノラマ映像を作成する
大林組は道路工事を担当しているものの、現場作業員のみでは計測が行えない状況となっていました。そのため、充電式ドローンを用いて、土量計算や工事出来高管理を行っています。人力では不可能な計測業務を他社の技術を用いて計測可能にし、業務を遂行しているといえるでしょう。
KDDIに関しては、2024年10月に石川県と「創造的復興の実現に向けた包括連携協定」を結びました。ドローンを配備した地域防災コンビニの展開や地域経済の活性化に向けてKDDIアジャイル開発センターの開業を進めていくことを発表しています。
大林組のデジタルツインへの取り組み
大林組は、TISグループと共同でデジタルツインアプリの開発に取り組んでいます。デジタルツインアプリは、シンプルな操作でデジタルツインを実現できることに加え、ネットワーク経由で動作するため、高性能のハードウェアを必要としません。
能登半島における国道249号線の工事においても、ドローンの遠隔操作で情報を収集し、デジタルツインの環境を構築しています。また、通信環境を整えることで、現場にいなくても情報収集がある程度可能になっているといえるでしょう。
そのため、今後は災害規模の把握から復興にいたるまで、デジタルツインを活用できる場面は増加していくと予想されます。
大林組とTISグループのデジタルツインアプリの詳細はこちらをご覧ください。
建設業における高度人材共有と確保の事例
建設業界においては、災害の復興支援に限らず、高度な技術を持つ人材が不足しています。たとえば、BIM/CIMに詳しく環境を整備できる人材やデジタルツインの環境を実現できる人材は大手ゼネコンでも取り合いになるレベルだといえるでしょう。
そのうえで、ここでは、建設業における高度人材の共有と確保の方法についてみていきます。
高度外国人材の活用
ある建設会社では、技能のある人材が不足しており、新しい工事の受注が難しい環境となっていました。また、社内ではDX化を推進していたものの、デジタルツインやBIM/CIMの導入はできていない状態です。
そのため、専門的知識を持つ高度外国人材の採用を進め、社内体制の整備に取り掛かりました。5年間という期限はあるものの、スキルや知識を持った人材にサポートにより社内のDX化が進みました。結果として、人材不足の解消につながり、現在では新しい工事の受注数増加や生産性向上にもつながっています。
業務のアウトソーシング
建設業界においても、事務作業や設計作業は業務のアウトソーシングが進んでいます。たとえば、進捗管理や労務管理をアウトソーシングすれば、業務効率化や専門性の向上につながるでしょう。
また、現場単位で考えがちなスケジュール管理やコスト管理なども、外部のプロジェクトマネジメント会社に依頼することによってスムーズな調整が可能です。設計補助の場合は、図面のスピーディーな制作やBIM/CIMのモデリング依頼などでもアウトソーシングを活用できます。データのセキュリティ管理や情報管理体制などには注意が必要であるものの、スムーズな業務遂行手段の1つだといえます。
まとめ
建設業界における高度技能を持つ人材の共有と確保は進んでいます。能登半島では、大林組とKDDIが連携し、ドローンとデジタルツイン技術を活用しています。実際に、災害現場の状況を再現することで、人力では難しい計算や出来高管理ができるようになるため、復旧支援に役立っているといえるでしょう。Starlinkを活用することで、災害地でも迅速にデータを収集・共有できる環境を整えられました。
そして、デジタルツインやBIM/CIMを活用する高度な技術人材の確保方法が今後の業界発展に影響するといえます。たとえば、プロシェアリングや外国人材の活用、業務のアウトソーシングは、人材不足や業務効率化の重要な解決策です。今後も高度技術人材がどのように採用・シェアされるのかにも注目していきましょう。