鴻池組のBIMの経過と現況、今後の新たな方向性について|深堀り取材【毎月更新】
建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度が本格化しています。第30回は、鴻池組のBIMの経過と現況、今後の新たな方向性について解説します。
目次
- 鴻池組の10年にわたるBIMの取り組みと今後の展望
- 最初にBIMのメリットとして明らかとなった容積率の確認など設計情報の共有・見える化
- 即座に運用出来る施工現場のICT連携
- 設計施工の各フェーズでのBIM援用の成果をエビデンスに基づき組織内で共有・見える化
- 地上での3次元スキャン+ドローンでの空撮で得られた点群データを改修工事などに活用
- 「これからのBIM」に必須なBIMデータプラットフォーム構築を担うマトリックス戦略
- 建設現場の革新を目指しロボットと人間が協働する未来「鴻池組ロボットパーク」本格始動
- スロープや不整地を自在に移動する四足歩行ロボット+匠の技を再現した鉄筋結束ロボット
- 「人間にしかできない仕事」と「ロボットが得意な作業」を明確に分けて積極運用を志向
鴻池組の10年にわたるBIMの取り組みと今後の展望
鴻池組の大阪本社を訪ね、黎明期のBIM状況を「BIMソフトと設計者の連携」として建築関係のメディアで報告したのは14年4月であった。その後の動向を追跡取材する中で、2023年7月5日に愛知県産業労働センターで開催された内田公平氏(建築事業総轄本部工務管理本部技術統括部ICT推進課課長代理)氏の講演「鴻池組のICT/BIM活用事例~今までのBIM・これからのBIM~」を経て、直近の「鴻池組ロボットパーク」本格始動に至るまで、10年余を経た鴻池組のBIMの経過と現況、今後の新たな方向性について報告する。
最初にBIMのメリットとして明らかとなった容積率の確認など設計情報の共有・見える化
鴻池組では、2013年にICT推進課の前身であるBIM推進課を立ち上げ、設計段階でのBIM援用を進めた。設計者の試用を経て、設計者自らが使うBIMソフトとして福井コンピュータアーキテクトの「GLOOBE」を選定、BIMソフトの運用、管理システムを構築し、スキルアップ教育にも着手している。
最初にBIMのメリットとして設計情報の見える化と共有が明らかとなる。BIMモデルを構築し、ボリューム検討からパース作成を行う過程で、即座に面積・容積率の確認やチェックが可能となり、設計品質の向上が実現した。建築基準法に付随する日影・天空率・逆日影計算などが「GLOOBE」内で可能となり、設計効率も改善されていく。構造計算に基づき構造モデルを構築、プレゼンツール「リアルウォーカー」に展開、構造の課題を早期に発見するなど、3次元モデルの見える化効果を最大限に活用した。
即座に運用出来る施工現場のICT連携
総合建設業として設計から施工へと一貫してBIMを援用し、他のデジタル技術(ICT)と広範に連携するため17年にICT推進課を設立した。ICT推進課では、日本建設業連合会主宰の「魅力ある建築生産の場づくり・人づくり」をテーマにしたアイデアコンペで「Craftsman NEO(クラフトマンネオ)」を発表し、高い評価を得た。25年の大阪万博を目途に、ICT技術と古来からの匠の技を組み合わせ、伝統技術を新たに生まれ変わらせる挑戦だ。そこでは、コミュニティーツール、ロボット、AI、ドローン、3Dプリンタ、クラウド、ウェアラブル端末、スマートグラスからなる先端技術を用いた建設業の未来像を提案している。
設計施工の各フェーズでのBIM援用の成果をエビデンスに基づき組織内で共有・見える化
設計フェーズでのBIM援用案件においては、エビデンスに基づき組織内で成果を共有し、見える化するべくモデル作成、一般図作成、申請図作成、実施図作成、干渉チェック、デザイン検討、シミュレーション、3D模型、モデル合意、パース作成、アニメ作成、VR利用、構造積算渡し、統合モデルの14項目からなる案件追跡表を整備している。
施工フェーズでのBIM援用案件では、仮設、解体、杭・掘削・山留、基礎・逆打、RC躯体、免震、鉄骨、外壁・外部建具、設備、昇降設備、内装・内部建具、シミュレーション、外溝、VR、3Dプリンタの16項目を設定、施工現場ごとの動向から個々の現場での取組状況までを見える化、共有している。
地上での3次元スキャン+ドローンでの空撮で得られた点群データを改修工事などに活用
国土交通省による「i-Construction」での点群データの活用推進を受けて、ICT推進課においてもBIMと他のデジタル技術(ICT)を連携するBIM/ICTともいえる技術領域の援用が進んでいる。点群データの活用が急進する背景には、点群アシスト機能追加という「GLOOBE」の改良も寄与している。
地上からの3次元スキャンでは、現況の躯体を残した状態を撮影し、設備の検討を行うなど改修工事に利用している。精度確認(出来形確認)時には、点群データとBIMデータの比較や点群データと図面データ(断面・展開など)の重ね合わせに利用する。ドローンの空撮は、敷地内の土量の確認に有効で、点群データと敷地図を重ねて配置検討や建物確認(図面との差異)にも利用している。
「これからのBIM」に必須なBIMデータプラットフォーム構築を担うマトリックス戦略
10年間に及ぶ鴻池組のBIM援用を「今までのBIM」として報告したが、続けて「これからのBIM」について概説する。講演の冒頭で内田公平氏は、本社のデジタル戦略室デジタル戦略部デジタル戦略課を兼務すると発言している。内田公平氏が担う新たな職能を通して鴻池組が目指すデジタル戦略を紐解きつつ、総合建設業におけるデジタル戦略とは何かを俯瞰してみよう。
BIMの推進と共に、建設プロジェクトに関わる情報の見える化と共有が実現し、中でも図面・工程間の整合性の確保は、大きな成果として現実のものとなった。一方で、二次元図面へのこだわりに見られるように、従来の業務プロセスをそのままデジタルに移行した中途半端なデジタル化となった側面もあった。そこでBIMに象徴される建設のデジタル化は、業務全体に関わるプロセス改革であると宣言し、ICT連携などを推進している。
業務プロセスの改革に着手し、次なるテーマとしてデータベース化とプラットフォーム化を視野に入れる中で、2023年になると人工知能=AI「ChatGPT」が登場し、広く社会全般での利活用が進んでいく。建設分野でのAI=人工知能の利活用を展望する中で、鴻池組ではデータベース化+プラットフォーム化をより進化させるために人工知能=AIを基盤としたBIMデータプラットフォームの構築を計画している。
2030年を目途に、デジタル化した建設業、デジタル・ゼネコンともいえる将来像を現実のものとして結実するために最も重要なのは、人材の育成である。そのためデジタル戦略課では、建設業全般に関わる業務プロセスを横串しとして、それらを多様なデジタル・スキルによる縦串しで貫くマトリックス戦略を立案、それらを担う人材育成を進めていく。
マトリックス戦略を担う人材を、より具体的にイメージしたのが、前述した日本建設業連合会主宰の「魅力ある建築生産の場づくり・人づくり」をテーマにしたアイデアコンペで発表した「Craftsman NEO(クラフトマンネオ)」である。ロボットやAIが人々の生活や仕事をアシストする社会が現実のものとなる中で、建設業においても、コミュニティーツール、ロボット、AI、ドローン、3Dプリンタ、クラウド、ウェアラブル端末、スマートグラスからなるDXツール「Smart Assist Eight」を装備した「Craftsman NEO(クラフトマンネオ)」が活躍することになる。
建設現場の革新を目指しロボットと人間が協働する未来「鴻池組ロボットパーク」本格始動
鴻池組では、8月23日に「鴻池組ロボットパーク」の開設イベントを開催した。「鴻池組ロボットパーク」は、建設業界の生産性向上に寄与するための最先端技術の実証実験を目的としたテストフィールドとなっている。
「鴻池組ロボットパーク」は、大阪府大阪市住之江区南港北に設けられた。多様な路面(コンクリート・砕石・アスファルト)においてロボットの性能を検証できる施設となっており、更に急傾斜や階段など厳しい条件下での動作確認も可能となっている。特に災害現場を想定したがれき環境で緊急時の対応力を強化する目的も設定されている。
スロープや不整地を自在に移動する四足歩行ロボット+匠の技を再現した鉄筋結束ロボット
恒常的で深刻な人手不足に直面する建設業界において解決策として注目を集めるのがロボット技術の活用だ。人間とロボットが協働する新しい建設現場のあり方を探求し、業界全体の課題解決に挑戦する「鴻池組ロボットパーク」。開催イベントで公開された技術は多くの業界関係者からも広く注目を集めた。
四足歩行ロボットがスロープや不整地を自在に移動。これによって危険な現場でも安全に点検作業が可能になり、人間の現場巡察作業を大幅に軽減できる。鉄筋結束ロボット(トモロボ)によって匠の技を再現している。このように熟練工の技をデジタル化することで人手不足を解決するべく高品質な施工を実現できる。
『ロボットパークは、建設業の未来を創造する実験場だ。ここでの取り組みが、建設現場の安全性向上、労働環境改善、そして生産性の飛躍的な向上につながると確信している。私たちは、この施設を通じて建設業界全体の発展に貢献し、社会インフラの持続可能な整備に寄与していく。』(開発者コメント)
「人間にしかできない仕事」と「ロボットが得意な作業」を明確に分けて積極運用を志向
今後、鴻池組では、「鴻池組ロボットパーク」を活用し、最新技術の実証実験を重ね、建設現場に最適な機能の開発を推進、「人間にしかできない仕事」と「ロボットが得意な作業」を明確に分け、両者が協働する新しい建設スタイルの確立を目指す。
更に「鴻池組ロボットパーク」をオープンイノベーションの場と捉え、建設現場の生産性向上と安全性確保を目指し、ロボットメーカーや専門技術を持つ協力会社との連携を積極的に推進、長時間稼働や複雑な現場条件への対応など実用化に向けた課題解決を加速させる。合わせて協力会社との共同開発や実証実験を積極的に推進し、建設業界全体の技術革新を促進、社会インフラの持続可能な整備に貢献していく。
今回の実証実験に際して鉄筋結束ロボット「トモロボ」他においては、建ロボテック社、四足歩行ロボットの遠隔操作や走行試験においては、ポケット・クエリーズ社からの協力を受けている。