現場所長の目線で進める身の丈に合ったDX推進とは ~導入に向けての社内合意のしかた~ |木内建設株式会社          

建設DXは実際の建設現場ではどれほど進んでいるのか?現場はどう思っているのか?
1921年に静岡で創業し、2021年に創業100周年を迎えた木内建設株式会社にその動向を取材しました。

木内建設は静岡県内では工事件数トップクラスを誇り、首都圏においては集合住宅を中心に、また中京圏では集合住宅、病院、倉庫、公共施設等、幅広い実績があります。近年、DX化に積極的に取り組んでいます。今回は首都圏でマンション建設に長らく携わってきた雛田安紀様にお話を伺いました。

インタビュイー紹介

木内建設株式会社
東京本店 建築部 副部長 兼 第三統括課長
雛田 安紀 様

ゼネコン歴30年、所長の立場で感じる今と昔

私が入社したのはバブル後の1990年代前半です。それ以来、木内建設で30年以上現場畑を歩んできました。上司や先輩が華やかな時代を知っている中、その後の厳しい経済状況で現場経験を積んできました。現在にくらべての短工期の現場もあり、業務改善や働き方をシビアに考えながら仕事をしてきたように感じます。その感覚が今のDX導入にもつながっていると思います。例えば、昔から「この作業はもっと効率化できないか、時間ばかりがかかるな」と思っていた業務、仕上げ検査後に皆で夜な夜な図面に手書きでチェックをして色分けして、カラーコピーをする、などです。

最近はそういった長年の自分の悩みをDX化で解決してくれるツール※1が増えてきました。自分自身も所長という立場となり、若手や次世代の建設業界のためにも積極的にデジタルツールを活用できないかと考えるようになりました。

※1 後述の仕上げ検査支援 LAXSY(ラクシー)

コロナ禍が後押しした建設DX

自分自身としても業界としてもDXを加速させたのはコロナ禍だったと思います。あのパンデミックの中、外出自粛や在宅勤務が呼びかけられながらも、現場の工事を止めることはありませんでした。ゼネコン内部でも内勤、設計、営業などは比較的スムーズに在宅勤務などに移行しましたが、現場は止められなかったのです。

自社職員や工事業者の健康と安全に留意しつつ、それまで顔を突き合わせてやっていた定例会議をオンライン会議に切り替えたりしました。その他、DX化できることはさまざまに検討しました。コロナは命にかかわるリスクもあると報道される中、ある意味毎日命がけで現場に通い、DXの必要性を肌で感じ、効率化を考えました。

導入したDXツール4選

コロナ禍を通じて、現在までに導入した主なDXツールは以下の通りです。

仕上げ検査支援 LAXSY(ラクシー)

先述した仕上げ検査業務に特化したDXツールです。仕上げ検査における指摘事項の入力→管理→共有→出力がクラウド上で一元管理できます。それまでは指摘事項をマンションで100戸あればその数だけ、指摘情報を手で記入して、色分けして、コピーして、関係工事業者すべてに配布していました。それが、クラウド上でリアルタイムにできるのは画期的で、作業時間も短縮されました。

職長との作業予定調整支援 Buildee(ビルディー)

担当職員や職長など招集し、戦々恐々と対面でやっていた作業内容、人数、重機・建材の搬入などの確認調整業務。これまでは昼前に始めて、長引くとお昼をまたぐこともありました。本来は12~13時は休憩のはずなのですが、そうなってしまっていました。それをBuildee(ビルディー)ではアプリ上でメンバーが予定入力、調整、管理を一元化できるようになりました。今では、毎日、10時半までに関係者が作業予定を打ち込めば、11時半からの打ち合わせは確認のみですぐに終わるようになりました。昔からの人はこの短縮のありがたさが身に染みてわかりますが、今の若い人にとっては、これくらいは当然のことのようです(笑)。

コンクリート打設の調整業務支援 direct(ダイレクト)

東京ビッグサイトのDX展に足を運んだ際に知ったビジネスチャットツールです。いわゆるLINEのビジネスアレンジ版という感じですが、生コンの打設の段取り調整にとても重宝しています。ご存じの通り、生コン打設は関連業者が7~8社にわたります。工場での製造、出荷、運送、ポンプによる打設、間に入る商社など、そしてなにより雨天など天候との兼ね合いです。関係者が全員一致でOKできる作業日時を決めるために、以前は電話やファックスなどを使っていましたが、とても面倒でした。それをdirect(ダイレクト)を利用することで、関係者の意思確認(既読も誰が既読したかまでわかる)、作業OK日時の確定や資料の共有もリアルタイムにできます。

石膏ボードプレカット生産施工 BuildApp内装(ビルドアップ内装)※実証実験

今回取材のきっかけをいただいた野原ホールディングスさんのDXツールです。これも実はDX展で出会いました。ブースで説明を聞いたとき、「これだ」と後光が差したように強く印象に残ったツールです。これまでは石膏ボードというと、現場での残材、廃棄などが常に多い材料でした。さらに石膏ボードは各現場で必ず使う主食のような建材。個人的には積年のストレスであり、問題意識のあった石膏ボードのロスの解決策を示してくれるものだと、とても期待したツールです。今の現場で導入を始めて、これから結果を見極める※2ところです。

※2024年3月取材時点

導入にあたっての社内合意のしかた

これは本当に難しいです(笑)。現場の若手職員、社内も含めて、導入に興味を示すのは10人に1~2人くらいです。今の多くのDXツールは出始めで、実績もなければ、成果が出る保証もないことと、なにより旧態依然体質が強い業種であることが導入のハードルを高くしていると考えます。なので、社内で導入に向けてプレゼンをしても、皆ピンときません。

私の場合は、身をもって自分の現場で導入して、職員を巻き込んで、結果を出すということをしました。当社の現場DX導入に関してはボトムアップ型です。そこで目に見える成果が出ればそれでよしですが、たとえ、成果が出なかったとしても「何が良くなかったのか」という多くの気づきが会社の財産となり、次へ進めるということを常に社内に説明しながら進めるようにしています。

成果が出たDXツールの中には半年で全社展開、全国の数十物件の進行中物件に採用されたものもあります。

若手への継承                     

最近は他社のゼネコン所長と話す機会もあるのですが、若手に対しての悩みは皆、共通しています。若手は育ちづらい、図面が読めない、などです。ただ若手はDXへの適応スピードは早いし、あっという間にレベル差がつきます。彼らの力をうまく活用しつつ、所長としては陣頭指揮をとり、身をもってDX導入を示したいと思っています。

DXはあくまでツール。ものづくりの精神をサポートしてくれるもの

DXの導入に積極的とは言いつつ、自分の中での線引きがあります。それはDX化で建設工事のあらゆるものが効率化するわけでもないし、DX化して失ってはいけないものがあるという考えです。DXのツールは確かに各作業を10~15分削減してくれるメリットがあります。各工程で少しずつ、その削減を積み重ねれば、全体としてはある程度まとまった時間になります。しかし、削減時間が生まれることで逆に、その時間を本来使いたかった有意義な時間に充てるということにつながります。例えば、事業主とのコミュニケーションです。以前までは、事業主は完成までの間、つぶさに現場を監理することは多くなかったのですが、現在は事業主としての品質管理、説明責任として現場をよく訪れます。そのための現場としても事業主とのコミュニケーションや建物のクオリティについて突き詰める時間が生まれています。この時間はゼネコンにとっても建物にとっても良いものだと思っています。

また、DXでも失ってはいけないと思うのが、ものづくりの精神です。日本のゼネコンの高い建設技術。それはもっと言うと、完成まではチームで絶対にやりきる、という泥臭い精神だと思っています。工事中は本当に色々大変なことが起こります。でも完成すれば素直にうれしい。足場の外れた建物を一日中眺めていられるくらいです。私はよく山登りに例えるのですが、完成という頂上を目指して登る途中は本当に険しい。予期せぬトラブルもよく起こります。諦めて、下山したくなる時もあるけれど、そこを耐えて登り切った頂上(完成)で見える景色は、本当に素晴らしいです。30年以上、何件も物件を経験してきたけれど、完成するごとに自分自身や会社として新しい風景、新しい知見があります。

その泥臭い精神や知見、技術はコアとして未来へしっかりと受け継いでいきつつ、効率化できる部分、外堀をDXにサポートしてもらうイメージが身の丈に合ってバランスがいいと思っています。