SXとは|DXとの違いやメリット、ゼネコン事例紹介

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著者:小日向

トレンドワード:SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)

「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」についてピックアップします。持続可能な社会の実現に向けて、ビジネスの面で取り組みが広がっています。本記事ではSXの概要やメリットの他、ゼネコン各社での取り組みをご紹介します。

SXとは|分かりやすく解説

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業が持続可能性・資本効率性を意識した変革を行うことを指します。持続的に成長原資を生み出して企業価値を高めるべく、社会のサステナビリティ課題に由来する中長期的なリスクを踏まえた活動を行うのが特徴です。あくまでも企業価値創造が前提のため、いわゆる社会貢献活動とは異なります。

具体的には、ビジネスモデル、戦略、運営方法を抜本的に見直すことにより、社会と企業の両方が持続的に成長していくことを目指すものです。SXの推進は、気候変動や社会的格差などの現代的な課題に対処するために不可欠であり、企業の長期的な競争力と信頼性を高める手段ともなります。

企業はステークホルダー(株主、従業員、顧客、地域社会など)の期待に応えるだけでなく、持続可能な未来を創造するためのリーダーシップを発揮することが求められます。グリーンテクノロジーの導入、サプライチェーンの透明性確保、CSR(企業の社会的責任)活動の強化などが含まれます。

SX銘柄2024|経済産業省

出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/sxbrands_bosyu.html

経済産業省では、2024年4月に「SX銘柄2024」を選定しています。これは、持続的に成長原資を生み出す力を高めて企業価値向上を実現している企業を公表する取り組みです。

出典:経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/sxbrands_bosyu.html

今回は、15社がSX銘柄に選定されました。例えば化学業の富士フイルムは、持続的にトランスフォーメーションを進めてきた点が評価されています。

元々写真フィルム等のイメージング分野が主幹事業でしたが、デジタルカメラの普及で本業消失の危機に直面しました。そこから事業転換を図り、現在ではスキンケアブランド「アスタリフト」等のヘルスケアや高機能材料にシフトするトランスフォーメーションを実現しています。

SX銘柄レポートでは「長期戦略、ビジネスモデル、目指す姿は整合性があり、DX戦略や知財戦略も積極的。外部環境の変化に応じてマテリアリティを見直す等、持続的にトランスフォーメーションを進めながら、2023年度KPIを1年前倒しで達成する等、SX銘柄として期待できる」と評価されています。

SXとDXの違い

SXに似た言葉として、DX(デジタル・トランスフォーメーション)があります。どちらも企業や組織の変革を目指す取り組みですが、SXは持続可能性に焦点を当てており、DXはデジタル技術の導入と活用が主な目的という点が異なります。

ただしSXとDXは対立する概念ではなく、互いに補完し合う関係です。デジタル技術を活用することで、持続可能性の目標をより効果的に達成することができる場合も多いです。

例えばIoT技術を用いてエネルギーの使用を最適化することや、AIを用いて持続可能なサプライチェーンを構築することなどが考えられます。環境、社会、経済の調和を図るSXを実現するために、DXが手段として用いられる場合も多いです。DXについて詳しくは、下記記事をご覧ください。

SXのメリット

ここでは、SXの主なメリットについてご紹介します。

将来的な企業価値向上

環境リスクや社会の変化に対する対応力を高めることで、企業の長期的な安定性と回復力が強化されます。また持続可能な取り組みを行うことにより社会的な信頼が高まり、ブランド価値が向上するのもメリットです。

持続可能性に関連する規制や法令が厳しくなる中、先手を打って対応することで法的リスクを回避し、制裁のリスクを低減することもできます。そして優秀な人材を引きつけられるため、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高める効果も期待できます。

投資家からの評価向上

SXを実施することで、投資家からの注目を集めやすくなります。ESG投資は持続可能な企業活動を評価する投資手法であり、SXを実践する企業は資金調達も容易になるケースが多いです。

長期的に安定した成長が期待できることから投資家からの評価が高まり、株価の安定や向上に寄与します。環境や社会的リスクに対する対応力が高い企業は、経済的ショックや規制変更などに対する耐性も強くなります。

SXを実現する方法

ここでは、SXを実現する方法について具体的にご紹介します。

長期的なビジョンを明確にする

SX実現のためには、まず持続可能性に向けた長期的な目標を設定し、それを企業全体で共有します。これには環境目標、社会的目標、経済的目標といった内容が含まれます。

そしてビジョンを実現するための具体的な短期・中期目標と、それを達成するためのロードマップを設定します。これにより進捗状況を定期的に評価し、必要に応じて戦略を調整できるのです。

ビジョンが企業の戦略、日常業務、企業文化で統合されることで、持続可能なトランスフォーメーションが実現されます。ビジョンを具体化し、全社的に共有することで、持続可能な未来に向けた一貫した取り組みが可能となります。

KPIとガバナンスの整備

KPIとは「重要業績評価指標」のことで、企業目標の達成度を測定するための具体的な指標のことを指します。ビジネスパフォーマンスや戦略の効果を評価するために使用され、効率的に目標を達成するためのツールとして重要です。

またガバナンスとは、企業が目標を達成するために採用する仕組みやプロセスのことを指します。「企業統治」と訳されることもあり、取締役会や経営陣がステークホルダーの利益を守りつつ、企業の経営を健全かつ効率的に行うための仕組みとして用いられます。

ガバナンスでは経営陣の役割や機能分担を明確化し、KPIと連動した役員報酬などの中期的なインセンティブの設定も有益とされています。KPIとガバナンスの整備は、SXを実現するための重要な手段です。これらを組み合わせることで、持続可能な成長を実現できます。

SXの事例|建設業での取組

ここでは、実際にSXの取組が行われている事例をご紹介します。建設業でもサステナビリティ意識が高まっており、大手ゼネコン各社で取組がスタートしています。

大林組

https://www.obayashi.co.jp/sustainability/vision.html

大林組では「Obayashi Sustainability Vision 2050」を策定し、サステナビリティに取り組んでいます。具体的には「2050年のあるべき姿:地球・社会・人のサステナビリティの実現」を目指し、大林グループ一体で進めているのが特徴です。

またサステナビリティ委員会を設置し、サプライチェーン全体での脱炭素・循環型社会・自然共生社会の実現に取り組んでいます。温室効果ガスの排出量削減、廃棄物の発生抑制と再資源化、生物多様性の保全と自然保護を通じて、事業活動全体で環境負荷の低減を目指します。

鹿島建設

https://www.kajima.co.jp/sustainability/policy/vision/index-j.html

鹿島建設は、2024年に既存の環境ビジョンを見直し「鹿島環境ビジョン2050plus」を発表しました。新ビジョンでは、「脱炭素」「資源循環」「自然再興(自然共生から変更)」の3分野が相互に関連し合っていることを認識し、グループの目標や行動計画を再構築しています。

https://www.kajima.co.jp/sustainability/policy/vision/index-j.html

2050年に向けたKPIと目標では、下記の項目が定められています。

  • 鹿島グループの温室効果ガス排出量実質ゼロ
  • 良質なインフラ資産を基盤にサステナブルな資源で更新
  • サプライチェーン全体で自然再興に取り組み、生態系サービスを持続的に享受できる社会を実現する

大成建設

https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2024/240513_9990.html

大成建設は、環境および社会課題の解決を推進するための資金調達手段として、「サステナビリティファイナンス・フレームワーク」を策定しました。これはサステナビリティファイナンスに対応し、調達資金を環境および社会課題の解決に貢献する事業に充当します。

具体的には、再生可能エネルギーへの投資や技術開発、ZEB・省エネルギー技術の開発などのグリーンプロジェクト、省人化・自動化技術の開発などのソーシャルプロジェクト、洋上風力発電技術の開発や投資、ゼロウォータービル技術の開発などのブループロジェクトが設定されています。

まとめ

SXは、企業と社会両方の持続可能性を目指す方法として注目が集まっています。いわゆる環境保護や社会貢献に留まるのではなく、企業価値創造を両立させることがポイントです。その手段としてDXの活用も期待されており、ゼネコン各社の取組に注目です。