上下水道管理業務、国土交通省に一元化。インフラ整備は進むか?
日本の上下水道は老朽化が進んでおり、大きな災害に耐えられない設備が多い状況です。たとえば、能登半島地震では、約13.6万戸が断水してしまうといった事態となり、断水から復旧までに数か月の時間を要しています。
そのため、耐震性を確保した上下水道の敷設が今後重要になってくるといえます。そういった事情もふまえて、2024年4月1日付けで厚生労働省から国土交通省に上下水道管理業務が移管されました。
本記事では、トレンドワードとして、上下水道に関する課題や国土交通省に期待されている支援などについてみていきましょう。
目次
「トレンドワード:国土交通省 一元化」
厚生労働省から国土交通省に上下水道管理業務が一元化された理由は、社会的インフラとして、上下水道の整備が必要となったためです。厚生労働省の上下水道管理業務においては「公衆衛生」に目的が置かれており、普及率は2018段階で98%を超えていました。
ただし、耐震化率は約40%で全国各地で「老朽化が進んでいるものの、管路を新しくできない自治体」が増加傾向にあるという現状です。
そのため、国土交通省に上下水道管理業務を一元化することによって、スムーズな官民一体の上下水道設備の刷新が進むことが期待されています。たとえば、次のような施策も検討されている点は知っておきましょう。
- 最適な施設再編の計画策定経費の補助(浄水場、下水道の位置の再編や処理コストの削減)
- 上下水道設備のDX推進(業務効率化、負担削減)
- 耐震化推進(上下水道を刷新し、一括で施工することでスムーズな施工と水道機能の確保がしやすくなる)
土砂災害防止の設備投資補助、管路更新率の引き上げのための技術導入なども行っていく方針を示しています。
取り組み1「ウオーターPPP(官民連携)」
ウォーターPPPは、民間企業と協力して管理・更新マネジメント方式で、上下水道の管理を行っていく方式を意味します。たとえば、次のような要件が定められている点は知っておきましょう。
- 参画意欲や投資効果などを加味して原則10年の契約となる
- 維持管理を行う更新実施型と地方自治体による更新支援の更新支援型に分かれる
民間企業に頼る方法だけでなく、地方自治体が上下水道を更新していく方針も検討できるため、小規模の自治体であっても前向きに検討できる仕組みだといえます。
取り組み2「最適配置のための自治体支援」
水道事業については、広域化(複数地域の浄水・下水処理を共同で行う)が進められている状況でした。広域化をすすめることで次のようなメリットが生まれます。
- 他の行政部門との検討や連携による共同整備
- 給水収益の確保
- 人員の確保、技術継承
今回、国土交通省に監理業務が一体化されたことによって、浄水場や下水場の統廃合がより進むと想定されるでしょう。人材の減少や維持・管理の収益バランスが取れないといった課題に対して、効果的なアプローチだといえます。
また、国土交通省は各地に地方整備局があることから、地方自治体としてはこれまで以上に連携・管理しやすくなると想定されるでしょう。
日本の上下水道を取り巻く3つの問題
https://www.soumu.go.jp/main_content/000555182.pdf
日本の給水用の管路に関しては、老朽化が急速に進んでいるものの、管路更新率は1%を下回っている状況にあります。つまり、ほとんどの自治体が給水用管路を刷新することができず、そのままになっているといえます。
また、設備の刷新に必要な予算や計画に関しても、これまでは自治体に任せる運用でした。では、そういった状況の中でどういった問題が発生していたのかをみていきましょう。
設備に耐震性がない
日本では、上下水道設備が老朽化しているだけでなく、地震に対する耐性を確保できていません。施工時期として、比較的新しい年代に敷設されたものであれば、耐震性を確保出来ているものの、浄水施設でさえも40%前後となっています。
そのため、今後は設備の刷新を国土交通省が率先して行うだけでなく、事前の状況調査なども含めて支援していく耐性作りが求められるといえるでしょう。
収益の採算が取れない
水道設備の更新には、水道料金が使用されています。しかし、水道料金に関しては、減少し続けており、水道料金の値上げだけでは対応しきれない状況になりつつあります。
今後はより人口が減少することから、今までの仕組みでは、採算が取りづらくなっていくといえます。地方自治体によっては、人口が多いとしても設備の更新が間に合わないというケースも増加していくと想定されるでしょう。
今回の国土交通省への業務移管を通して、収益性や計画性から見直し、施設ごと再編成するという動きが加速していくことに期待できます。とくに、浄水場・下水処理場の広域化、民間事業者との協力、DX推進などは国土交通省の支援によって実施しやすくなるといえます。
人材の減少
上下水道は、土木・管工事技士が関係する施工領域です。そのうえで各自治体では、人材に関して次のような課題があります。
- スキルを持つ人材が足りない
- データが整理されておらず、スキルを継承できる機会を失っている
つまり、減っていく人口に対して、採用やスキル継承が間に合っていません。そして、人口は今後も減少していくことが予想されているといえます。ただし、今後は各自治体のみでの運用では、遠くないうちに人材不足で運営できなくなることも想定されるでしょう。
そのため、国土交通省の支援事業によって、人材が幅広く活動できる体制を構築し、システムの導入によって運営を効率化していくというケースが全国的に広がると想定されます。
まとめ
上下水道の普及率は高いものの、配管や施設の老朽化は進んでいる状況にあります。そのうえで、2024年4月からは厚生労働省から国土労働省へ上下水道の管理業務が一元化されました。
今後は、地域自治体の財源や人材だけでなく、国として支援を行いながら、運営を行っていく方針を示しています。そして、日本国内の上下水道の更新率や体制の変化には注目しておきましょう。