政府、2024年の建設業界に「5%賃上げ」要求|物価上昇に追いつける?
目次
トレンドワード:2024賃上げ
「2024賃上げ」についてピックアップします。政府が建設業界に対して「5%の賃上げ」を要求したことが話題となり、業界全体でのベースアップが期待されています。本記事では大手ゼネコンでの賃上げ状況や、今後の課題についてご紹介します。
政府、建設業に5%賃上げを要求
2024年3月、政府は建設業界に対して「5%を上回る賃上げ」の協力を求めました。あくまでも協力要請ではありますが、これにより業界全体として賃上げが進むことが期待されます。
建設業の賃上げに向け、2024年3月から「労務費の引き上げ」も行われています。これにより、公共事業の労務単価が「前年比5.9%引き上げ」となりました。労務単価は12年連続で上昇しており、過去最高金額となっています。
岸田首相「新3Kに変革を」
岸田首相は、賃上げ要求の中で「新3Kへの変革」についても述べています。建設現場は過酷な労働環境であることが多く、「3K(きつい、汚い、危険)」とされてきました。
それに対して「新3K」とは「給与が高い・休暇が取れる・希望が持てる」という違いがあります。新3Kは、現場で働く人々の誇り・魅力・やりがいの向上を図ることを目的としています。
「新3K」について詳しくは、下記記事をご覧ください。
2024建設業の賃上げ状況|大手ゼネコンの初任給はいくら?
ここで、2024年4月以降の大手ゼネコン5社の賃上げ状況を整理しておきます(2024年3月13日時点)。
大林組 | 鹿島建設 | 清水建設 | 大成建設 | 竹中工務店 | |
---|---|---|---|---|---|
賃上率 | 6% | 検討中 | 検討中 | 6% | 検討中 |
院卒初任給 (+前年比) | 30万円 (+3万円) | 30万円 (+3万円) | 検討中 | 30万円 (+1.5万円) | 30万円 (+3万円) |
大林組や大成建設では6%の賃上げが予定されており、政府の要求を上回る水準が見込まれています。また初任給の引き上げも実施予定で、大学院卒の場合は30万円がスタンダードになりつつあります。
大企業で大幅な賃上げが行われるのは「優秀な学生獲得のための手段」としての狙いもあります。最近では人手不足が深刻化しており、他社に劣る賃金では採用が厳しくなっている現状があるのです。
なぜ賃上げが必要?理由を解説
労働者にとって賃上げは喜ばしいことですが、企業側からすれば「人件費を抑えたい」というのが本音ではないでしょうか。ここでは、賃上げが実施されるに至った背景や理由を解説します。賃上げが社会全体にもたらす影響や意義について、まとめてチェックしておきましょう。
「物価上昇を上回る賃上げ」で好循環をもたらす
2023年の消費者物価指数は、前年比で3.1%上昇していました(生鮮食品を除く総合指数)。食品や家電製品などあらゆる分野で値上げが実施されており、日常生活の中でも「物価高」がひしひしと実感されています。
物価が上昇している一方で、2023年の実質賃金(物価上昇率を加味した値)は「2.5%減」となっています。物価高に賃金上昇が追いついておらず、家計が厳しいと感じている方が増えていることが分かります。
日本では過去30年に渡り、デフレ(物価が下がる現象)の状況が続いてきました。コストカットや人件費削減が優先されてきた結果、未来への成長が妨げられてきたのです。
しかし本来であれば、「物価上昇→賃金上昇→購買力上昇」という好循環が自然と起こるのが理想的です。岸田政権では賃金と成長の好循環を促すため、投資や賃金上昇に取り組んでいます。各社が協力することで、物価高に負けない賃上げが期待されています。
「2024年問題」残業減で給料も減る?
近年問題となっている「長時間労働」「非正規雇用労働者の賃金格差」「低い有給休暇の取得率」といった課題を解決するため、働き方改革が進められています。その取り組みの一つとして、建設業では2024年から「働き方改革関連法」が施行されます。これによりワークライフバランスの実現や労働環境改善など、幅広い分野が影響を受けると言われています。
働き方改革関連法の主なポイントは、以下の3点です。
- 時間外労働の上限規制が導入
- 年5日の有給休暇取得が必須に
- 非正規社員の不合理な待遇差が禁止に
最も大きな変更点としては、時間外労働の上限が「月45時間・年360時間」になることが挙げられます。特別な事情がある場合でも、「年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間」が限度となるのです。
建設業では残業が常態化している現場が多いですが、これにより適切な労働環境が整うことが期待されます。しかし一方で「残業代が稼げなくなるのでは?」という不安な声も上がっています。
残業が無くなっても給与が大幅に減ることが無いよう、企業側には適切なベースアップが求められています。「2024年問題」について詳しくは、下記記事をご覧ください。
建設業の賃上げの課題
ここでは、建設業における賃上げの課題や問題点をご紹介します。
公共工事だけでなく民間工事の賃上げも必要
2024年3月からは、「公共事業労務費の引き上げ」が行われています。これにより、公共事業の労務単価が「前年比5.9%引き上げ」となりました。
しかし国による公共工事だけでなく、民間による工事の賃上げも行われる必要があります。そのため今後「標準労務費」を国が示し、水準を大きく下回る金額での契約は禁止とする仕組みが設けられる予定です。
中小企業への波及|多重下請け構造の問題
建設業では「多重下請け構造」が長年の課題となっています。これは「元請→1次下請→2次下請…」といったように、委託が多層的に発生する仕組みのことを指します。
これにより役割や責任の所在が不明確になったり、コストが複雑化したりするのがデメリットです。また中間企業に利益が流れることで、下位請負への対価が減少することも大きな課題となっています。
大手ゼネコンでは6%の賃上げが行われる一方で、実際に工事を行う下位請負業者にも同様の賃上げが行われるのかは保証されていません。適切な価格転嫁が行われるよう、モラルを持った契約が求められています。
成長力の強化が必要|BIMで業務効率化を
建設業が今後も発展していくためには、人への投資だけでなくデジタル、グリーンなど成長分野への投資が不可欠です。
特にデジタル分野では「BIM」の導入がカギとなります。具体的には建築物を3Dデータでモデル化する手法のことで、単なる3D CADとは違ってコスト、資材、材質、工期目安といった属性情報の追加が可能です。
立体的なイメージのため情報を共有しやすく、合意形成がスムーズになるのが特徴です。着工するまで気付きにくかった課題を顕在化でき、問題発生を防げて業務効率化に繋がります。BIMについて詳しくは、下記記事をご覧ください。
まとめ
建設業では5%の賃上げが要求されており、大手ゼネコンではそれを超える賃上げも予定されています。物価上昇に賃金が追い付くことで、経済の好循環の実現が期待されます。さらなる発展のためには、BIM等の適切なデジタル技術の導入も求められます。