建設業にも「賃上げ」の動き|厳しい中小企業は「ヤバい」?

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著者:小日向

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「賃上げ」についてピックアップします。2023年は大企業を中心に給料アップの傾向が見られます。本記事では、日本の給料が安い理由や建設業での賃上げ状況、中小企業の対策方法等についてまとめていきます。

2023年・賃上げの動き|給料40%UPも

2023年の春闘では、「ユニクロ」のファーストリテイリングが「国内従業員の年収を40%上げる」と発表し、大きな話題となっています。この動きに追随する形で、キヤノン、サントリー、日本生命といった他の一部大企業もベースアップを決定しました。

政府の年頭会見では「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と述べられており、日本全体に賃上げのムードが高まりつつあります。

日本の給料はなぜ安い?|世界と比較

賃上げの機運が高まっている背景としては、「日本の賃金の安さ」があります。1990年からの過去30年で韓国は約2倍の賃金に上昇したのに対して、日本は「ほぼ横ばい」となっています。この理由としては、下記が考えられます。

  • 終身雇用制度
  • 生産性が向上していない
  • 個人消費の停滞

日本特有の「終身雇用制度」では、新卒で就職した会社に定年まで勤めるのが一般的です。最近は終身雇用崩壊とも言われていますが、実態としては転職者の数は増えていません。

終身雇用にはメリットも多いですが、「一度給料を上げると下げるのは難しい」「優秀な若手社員の給料が低くなる」といったデメリットが課題です。そして転職人材の流動性が少ないことや、IT化の遅れにより「企業の生産性が向上しない」という状態に陥っています。

また給料が上がらないことで「個人消費を控える」という悪循環になり、回りまわって企業の業績不調にも繋がっているのです。

建設業界での賃上げ状況

大企業では賃上げの動きが見られますが、建設業ではどうなるのでしょうか。ここでは、建設業界での賃上げについてご紹介していきます。

国交省、公共事業の賃金を「5.2%」引き上げ

国土交通省は、2023年3月からの公共工事「労務単価」を平均5.2%引き上げると発表しました。金額にすると22,227円となり、5%を超える引き上げは実に「9年ぶり」となります。

建設業では職人の高齢化が進み、「3K(きつい・汚い・給料が安い)」のイメージから深刻な人手不足が課題となっています。賃上げで労働状況を改善し、人材確保に繋げたいという背景が読み取れます。

賃上げ企業に「加点措置」|2023年も入札が有利に

国土交通省では、2022年から「総合評価落札方式における賃上げを実施する企業に対する加点措置」を導入しています。これは「公的部門における分配機能の強化」の一環で、賃上げを実施する企業には優先的に仕事を与えるというものです。賃上げの基準は「大企業で3%以上、中小企業で1.5%」となっており、2023年度も継続される意向です。

大手ゼネコンで進む「賃上げ」傾向

2022年は上述した加点制度の影響により、大手ゼネコンが揃って3%程度の賃上げを行いました。そして来たる2023年度は、鹿島建設が「従業員平均基本給を、前年度比5%程度引き上げる方向」と発表しています。

安いと言われる労働者の賃金も、これを機にトリクルダウンが起こることが期待されます。

賃上げの中小企業への影響

大手ゼネコンでは2023年度も賃上げの動きが見られ、それに続く企業も増えると予想されます。しかし中小企業は、大手ほど資金に余裕がないケースも多いでしょう。ここでは、中小企業への影響や対応する方法についてご紹介します。

対応できない企業は「倒産」?

中小企業では「賃上げは厳しい」、「大幅なベースアップは無理」という声が多く聞かれます。下請けを叩く形で利益を確保してきた企業の場合、賃上げができず人材流出が進んでしまうかもしれません。

しかし誤解を恐れずに言えば、そういった企業は「倒産」しても仕方ないのではないでしょうか。下請けに価格を転嫁し、労働者の過酷な残業でギリギリ持ちこたえている企業は淘汰される時代が来たのです。

待遇の悪い企業から「優良な企業に人材が流出するサイクル」が回り出せば、業界全体で労働者の賃金水準が上がることも期待できるでしょう。

IT技術で生産性UP

中小企業が賃上げや従業員の働き方改革を行うためには、「生産性の向上」が必要です。これまでアナログな方法で負担が大きかった業務を「デジタル化」することで、大幅な業務効率改善が期待できます。

それだけでなく、「高付加価値商品の提供」という方向性にも目を向ける必要性が高まっています。これまで多くの中小企業では「低価格」を競争力として磨いてきました。これは悪いことではありませんが、結果として従業員の低賃金に繋がってしまいます。

日本は高齢社会を迎え、すでに「大量に安く売る」というフェーズは過ぎています。これからの時代は、「良いものを高く売る」方向性にシフトする必要があるのです。これには変革を伴う「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が必要であり、中小企業も新しい付加価値を生み出す方向に力を入れていくべきと考えられます。

「DX」について詳しくは、下記記事をご覧ください。

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デジタルツールの導入には補助金を使う方法も

生産性向上やDXの実現には、デジタルツールの導入が欠かせません。「ツールを購入する資金が厳しい」という場合には、補助金を使う方法もおすすめです。

たとえば国土交通省では「建築BIM加速化事業」を実施し、BIMデータの作成に掛かる設計費や建設工事費に対して補助金を交付しています。BIMは建設プロセスを効率化させるツールであり、国交省では広く導入を推進しています。

補助金制度について詳しくは、下記記事をご覧ください。

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まとめ|建設業も賃上げムードへ

建設業界は労働者の給料が安いこと等から、人材流出が進んでいます。しかし国土交通省の取り組みにより、徐々に賃上げの雰囲気が醸成されつつあります。経済の好循環を実現するには、それぞれの企業が生産性向上や賃上げに励むことが大切なポイントです。適切なITツールの導入やDX化により、さらなる状況改善が期待されます。