BIM導入によるフロントローディングの効果と課題

BIMを導入することで得られるメリットはいくつもあります。今回はその内の一つであるフロントローディングについて、そもそもフロントローディングとは何か、実務でのお話も合わせてご紹介します。

フロントローディングとは

フロントローディングとは、建築に限らず製造工程においてこれまで後工程で行なわれていた作業を前倒しで行うことを指します。

一般的に、生産プロセスの後工程に進めば進むほど細かな部分を決めていくので、変更を行いにくくなり、同時に変更にかかるコストも大きくなります。スムーズに進んでいるプロジェクトでも、大抵は多かれ少なかれ後工程で変更が生じるもので、作業者の負荷が後工程で大きくなってしまうのです。

逆に、前工程ではまだ変更を行いやすい上、それにかかるコストも小さいです。建築設計においても、例えば基本設計よりも実施設計の方で詳細を決めていくため、基本設計の方が、まだ諸々の変更は行いやすいです。また、基本設計時よりも企画設計時の方が、変更は行いやすいです。

このように、フロントローディングは、その大小はありますが各フェーズにおいて実施可能です。後工程で発生する変更ほど、工期の遅れや品質の低下等に大きく影響します。後工程での変更を出来るだけ小さくするために、前工程で検討しておいた方が良いことや、実際に行えることは行なって手戻りを少なくしたいです。作業者の負荷を前工程でできるだけ大きくすることで、トータルでの工数削減が可能になるのです。

フロントローディングについて更に詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

https://news.build-app.jp/bim/glossary/front-loading/

BIM導入で進むフロントローディング

BIMを導入することで、どのようにフロントローディングが実現できるのでしょうか。まず、CADからBIMへの大きな変化としては、3Dモデルを作って図面を作る点です。

CADでは、例えば平面図に壁を作成する際には、線を引いて壁の位置や長さ、厚さを表現できれば問題ありませんでした。しかし、BIMソフトで同じことを行おうとすると、CADでは考えなくても良かった高さ情報が作成時に必ず必要になります。3次元の必要情報を全て決めないと形が決められないので、作成できないようになっています。

つまり、BIMソフトでモデルを作成しようとすると、自ずとその仕組み上一定のフロントローディングが必ず進むようになっています。また、モデリング時に、形状の情報だけでなく他の属性情報が必要な場合もあります。後工程で考えないといけない項目が挙げられているだけでも、設計者にとっては気付きとなり、フロントローディングに繋がります。

また、早期に3Dモデルを作成して進めるために、同時により正確で円滑なコミュニケーションが可能になり、意思決定の速度が上がります。図面のみでは伝わりにくい点がどうしてもあり、コミュニケーション手段として早期にBIMモデルを用いることで、課題の早期発見や解決が可能になります。3Dモデルを早期に作成することで、これまでは行えなかったシミュレーション等も行えるようになり、初期段階から合理的な設計を進めることが可能になります。

実務でのフロントローディングの課題と限界

フロントローディングによって得られるメリットは多く、実際に業務の効率化を進めている企業も多いですが、良いことばかりではないのも事実です。

先ほど挙げた壁の例のように、CADだといくつかの変数の決定を後回しにして作図できました。一方、BIMになると、早期にこれまで以上の情報入力を求められます。そのため、その瞬間の作業速度が落ちてしまい、まだBIMソフトに慣れていない方はそれがフラストレーションにつながります。この辺りのCADソフトとの違いもBIM導入の大きなハードルの一つになっています。

また、早期に情報を入力しても、それが誤った情報だった場合には、より手戻りが増える可能性もあります。入力した人自身も何を仮で入力したかを全て覚えていられないので、意図せず間違った情報が伝わり、事故に繋がってしまうということもあります。

この辺りは、本人の情報管理も大切ですが、関係者間でしっかりコミュニケーションを取る必要があり、そのための環境は同時に整えておく必要があります。単にBIMソフトを導入したというだけでは、進められるフロントローディングにも限界があるのです。

別の問題として、例えば施工段階でしか決められない、あるいは決めたとしても結局後で変わるので設計者が決めきれないという問題もあります。できるだけ関係者が初期から集まって、該当する人に意思決定をしていただくという状況が理想ですが、なかなかそのような状況は、従来の役割の分かれ方や業務の進め方的に難しいです。設計時に進められるフロントローディングは、構造的にも限界があるというのも理解しておく必要があります。

最後に

単純にフロントローディングを進めましょうといってすぐに進むものでもないですが、今後の更なる業務の高度化や業務量の増加等に対応していくためには、少しずつでもフロントローディングは進めていかなければなりません。BIMソフトは、それを促すツールでもあるので、うまく活用して自身の環境に合った効率化を考えてみてください。