インフラメンテナンスとは|課題や新技術事例紹介

掲載日:

著者:小日向

トレンドワード:インフラメンテナンス

インフラメンテナンス」についてピックアップします。日本では道路や橋などのインフラ老朽化が問題となっており、対策が必要です。そのため予防保全の考え方や、最新技術の活用が注目されています。本記事ではインフラメンテナンスの概要や課題、表彰事例をご紹介していきます。

インフラメンテナンスとは

ここでは、インフラメンテナンスの概要や市場規模についてまとめていきます。

インフラメンテナンスの概要

https://www.zenken.com/kensyuu/kousyuukai/R04/683/hirose.pdf

インフラメンテナンスとは、「社会経済を支えるインフラを効率的に保守すること」を指します。具体的には道路橋、トンネル、河川、下水道、港湾等といった社会資本の管理となります。

国土交通省では「メンテナンスサイクルの確立」として、下記の項目を挙げています。

  • ①予防保全
  • ②点検・診断
  • ③個別施設計画
  • ④補修・修繕
  • ⑤点検・補修データの記録
  • ⑥更新

これまでは「事後保全」で、損傷が拡大してから大規模な修繕等を行うのが一般的でした。しかし今後は「予防保全」に転換し、損傷が軽微なうちに予防的メンテナンスで機能保持を図る必要があります。

これにより、インフラの長寿命化・トータルコストの縮小が期待できます。

インフラメンテナンスの市場規模

https://www.mlit.go.jp/common/001124697.pdf

国土交通省によると、インフラメンテナンスの国内市場規模は「5兆円」とされています。一方で世界では「200兆円」の市場があり、日本企業のビジネス展開が積極的に行われています。たとえば日本で開発した下水管の再生工法(SPR工法)は、シンガポールでNo.1シェアを獲得しました。

インフラメンテナンスの課題

https://www.zenken.com/kensyuu/kousyuukai/R04/683/hirose.pdf

インフラメンテナンスの課題としては、下記が挙げられます。

  • 老朽化したインフラの割合が上昇
  • 自治体土木系職員不足
  • 土木予算の減少

日本では「建設後50年以上」が経過する施設の割合が、今後急増する見込みです。

しかし市町村の土木系職員の減少や土木予算の縮小により、適切な維持管理ができていないインフラが増えています。実際にトンネルの天井板落下事故や橋の崩落など、老朽化による危険な事例が多数報告されています。

国土交通省の取り組み

ここでは、インフラメンテナンスに関する国土交通省の取り組みについてご紹介します。

①インフラメンテナンス国民会議

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/im/about/pdf/info20230131.pdf

インフラメンテナンス国民会議は、社会全体でインフラメンテナンスに取り組む機運を高め、産学官民の技術を総動員するためのプラットフォームです。2016年に設立され、会員数は2,743名となっています(2023年1月時点)。

新技術の導入検討のための現場試行の調整、個別施設計画の策定・実施の課題解決につながるアイデア紹介など、会員ネットワークを生かした活動を行っています。

②インフラメンテナンス大賞

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/03activity/03_award.html

インフラメンテナンス大賞は、インフラの保守管理に関する優れた技術を表彰する取り組みです。2016年に初めて実施され、国土交通省、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、防衛省が所管する施設について各大臣賞、特別賞、優秀賞が贈られます。

好事例を広く紹介することで他の事業者にも取り組みを促進し、メンテナンス産業の活性化が期待されます。

インフラメンテナンス大賞の受賞事例

ここでは2022年度(第6回)のインフラメンテナンス大賞を受賞した企業の中から、いくつかピックアップしてご紹介します。BIM/CIMなど、最新技術を活用した事例に注目してみましょう。

ICT技術とBIM/CIMモデルを融合した維持管理手法の構築に向けた取組み

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/03activity/pdf/06_01.pdf

BIM/CIMモデルにより膨大な調査データを一元的に管理し、検索性の向上による分析作業の効率化を図る取り組みです。

近年ドローンや点検ロボットの活用により、現場での調査は飛躍的に効率化が進み安全性も向上しています。しかしその際に得られた「膨大な調査データの整理方法や有効な利活用方法」が課題となっていました。

今回受賞した手法は、維持管理手法として一元管理を可能とする「点検調書を属性情報として外部付与したBIM/CIMモデル」と、迅速に必要データにたどり着く「汎用性の高い検索システム」を兼ね備えたプラットフォームとなっています。

BIM/CIMモデルに調査写真を貼りつけ、点検結果を属性情報として付与することで、的確な損傷状況の全体像把握が可能となりました。さらに膨大なデータから必要な情報を迅速に探し出せる検索性の向上により、効率的な状況把握や補修・点検管理の計画立案も可能です。

②CIMを取り入れた岸壁補修工事における施工管理の効率化の取組

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/03activity/pdf/06_30.pdf

施工図を3次元モデル化し、ビューワーソフトによる多視点からの補修箇所の確認とワンクリック操作で属性情報(補修の仕様)が把握できるCIMを構築しました。

これにより桟橋下の狭隘な作業箇所での作業手順の検討や確認作業を「見える化」し、作業員の理解度の向上・施工内容把握の効率化を図りました。補修日ごとに作業情報をCIMに追加付与してデータをクラウドに保存し、リアルタイムで施工状況確認ができる点も評価されています。

作業手順の検討や確認作業をCIMで見える化することにより、経験の浅い作業者も同じイメージを共有できます。施工管理の効率化により、生産性や安全性の向上が図られる取り組みです。

DX-ダム本体建設における、CIMの設計・施工・維持管理への一貫利用

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/03activity/pdf/06_33.pdf

複合構造物のダム本体工事で国内初となる「施工時高度利用から」維持管理のCIMを構築した取り組みです。

従来CIMの利用は「事業の大まかな全体確認と維持管理データの格納」に留まっていました。しかしこの事業では、設計から維持管理までを一体的に考えCIMを積極的に活用している点が評価されています。ポイントは以下の3点です。

  • 1.維持管理と、将来の改修も見据えた正確な設計図(詳細度500での複合構造調整とモジュール化部材導入)
  • 2.CPS(Cyber Physical Systems)により取得した施工時データのCIMへの格納と維持管理へ活用
  • 3.クレーン自動運転とCIMを連携したデジタルツイン現場管理による、工程管理・構造物品質管理の向上

維持管理まで一貫した設計のフロントローディングにより、ライフサイクルコストの低減を実現しました。

まとめ|インフラメンテナンスの新技術に期待

インフラの老朽化が進んでおり、今後適切な修繕が行えない可能性が問題となっています。技術者不足の時代においては、インフラの安全を守るには新技術の活用が不可欠です。BIM/CIMといったITツールの導入で、維持管理の負担軽減を行っていく必要があるでしょう。