【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第3回)日本と海外のBIMの違い
連載企画「BIM原則適応で起こるこれからの建設DX」では、芝浦工業大学・蟹澤教授にお話を伺っています。
国土交通省では2023年に「小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用」としており、建設DXの大幅な推進が期待されています。本記事では、日本と海外でのBIMの違いについてご紹介します。
目次
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▼第2回:【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第2回)BIM「本来の役割」で業界変革
▼第4回:【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第4回)国土交通省の役割
▼第5回:【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第4回)国土交通省の役割
日本でBIMが普及していない理由「2つ」|海外と比較
日本は海外に比べるとBIM普及率が低く、なかなか導入が進んでいません。その要因としては、下記2点が挙げられます。
- 総価一括の請負契約とBIMの相性が良くない
- 発注者の「リスクへの関心」が薄い
現状日本の契約や生産システムは、ゼネコンと契約を結んでから詳細設計を詰めていくのが一般的です。そのため、最初から詳細に決めなければならないBIMとは馴染みにくいという事情があります。
次に「発注者の意識」も日本と海外では大きく異なります。上述のように日本では「ゼネコンに全ておまかせ」という形が多いので、コスト上昇や工期遅延のリスクはゼネコンが背負ってくれることが多いです。
しかし海外では、「発注者も諸々のリスクを負う」という違いがあります。発注者も初期段階で設計の確定度を上げてリスクを低減したいので、必然的にBIMもどんどん浸透してきたのです。
「発注者の無関心」は維持管理プロセスにも影響
日本では発注者の関わりが薄いことで「維持管理のプロセスが途切れてしまう」という点が課題です。
例えばイギリスの場合、維持管理も含めプロセスを分断せず発注者が関わり続けます(建物を何百年も使うという文化の違いからかもしれませんが)。しかし日本だと施工と維持のつなぎ目もゼネコンが面倒を見てくれるので、これまで発注者が関わる必要性が特になかったのです。
このように、日本で行われているデザイン・ビッド・ビルド方式だと、「設計・施工・維持メンテナンスが分断してしまう」ことがデメリットです。建設時のイニシャルコストは安くなるかもしれませんが、それが必ずしも「維持コストも最小化するとは限らない」のです。長期的な建物維持を目指すなら、発注者が今まで以上に関心を持つことが求められます。
発注者も維持管理を無視できなくなる?|省エネニーズの高まり
これまでの発注者は、「安い価格で作り、競争力のある価格で貸し出す」というスタンスが一般的だったかもしれません。しかし今後は「省エネ性」についても無視できないのではないでしょうか。
エネルギー価格が高騰している昨今においては、建物の借り手であるエンドユーザー側からも「省エネ性の高いビルの方がいい」というニーズが聞かれるようになってきました。これは、環境負荷低減(CO2排出量削減)がユーザーの社会的責務と認識されるようになってきたこととも関係しています。
こういった中、「不動産としての価値」が高い建物を作るにはBIMのライフサイクルコスト維持管理が不可欠です。今後、特に不動産・住宅分野では「BIMでの検討・維持が重要」となってくると考えられます。
日本の総価一括請負方式は「通用しなくなる」?
昨今の新型コロナウイルスやロシア・ウクライナ問題により、建設業も資材の急騰で大きな影響を受けています。これにより、着工前から赤字が見えているような事例も多いです。しかしそういった中、日本の発注者は未だに「契約済みの案件はもう関係ない」というスタンスでいるのではないでしょうか。
たしかに従来までの日本はインフレとは程遠く、戦争とも無縁だったかもしれません。そのため「総価一括請負方式」での契約が一般的でした(高度成長期には請負金額よりも付加価値が上がっていったので、むしろリスクでは無かったのです)。
しかし、ここ数年で状況は一変しています。ゼネコン側も変革の必要性を感じ始めているので、今後はアメリカのようにCM方式(コンストラクション・マネジメント)に移行していくかもしれません(特に、ゼネコンが工事や実施設計に関わるCMアットリスクやCM/GC方式)。そうなれば、必然的にBIMもセットで浸透せざるを得ないでしょう。
海外の注目すべき考え方
海外では日本よりBIMが普及していますが、具体的にはどういった状況なのでしょうか。先日アラップ(本社:ロンドン)の責任者とお話をしたり、イギリスに渡航したりする機会がありましたが、その際の印象をまとめると以下のようになります。
- 「発注者の要望に沿う」から「社会的責務を果たす」設計へ変化
- 「ISO19650(BIMの国際規格)」の浸透
海外だと「複雑な形状の建物だからBIMを使う」というフェーズは終わったという印象です。発注者の要望に沿うデザインにするというのはもはや二の次で、CO2排出の最小化など「社会的責務を果たすための設計」へと変化しているのです。BIMを使えばCO2排出量を自動的に計算できるので、「使うのが当然」な雰囲気もあります。
また「ISO19650」も、すでにひとつの標準マニュアルのような位置付けです。BIMは目的でなく手段になってきていて、技術的な問題よりも「責任の所在」の方に重点が置かれている印象を受けました。具体的には、プレーヤーを見える化して「誰が何を決めるか」、「誰がその仕事をするか」を明確化することが求められるのです。
ただし注意したいのは、ISO19650認証の取得はあくまでも「副次的」ということです。もちろん取得により「取引上の信頼を獲得する」という捉え方もあります。しかしイギリスだと「リスク明確化のためにフォーマットに従うのは合理的だが、認証の有無は問わない」というスタンスの方が一般的なのです。極端に言えば、認証をもらっていなくてもISO19650に基づいたプロジェクトを進めれば良いわけです(もちろん取得に意味がないというわけではなく、標準化は非常に説得力のある取り組みです)。
日本ではゼネコンが一括して責任を請け負ってくれますが、ISO19650を導入するならそれを明確化する必要が出てきます。今後は日本でも、発注者側で設計・施工から一貫してプロジェクトに関わる「ライフサイクルコンサル」が広まるのが理想的かと思います。
まとめ|海外のBIM手法に学べるか
日本では長らくゼネコンによる総価一括請負方式が一般的で、責任の所在を曖昧にしておいても特に不都合は生じていませんでした。しかし新型コロナウイルス等の影響で、建設業界も変革を求められています。BIMは「責任の所在を明確化する」という性質を持つため、本格導入に当たっては発注者も含めたプレーヤー全員の意識改革が求められるのではないでしょうか。
次回の連載は「国土交通省の役割」についてご紹介していきます。