「クリアソン新宿」から学ぶ建設DXを実行するマインド【前半】|アップデートを続ける人

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Tag:建設DX

著者:剣持 雅俊

現在、建設業界は労働人口の減少による人手不足や老朽化したインフラ整備など山積みの課題を解決するために、DXによる抜本的な業務改革が不可欠です。こうした背景から、建設プレイヤー1人ひとりの意識改革も求められています。

本企画では、「2027年に世界一のサッカークラブになる」という壮大な夢に向かって邁進中のクリアソン新宿の選手兼株式会社Criacaoの取締役COO 剣持 雅俊氏から目標に向けてアップデートを続ける大切さを伺いました。

建設業界と無関係のように思えるスポーツの世界。しかし、これからDXという未知の領域に挑戦する建設プレイヤーにとって、剣持氏のマインドから学ぶことはたくさんあるでしょう。

サッカーに明け暮れた少年時代

私がサッカーを始めたのは、1993年にJリーグが開催された小学校4年生のときです。地元神奈川にある桐蔭学園はサッカー強豪校だったので、受験勉強をして桐蔭学園の中等部に入学しました。しかし、桐蔭学園のサッカー部に入部するにはセレクションに合格しなければなりません。残念ながら私は不合格に終わり、入学してから1年間はサッカー同好会でプレーしていました。1年生の終わりごろに監督から声をかけてもらったことがきっかけで、2年生になってようやくサッカー部に入部します。レギュラーとして試合で活躍するようになったのは3年生になってからです。

桐蔭学園の高等部に進学してからもサッカー部に入部します。
そこで当社の代表取締役社長CEO 丸山と出会い、高校3年間は共にサッカーに励みます。身体が成長して背が伸びて、足も速くなったのでサッカー選手として重宝されるようになり、3年生のときは国体にも出場しました。

プロの道を断念し、大学進学を経て人材ビジネスの世界へ

高校卒業のときにプロになるか迷ったのですが、「勝ち負けが全て」という勝負の世界に少し疲れていたため、プロではなく大学進学を選びました。大学ではスポーツの世界から離れ興味があった英語を勉強し、1年間留学します。

帰国後に英語が使える仕事を探していたところ、ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社(以下ロバート・ウォルターズ・ジャパン)という外資系ヘッドハンティングファームから誘われます。ここは当時は新卒採用しない会社ですが、まだ大学4年生だったのでパートタイムからキャリアをスタートし、その後正式に社員として採用されました。

ロバート・ウォルターズジャパンで働くことを決めた理由は、オフィスで働く人や雰囲気がとても洗練されていて魅力的に感じたからです。特に人材ビジネスに興味があったわけではありません。

ロバート・ウォルターズジャパンは、とても数字にこだわる会社で成果を出すことが常に求められる職場でした。チームで戦いながらも個人で勝つことも大事という雰囲気が桐蔭学園のサッカー部と似ていたため、職場になじみ楽しく働くことができました。

サッカークラブ「クリアソン」との出会いでサッカーに復帰

入社3年目が過ぎたあたりから、頭で仕事内容を理解しても実体験のない業界・職種の人材コンサルティング業務に携わることに繰り返し疑問に思うようになりました。

丸山が学生時代に作ったクリアソン(現クリアソン新宿)というサッカークラブに出会ったのはちょうどこのころです。

同世代や年下の仲間たちが自分を心よく受け入れてくれたので、サッカーをやりたい気持ちよりもクリアソンの居心地の良さにひかれて、2009年からチームに加わりました。東京都社会人サッカーリーグ4部(以下東京4部)にクリアソンが参戦しようとするタイミングでした。それからクラブチームとしての活動を本格化し、29歳となった約3年後の2013年に丸山と本気で「世界一のサッカークラブ」を目指すために株式会社Criacaoを設立します。

また、創業前の時間に余裕があるときにブラインドサッカーの体験会に参加しました。そこでブラインドサッカーのすごさに感動して、丸山と二人で日本ブラインドサッカー協会(現NPO法人日本ブラインドサッカー協会。以下日本ブラインドサッカー協会 )の事務局長にお声がけし、体験会の運営から始めさせていただき、企業や行政に対する研修プログラムやパートナーシップ制度の営業活動などを任せてもらえるようになりました。

そんなことを繰り返していくうちに、現在の日本ブラインドサッカー協会の事業推進部 事業部長という肩書をいただいております。

アップデートを続けるために成功体験から得た信条

「今の自分」と「理想とする未来の自分」を比較して、理想を実現するために「今何をすべきか」を繰り返し考え、「必ず成功できる」と信じて努力を積み重ねることがアップデートを続けるために重要だと考えています。

約8年のブランクを経てサッカーの世界に戻ってきたため、2009年にクリアソンが東京4部に参戦した当初は、全く走れなくて苦しい思いをしました。しかし、チームが3部から2部、2部から1部へと徐々に昇格していく中で、現在の自分が足りないものやピッチに出場できない悔しさをバネにして、努力を積み重ねていくことで、26歳の時から毎年自分が右肩上がりで選手として成長しているのを実感しています。

桐蔭学園のサッカー部や大学時代の英語学習、ロバート・ウォルターズジャパン時代の仕事を振り返ってみると、こうした積み重ねを大事にしてきた記憶があります。18歳から26歳までやめていたサッカーを今も続けられているのも、この考えがあるからです。

また、プロ選手を目指すか、起業するかといった、人生の岐路に立たされたときは「その先で可能性を広げていけるか」という基準で選択するようにしています。

日本ブラインドサッカー協会の事業部長として深い志をもって活動する理由も、世界規模でみると増加傾向にある視覚障がい者の方たちに、サッカーを通じて様々な可能性や活躍の場を広げていける支援をしたいと思っているからです。

チーム運営で最も大事にしている「闘う・走る・声を出す」の意味

クリアソン新宿は、もともと丸山が大学時代のサークルメンバーと集まって作ったサッカークラブです。東京4部から現在のJFL(日本フットボールリーグ)に至るまでに、アマチュアからプロ選手までと多様な背景を持つメンバーが参加しています。そのため、個々人でサッカーのスキルや知識にばらつきがあります。

スキルや知識が異なるメンバーを一致団結させるために、クリアソン新宿では「闘う・走る・声を出す」の3つを大事にしています。「闘う」は、「挑戦者として自立性を持つ」、「走る」は「主体的に進めていく」、「声を出す」は、「仲間への想いや気遣いを言葉にする」という意味です。

この3つは、サッカーのスキルや知識に関係なく誰でもできることなので、練習や試合が終わった後にこの3つができていたかをチームで振り返るようにしています。もちろん、スポーツ選手である以上、試合に勝つための戦略的な攻撃や守備を考えて作戦を立てることは重要です。しかし、勝つことだけを考えていると、選手としての自主性や仲間への気づかいや想いなど、チームの団結で大事なものが少し失われていくような気がします。

また、最下位ランクの東京4部からスタートして現在のJFLに昇格するまでに家庭や仕事の事情で「サッカーをやりたくても続けられない」という断腸の思いでチームを去っていったメンバーもたくさんいます。

現役メンバー全員が、チームを去っていったメンバーの想いを背負って戦っているのも、クリアソン新宿の強さだと思っています。こうした思いを一つひとつ積み重ねていくことで、今の場所までたどり着くことができたと信じています。

株式会社Criacaoにジョインする仲間選びの基準は「決断経験」

私は選手であると同時にクリアソン新宿というサッカークラブを経営する株式会社CriacaoのCOOでもありますが、取締役として特別なことはしていません。

価値があると思ったことを繰り返し続けていくうちに、様々な能力を持った仲間が集まり、彼らがクリアソン新宿や株式会社Criacaoの発展に向けて、自主的に動いてくれているように感じます。例えるなら、漫画「ワンピース」で主人公のルフィが、仲間を集めながら船旅をしているような感覚です。

私がCriacaoで人材を採用するときは「決断経験の有無」「その決断に至った理由」を聞くようにしています。多くの人が自分で決断しているようで、「決断しないこと」を選んでいるからです。

サッカーをやっていて私が感じるプロとアマチュアの一番大きな違いは「断力」です。プロはミスをしても、自分の意思のないプレーでミスをすることはほとんどありません。しかし、アマチュアのミスは何となく選んだプレーによるもので、そこに意思は存在しません。

意思のないプレーだと、試合後になぜそれがダメだったのか、失敗した原因を振り返ることはできません。でも、意思をもって判断したプレーは、何がダメだったのか次の試合に向けて振り返ることができます。

こうした理由から決断経験があることを最も重視して人材を採用しています。加えて何かあったときに「自分が最後まで愛をもって面倒をみれる人材」であるかもとても大事にしています。

採用時点での入社後の活躍は未知数でも、「決断経験」と「愛を持って面倒をみれるか」の2つを重視して採用した人材が、期待外れだったことはほとんどありません。

まとめ

剣持氏が語った経験談は、これからITという未知の領域の知識をアップデートし、既存の業務プロセスに変革をもたらすDXに挑戦する建設プレイヤーの励みとなるでしょう。

DXは個人の力だけで実現できるものではありません。社内外と組織を巻き込んで成果をスケールアップする大きな取り組みです。

本企画の後編では、剣持氏がこれまでに築き上げた新宿という地域社会におけるパートナーとの関係や日本ブラインドサッカー協会との共創から、変化に人を巻き込むために大切なことを解説します。