【2025年版】建築におけるインサートとは?現場での役割・種類・施工方法を徹底解説

建築現場で「インサート」とは、照明・空調・配管などを支える金具(埋込み部品)を指します。では具体的に、どのような場所で、どのように選定すればよいのでしょうか。
この記事では、建築におけるインサートの役割・種類・施工方法・選び方を、初心者にもわかるように解説します。
インサートとは?建築で使われる理由
インサートとは、建築の鉄筋コンクリート構造(RC造やSRC造)で、後から設備を吊り下げたり固定したりするためにあらかじめ埋め込む金具です。主に次のような理由で用いられます。
- あと施工アンカーを打つよりも、強度・施工精度・安全性が高い
- 配管やダクトなどの重量物を確実に吊れる位置に固定できる
- メンテナンス時にも位置を特定しやすく再利用できる
たとえば、天井・壁・床などにインサートを設置し、照明・配管・ダクト・スプリンクラー・内装下地などを取り付ける「支持点」として利用します。
アンカーとの違い・使い分け
アンカーとインサートはどちらも「金具を固定するための部材」ですが、施工タイミングと構造が異なります。
| 項目 | インサート | アンカー |
| 施工タイミング | コンクリート打設「前」に埋め込む | コンクリート硬化「後」に打ち込む |
| 強度・耐荷重 | 高い(母材と一体化) | やや低い(穿孔部で支える) |
| 主な用途 | 吊り金具・天井支持・配管固定 | 改修・補修・後付け金具 |
| 施工精度 | 高精度(型枠で位置決め可能) | 穿孔誤差の影響を受けやすい |
つまり、アンカーは後施工で柔軟性がありますが、荷重分散や耐震性ではインサートが優れています。そのため、新築時や主要構造部の支持ではインサート、リフォームや軽量部材の追加固定ではアンカーが最適です。
インサートの種類と用途別の違い
建築現場で使用されるインサートには、構造・設置箇所・用途によって複数の種類があり、構造ごとに適切なタイプを選定することが重要です。
ここでは代表的な種類と用途を、実際の現場事例を交えて詳しく解説します。
天井インサート(照明・ダクト・配管吊り用)
天井インサートは、建築物の天井裏に設置し、照明器具・空調ダクト・配管・スプリンクラーなどを吊るために使われる一般的なタイプです。
- 型枠段階で取り付けるため、位置精度が高い
- 荷重をコンクリート全体に分散できる
- 吊り荷重に応じてM6〜M10サイズを選定する
主に「吊りボルト」の受け金具として機能し、天井構造体と設備を安全に接続します。
なお、照明や空調の吊り込みでは、天井インサートの精度が「仕上がり品質」に直結します。特にスプリンクラー設備など消防法対応がある現場では、指定位置から±10mm以内が求められるケースもあります。
コンクリートインサート(埋込みタイプ)
コンクリートインサートは、壁や梁などの構造体に直接埋め込むタイプです。
主に、外壁パネル・手すり・ルーバー・カーテンウォールなどの固定金物として用いられます。参考として以下に、主な用途を整理しました。
- 外装材や金物の取り付け用
- 重量物の支持金具(看板・配管ラックなど)
- 耐震ブレースの取り付け基礎
なお、コンクリートインサートを設置する際には、打設時の気泡混入やずれ防止のために、インサートキャップやスペーサーを使用します。埋め込み深さを設計図面どおりに、確実に確保することが大切です。
デッキプレート用インサート(金属デッキ専用の取付け方)
鉄骨造(S造)で使われる「デッキプレート用インサート」は、金属デッキ(鋼板)上に取り付けてコンクリートと一体化させるタイプです。以下に特徴をまとめました。
- 穴あきデッキに挟み込むクランプ式や、専用ビス固定式など種類が豊富
- 吊りボルトの取付けが簡単で、上階への振動伝達を軽減
- 各メーカーが耐荷重試験データを公開しており、信頼性が高い
(出典:株式会社 三門「三門インサートコンクリート埋設引抜試験実測値一覧表」)
特に、デッキプレートを型枠代わりに使う現場では、打設前に専用治具で設置します。
また、デッキインサートは「ピッチ(間隔)」を誤ると天井下地が干渉するため、BIMモデル上で吊り位置を事前に確認するケースが増えています。3D上で安全確認をするのがおすすめです。
BIMモデルについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください▼
軽天インサート・二重天井用(内装工事向け)
軽天インサートは、内装仕上げや二重天井の軽量鉄骨(LGS)を吊るタイプです。以下に工事の特徴を整理しました。
- 吊りボルト(M6・M8)対応が主流
- 主に軽天ボルトやハンガー金具との併用が可能
- 軽量物中心で、安全荷重30〜50kg程度(目安)が一般的
たとえば、石膏ボード・軽量パネル・天井下地の支持点として使用されます。内装仕上げの品質に直結するためにも、インサートの位置精度と吊り高さの均一性が重要です。
加えて、本文に登場したLGSに興味をお持ちの方は、以下の記事もチェックしてみてください▼
その他の特殊インサート(電気設備・配管・空調設備など)
一般的な天井・壁・床用のほかにも、以下のような特殊用途のインサートがあります。
| 用途 | 主な種類 | 特徴 |
| 電気設備 | 絶縁樹脂タイプ | 感電防止・軽量化 |
| 空調設備 | 二重ナット式・耐振タイプ | 振動・騒音の低減 |
| 配管固定 | チャンネルレール併用型 | 大径配管に対応 |
| 仮設足場 | 埋込吊りインサート | 高荷重対応・取り外し可 |
なお、特殊インサートは、現場ごとに設計条件や耐荷重が異なるため、メーカーの技術資料を必ず参照して選定しましょう。また公共工事の場合には、NETIS登録製品などを用いるのがおすすめです。
NETIS制度の詳細は以下の記事で解説しています▼
インサートのサイズ・ピッチ・色の選び方
インサートは、見た目が似ていてもサイズ・間隔(ピッチ)・色によって用途が大きく異なります。
ここでは、現場でよく使われるインサートのサイズごとの用途、ピッチの考え方、色による識別方法を詳しく解説します。
サイズの基本(M6・M8・M10など径ごとの用途)
まず、インサートの「M」は、ボルトのねじ径(mm)を表します。代表的な建築用途は以下の通りです。
| サイズ | 主な用途 | 許容荷重(目安) |
| M6 | 軽量天井材・照明器具 | 約20〜30kg |
| M8 | 一般配管・軽量ダクト | 約40〜60kg |
| M10 | 空調ダクト・スプリンクラー | 約70〜100kg |
| M12 | 重量物吊り・設備ラック | 約120kg以上 |
参考:インサート販売メーカーカタログ等を参照
※荷重はメーカーやコンクリート強度により異なります。
たとえば、M6はサイズが小さいため、小重量を設置する軽天や内装向け、M10以上は機械設備など重量物向けになります。また、屋外や高湿度環境にインサートを設置する場合には、錆びを回避できるステンレス製(SUS304)が推奨されています。
ピッチ(間隔)の決め方と施工基準
インサートのピッチとは、配置する中心から中心までの距離のことであり、建築物の荷重分散と天井下地の施工性に大きく関わります。以下に一般的なピッチの目安を整理しました。
| 荷重区分 | 推奨ピッチ | 使用例 |
| 軽量天井(20〜30kg) | 900〜1200mm | 石膏ボード天井など |
| 中量天井(40〜60kg) | 600〜900mm | 空調ダクトなど |
| 重量天井(70kg以上) | 450〜600mm | スプリンクラー・大型照明 |
上記の数値はあくまで目安です。設置する際には、メーカー基準や技術書の条件などを参照しましょう。
インサートの色の意味(メーカー・材質・用途による違い)
建築現場で使われるインサートには、色付きのキャップや塗装が施されているものがあります。これらの色には識別の意味があるとご存じでしょうか。参考として以下に、一般的な色の意味を整理しました。
| 色 | 主な意味 | 使用例 |
| 赤 | 鉄製(SS400)/一般屋内用 | 標準的なRC構造 |
| 青 | ステンレス製(SUS304)/防錆用途 | 屋外・湿気の多い場所 |
| 黄 | 耐火被覆エリア・仮設用 | 防火区画周辺 |
| 緑 | デッキプレート用インサート | 鋼製床構造 |
| 白 | 標準・汎用品(無識別) | 仮設や非重要部位 |
なお、メーカーごとにカラー区分が異なるため、カタログの凡例確認が必須です。一見同じ色でも材質やネジ径が違う場合があるため、図面や目視でのチェックが欠かせません。
天井インサートの施工方法と注意点
天井インサートの施工は、建築現場における「仕上がり精度と安全性を左右する重要な工程」です。コンクリート打設後の位置ズレや強度不足が起きると、照明・配管・ダクトの吊り下げ位置が狂い、手戻り工事や安全リスクにつながります。
参考として以下に、失敗を回避するための流れをまとめました。
| 工程 | 内容 | チェックポイント |
| 【1】 型枠設置 | 天井スラブの型枠を設置 | 位置基準線を明示 |
| 【2】墨出し | インサート位置を墨でマーキング | 設計図・BIMモデルと照合 |
| 【3】インサート取付 | 型枠上に固定(専用治具やワイヤー使用) | 位置ずれ±5mm以内 |
| 【4】コンクリート打設 | バイブレーターを使用し気泡除去 | 振動によるズレ防止 |
| 【5】脱型・確認 | 打設後に型枠を外し、インサート頭を清掃 | キャップ破損・ズレ確認 |
| 【6】検査・記録 | チェックリストに基づき位置・高さ・本数を記録 | 写真付きで保存 |
なお、インサートは設計段階で「どこに・どの荷重に対応させるか」を決めるのが重要です。後からアンカーで代用しようとすると、耐荷重不足や鉄筋干渉のリスクが高まります。
(出典:国土技術政策総合研究所「あと施工アンカーやインサートを用いる際の留意事項について(令和7年3月24日)」)
建築のインサートについてよくある質問【FAQ】
天井インサートは何のために使うの?
天井インサートは、照明・空調・配管などを吊るためにコンクリートに埋め込んで設置する金具です。打設時に固定しておくことで、後から天井内に器具を安全に取り付けられます。吊りボルトや軽天の支持点として最も多く使用される部材です。
アンカーとインサートの違いは?
アンカーはコンクリート硬化後に穴をあけて打ち込む部材、インサートは打設前に埋め込む部材です。アンカーは後付け対応に便利ですが、強度面ではインサートが優れています。また建築の場合、新築ではインサート、改修ではアンカーが一般的です。
インサートの標準ピッチやサイズは?
吊り荷の重さに応じて変わりますが、一般的な天井ではピッチ900〜1200mm、サイズM6〜M10が目安です。重量物を吊る場合は600mm以下のピッチとし、M10以上を使用します。選定する際には、国交省指針やメーカー耐荷重表を参照しましょう。
コンクリートに直接インサートを打つことはできる?
打設後のコンクリートに直接インサートを打ち込むことはできません。硬化前に埋め込むのが原則で、後付けする場合はあと施工アンカーを使用します。直接打つと強度不足やひび割れの原因になるため、構造上も認められていません。
インサートの色分けには意味がある?
インサートの色は材質や用途を識別するために使われます。たとえば、赤=鉄製、青=ステンレス製、緑=デッキ用などであり、メーカーによって基準は異なりますが、現場での識別・管理を簡易化する目印として重要です。
まとめ
インサートは、建築物の安全性・施工精度・維持管理性を支える見えない主役です。
天井・壁・床のいずれにおいても、吊りボルトや配管などの支持点として欠かせません。施工精度が高ければ、照明や空調の位置ずれ・たわみを防ぎ、仕上がりの美しさと長期耐久性にもつながるため、国土交通省の基準やメーカー基準に従いながら、建築現場に合うインサートを選定しましょう。