竹中工務店が世界初の多重蓄熱システム開発、余剰再エネ電力を冷房に活用する実証試験開始

株式会社竹中工務店をはじめとする産学官連携チームが、2023年度から取り組んできた環境省事業の一環として、再生可能エネルギーの余剰電力を冷房用エネルギーとして活用する新システムの実証試験を2025年7月1日に開始しました。
大阪市舞洲障がい者スポーツセンター(アミティ舞洲)を舞台に行われるこの試験は、脱炭素社会実現に向けた重要な一歩となります。
このプロジェクトには、大阪公立大学(学長:櫻木弘之)、三菱重工サーマルシステムズ株式会社(社長:伊藤喜啓)、関西電力株式会社(社長:森望)、株式会社安井建築設計事務所(社長:佐野吉彦)、東京大学(総長:藤井輝夫)が参加しています。
目次
従来の帯水層蓄熱システムを大幅に進化
開発されたシステムは、従来の帯水層蓄熱システム(ATES:Aquifer Thermal Energy Storage)をベースとしていますが、そこに革新的な機能を追加しています。帯水層
帯水層蓄熱システムとは、地下にある透水性の高い帯水層を活用して、冷房や暖房時に発生する排熱を冷熱井と温熱井に蓄え、季節に応じて冷水または温水として再利用する地中熱利用システムです。
通常の帯水層蓄熱システムでは季節間での蓄熱が主流でしたが、今回の新システムでは以下の機能が加わりました。
・世界初の多重蓄熱機能
・短周期での蓄熱・放熱機能
・余剰電力の効率的な吸収システム
再生可能エネルギーの課題解決に貢献
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、天候条件によって発電量が大きく変動します。また、春や秋といった空調需要が少ない時期には、発電能力が需要を上回り、余剰電力が発生しやすくなります。この余剰電力の処理問題は、再生可能エネルギー普及の大きな障壁となっています。
※余剰再エネ電力は、全国に先駆けて再エネ設備が普及している九州エリアにおいて、卸電力取引市場の約定価格が0.01円/kWhとなる時間帯に発生していると見做す。
実証試験の具体的な取り組み
実証試験は以下のスケジュールで進められています。
■第1段階(2024年11月~2025年3月)
暖房運転により13℃の地下水を貯留
■第2段階(2025年4月~6月)
余剰再生可能エネルギー電力を使用し、地下水を5℃まで冷却して追加貯留
■第3段階(2025年7月1日~)
5℃で貯留した地下水を直接冷房に活用する本格運転開始
優れた運転実績を達成
アミティ舞洲では、2025年4月2日から余剰再生可能エネルギー電力の吸収運転を開始し、6月9日までに約140kWで累計270時間の運転を実施しました。この結果、5℃まで冷却した地下水10,000立方メートルを冷熱井に貯留することに成功しています。
システムの技術的特徴
新システムには、既存の帯水層蓄熱システムにない以下の機能が組み込まれています。
・余剰電力のリアルタイム対応機能
余剰再生可能エネルギー電力の発生情報をリアルタイムで取得し、ヒートポンプ熱源機を使って冷熱井に5℃で貯留する機能を搭載しています。
・直接冷房機能
5℃で貯留した地下水をポンプでくみ上げて、そのまま冷房用途に使用することで、ヒートポンプなどの冷却装置に頼らずに効率的な冷房が可能になります。
・経済性と環境性の両立
このシステムは、蓄電池や水素といった他の余剰電力処理方法と比べて、コストを大幅に抑えながら効果的な余剰電力吸収を実現しています。省スペースかつ環境負荷の少ない形で、再生可能エネルギーの有効活用と電力需給調整という二つの課題を同時に解決できます。
評価指標と今後の展望
実証試験では、「見做し放電効率」を主要な評価指標として設定しています。これは、システムを蓄電池と見做した時の充放電効率を表すもので、直接冷房に利用する揚水温度上限値13℃の場合において、70%の効率達成を目標としています。
実用化に向けた取り組み
竹中工務店は、システムの統合と実証実験の推進に加え、既に実用化されている季節間蓄熱機能を持つ帯水層蓄熱システムと、今回開発した電力吸収機能を組み合わせたシステムの実プロジェクトへの提案・採用に向けて積極的に取り組んでいます。
電力需給バランスの改善
再生可能エネルギーの普及において最大の課題の一つは、発電量の変動と需要のミスマッチです。このシステムは、余剰電力を熱エネルギーとして大量かつ安価に蓄えることで、電力需給のバランス改善に大きく貢献します。
環境省との連携
本取り組みは、令和5年度から環境省「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」の一環として実施されており、国の脱炭素政策とも密接に連携しています。
このシステムの実証試験成功により、再生可能エネルギーの更なる普及促進と、持続可能な社会の実現に向けた重要な技術基盤が構築されることが期待されています。
出典情報
株式会社竹中工務店リリース,再エネの余剰電力を“冷房エネルギー”にアミティ舞洲で新システムの実証試験を開始,https://www.takenaka.co.jp/news/2025/07/01/