【第1回 施工BIM特集】建設業において最重要な生産拠点である工事現場への普及が進む施工BIMの現在地と展望

BIMの普及の当初においては、設計段階でBIMをどのように援用するのかが端緒となった。それらは、3次元のモデリング機能を用いて、設計者はどのようにデザイン、機能検討を行い、どのようなメリットを感受しているのか。発注者との合意形成にはどのように貢献しているのかであり、図面間の整合性が担保されるなどによって設計の品質と効率がどのように向上するのかであった。

その後、BIMの普及が進むに伴い、BIMの援用範囲は、建設業において最重要な生産拠点である工事現場へと拡がり、施工BIMの重要性は益々、高まりを見せている。それらの状況を踏まえ、建設のワークフロー全体の中に、施工BIMをどのように位置づけるのかを取りまとめたドキュメントとしては、国土交通省の※「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)」が2022年3月に建築BIM推進会議から公開されている。

建築物は、多くの場合、受注による一品生産だ。大量生産が前提の製造業の生産現場(工場)がオーディナリー(常設的)であるのに対して、一品生産の建築物を前提とする建設業の生産現場(工事現場)はテンポラリー(一時的)で竣工後は影も形もなくなる。長期に渡る建設プロジェクトでは、参画するプレーヤーも、発注者を含むステークホルダーも多様で、可変でもある。建設業は、オリジナルなデジタルモデルを複製し、生産する製造業とは決定的に異なる産業様式で、本来、情報のデジタル化には不向きでもある。本稿では、そのような建設業の特異性を包含しつつ、施工BIMの現在地と次への展望を探る。

建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)

※P10掲載:BIMの導入(国土交通省調査):2020年12月〜2021年1月にかけて813社に対して行ったアンケートの結果。この段階では、BIMはプロセスごとに個別に活用され、横断的な活用は想定されていない。本書の後半では、それに対する解決策などが明示されている。この段階でのBIM導入の実態は、設計分野については、総合設計事務所の導入率が約8割、専門設計事務所が約3割となっている(専門設計事務所では、意匠事務所に比べ、構造・設備・積算事務所の導入率が低い)。施工分野については、総合建設業、専門工事会社のいずれも概ね約5割となっている。

「施工BIMのスタイル」「施工BIMの活用ガイド」刊行で施工BIM普及に貢献した日建連

施工BIMの進展に重要な役割を果たしたのが一般社団法人日本建設業連合会(日建連)だ。日建連では、建築生産委員会IT推進部会の傘下にBIM専門部会を編成し、2010年4月〜2021年3月の期間、施工BIMの普及に向けて活動を続けた。2021年4月からは、建築生産委員会傘下のBIM部会に組織改変し、BIMの推進活動を継続している。

施工BIMの進展に向けて決定的な契機となったのが「施工BIMのスタイル 施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き2014」の刊行であった。本書では、建設業における施工段階のBIM援用を施工BIMとして定義すると共に、施工者自らがBIMモデルを作成し、活用することを提唱した。その後、総合建設会社や専門工事会社におけるBIMの活用の進展を受けて※「施工BIMのスタイル 施工段階におけるBIMのワークフローに関する手引き2020」を刊行している。

本書では、施工BIMの活用目的を[事前準備][施工計画BIM][施工図BIM][製作図BIM][総合図BIM][ICT建築土工][周辺技術との連携]の7種類に分類し、それぞれの目的に対応した15パターンのワークフローを提示している。合わせて工事工程とBIM実施工程を具体的に提示すると共に、BIM活用の目的を早期に定め、BIMモデルの作成時期や関係者を参集するタイミングを綿密に計画していく必要性などをわかりやすく解説している。
 2022年12月には、※「施工BIMの活用ガイド~日常業務で使えるBIM手引き~」を刊行している。本書は、工事現場でBIMを活用できる場面を整理したパンフレットで、全体工期における様々なBIMモデルの活用例、作業所におけるある一日のBIMモデル活用事例など、BIMの取組に関わる目標設定シート、BIM活用手順などをまとめて掲載している。施工BIMの指南書として、実際の工事現場で工事管理に従事している技術者向け書かれており、更なる生産性向上や業務効率化の一助になる。

直近では、2024年11月7日に、日刊建設通信新聞社主催でオンライン形式のセミナー「施工BIMのインパクト」が開催され、BIM部会長の曽根巨充氏(前田建設工業)が「施工BIMの最新動向2024」と題した基調講演を行っている。

施工BIMの活用ガイド~日常業務で使えるBIM手引き~
施工BIMのスタイル 施工段階におけるBIMのワークフローに関する手引き2020

施工BIM普及の道標となる講演「施工BIMの最新動向2024」を中心に今後の展開を概説

本稿では、10年余に及ぶ日建連のBIM専門部会並びにBIM部会の活動を振り返り、2025年以降の更なる施工BIMの進展と定着を目指す上で、極めて重要な道標となるセミナー「施工BIMのインパクト」での基調講演「施工BIMの最新動向2024」を中心に概説する。

原点回帰として講演の冒頭で施工BIMの定義を再提示している。施工BIMとは、日本で初めて日建連が提唱した業務の進め方であり、施工者と専門工事会社間で実施するコーディネーション業務(すり合わせ)を施工BIMと命名するとしている。それを受けて、日建連では、BIMの「スタイルの確立」(2025)から「スタイルの定着」(2030)を目指していると宣している。

施工BIMの定義のより詳細な内容を見てみよう。従来の範囲=設計BIMにおいては、実施設計で施工の情報を早期に付加し、施工で活用することであったが、設計段階では、発注先、納まり、整合性が確定していないとの課題がある。そのため新たに定義する範囲=施工BIMでは、作業所(工事現場)や専門工事会社が自らの業務効率化を目指すこととし、課題解決のために、施工段階で連携して情報を確定させる仕事の進め方に適用するとしている。

施工BIMの定義
BIMの推進は一定の成果があった・しかしながら近年は停滞気味

現状の整理:設計BIMの取り組みは全体平均約35%・施工BIMの取り組みは全体平均約30%

次いで「現状の整理」では、 2010年を起点として15年間でBIMに取り組む企業数(日建連建築本部委員会参加会社対象)は増えており、BIMの推進には一定の成果があったが、近年は停滞気味であるとの認識を示している。

45社を対象としたアンケートでは、設計BIMに取り組んだ案件の場合、取り組みが10〜30%台と回答した会社が19社、80〜100%台と回答した会社が12社と取り組みが二極化しており、全体平均では、約35%が取り組んでいる。施工BIMに取り組んだ案件の場合は、取り組みが10〜30%台の会社が22社、80〜100%台の会社が9社で、ここでも取り組みは二極化しており、全体平均では約30%となっている。

「BIM活用の実情把握に関するアンケー2023」・2024.6・日建連の回答から集計

設計変更に伴う手間やコスト+手戻りや調整の減少でプロジェクト円滑化の効果が顕著

図示したように、国土交通省2022年12月調べによるBIMの導入アンケートでは、BIM導入済みの会社においては、どのような効果が得られたのかを聴いている。それによると、効果がよく見える化する領域として、「設計図書間の整合が図りやすくなった」「設計変更に伴う手間やコストが減少した」「手戻りや調整の減少によりプロジェクトが円滑に進むようになった」を明示している。特に後者の二つの効果は、BIM定着の本来の目的である建設プロセスとデータワークフローの革新にとって最重要となっている。

どのような領域で効果が上がらないのかの課題も明らかとなっている。最も多いのが図面との相関が悩ましいとの回答であった。最も多かった60.8%が「現在のCAD等の業務に加えてBIMを活用しており、結果として二重作業となるなど、作業にかかる時間・手間が増加している」であった。「確認申請のために紙やPDFへの出力が必要となり、結果として二重作業となるなど、作業にかかる時間・手間が増加している」と24.3%の会社が回答している。

2次元CADとBIMの重複活用で起こる課題は、手描きの製図を2次元CADへと移行する際にも発生した。講演時での資料では、「BIMか図面かでは両極端過ぎる。共存の運営から始めても良いとし、それによって過渡期の山を乗り切る」と提案している。

一方で、手描きからCADへの移行期と異なり、今般は、2026年春に、建築確認申請におれるBIM図面審査が開始される外圧ともいえる動きがある。BIMを使用することで整合性の高い申請図書の作成が容易に行えるし、申請窓口に出向かなくともWebによって自社から申請や指摘事項の対応ができるなど、申請作業の効率化が図れるので申請者側にもメリットは大きい。

BIMと図面との相関以上に根深いのが「専門工事会社でBIMが導入されておらず、分野をまたいだ連携ができていない」との課題であった。それに対して、講演時に公開された資料では、「元請は専門工事会社にメリット・効果を提示しているだろうか」「元請は何をしたいのか」「自分たちの業務が役にたっているのか不明」など、元請からのフィードバックが少ないことが指摘されたと記録している。

BIM導入によって明らかとなった効果

元請側の作業所長の下でBIM担当者が専門工事会社側のBIM窓口と一体になって提携

施工BIMを更に充実したものとするための今後に向けた手法も提案している。大前提として、BIMは手段であって、「BIMに取り組むことを目的としているうちは大きな効果は享受しにくい」とし、施工BIMの原点である「お互いに楽になるストーリーを元請が提示でき、関係者がそれに共感することで効果をお互いに享受することが重要」と提言している。そのためには、発注者・設計者・元請・専門工事会社が参画し、お互いの業務を調整する効果を享受できる機会を設けることが重要だ。

元請は、専門工事会社との間で、いかしてWIN-WINの関係を築くのかが提案されている。元請単独では施工BIMの効果は限定的であるので、元請側の作業所長の下でBIM担当者が専門工事会社側のBIM窓口と一体になって提携すること。その際には、お互いが提携する目的を共有し、なおかつお互いにメリットがなければならない。そのような関係の中で作成、調整された正しいデータを次の工程でどのように活用するかを考えることで、「手戻り防止」と「合意形成」という実利的なメリットを享受できる。また、自分で手を動かしている技術者に効果が生まれ、直接、手を動かさない元請の技術者は、効果は享受できないとしている。

施工者による建てるための生産情報を設計者が設計図書に反映するフロントローディング

次いでフロントローディングの誤解を解き、原点回帰すべきだと提案している。フロントローディングの目的は、着工までに主要な課題・リスクを整理し、着工後の手戻りをなくすことであり、そのリスク回避を共創して設計図書に反映することだ。

フロントローディングの本来のあり方について再考すると、設計者の役割は、建築主のニーズを設計図書に翻訳し、施工者に対して工事に必要な情報を提示することだ。それを受けて施工者は、建てるための生産情報を設計者に提示し、その後、設計者と施工者の協議の上、設計者は、生産情報を設計図書に反映する。このように設計者と施工者がお互いの立場を尊重したコミュニケーションをとることが本来のフロントローディングの在り方だとしている。

そのようなフロントローディングを実施する際に、設計者は、意匠・構造・設備の各部門間で整合性が取れた設計モデルを施工者に提示するのだが、その際の現実的な課題解決策も提案している。それは、設計段階での意匠・構造・設備の各部門の整合性は完全に干渉がない状態を目指すのではなく、着工後に施工上問題が生じないレベル(=施工可能なレベル)の整合性を確保することだ。

施工者は、施工可能なレベルの整合性が確保されている設計モデルに基づき、施工図・製作図レベルで図面(BIM)が整合しており(寸法の確定)、設計モデルと乖離しない施工BIMモデルを構築する。

施工者と専門工事会社間のコーディネーション業務=施工BIMを担うBIMマネージャー

前述したように、日建連では、施工BIMとは、日建連が提唱した業務の進め方であり、施工者と専門工事会社間で実施するコーディネーション業務(すり合わせ)を施工BIMと命名した。施工BIMを展開する中で、フロントローディングによる設計者とのコーディネーション業務と共に、専門工事会社とのコーディネーション業務を担う新しい職能=BIMマネージャーが登場している。BIMマネージャーは、関係者が一堂に会してBIMモデルを持ち寄り、検討するすり合わせ会を主催する。

すり合わせ会の優れた実例については、日刊建設工業新聞2016年11月24日(初出)刊行の「BIMの課題と可能性・135」現場作業事務所でのBIM運用・2において竹中工務店のケースとして報告している。筆者は、大阪市西区西本町の建替工事現場を実際に訪問し、詳細をヒアリングした。建替工事の概要は、敷地面積475.42平米+建築面積356.72平米+延床面積4,014.19平米+地下1階+地上11階+塔屋1階+S造(地下一部RC造・SRC造)であった。この工事現場は、作業所長を含めて全11人で運営されており、BIM運用において最も重要な役割を果たすBIMマネージャー1名が常駐していた。

強調すべきは、経験豊富なベテランの施工図担当者がBIM全般の運用を習熟し、BIMマネージャーを兼務していた点だ。施工図担当者は、従来から、施工可能なレベルの整合性が確保されている設計モデルに基づき、施工図・製作図レベルで図面(BIM)が整合しており(寸法の確定)、設計モデルと乖離しない施工BIMモデルを構築する役割を担っていた。

そのように、設計部門と意思疎通しつつ、サブコン、専門工事会社とBIM協働を進めていくBIMマネージャーは、建築とコンピュータの領域に跨がり、設計と施工の橋渡しをする新しい職能として位置づけられる。職能としてのBIMマネージャーは、日建連が提唱した業務の進め方の実践を司っており、施工者と専門工事会社間で実施するコーディネーション業務(すり合わせ)を担う。BIMマネージャーに象徴される新しい職能が施工BIMの実現を実利的、現実的に可能にしている。

当該工事現場における「基本設計から生産情報を取り込み、着工後初期段階で施工モデルの調整を完了」するためのワークフロー
 

【予告】施工BIM特集 次回は…

「施工BIM特集」第2回は、2月20日(木)掲載予定となります。
テーマ「BIM援用の典型事例として生産拠点をデジタル革新する“熊谷組”の施工BIMの現在地+展望」です。