建設工事受注高は増加傾向。数字からみる建設業界の現状と未来

建設工事受注高は、建設業界の動向だけでなく、世情を反映した金額です。そのうえで、過去数年の建設工事受注高は100兆円を超えているため、建設業界のニーズは高いように予想されます。

しかし、労働人口は減少しており、労働時間や労働環境に関しては、課題を残している状況にあります。

本記事では、2024年と過去数年の建設工事受注高の推移を振り返ったうえで、今後の展望について考察していきましょう。

「トレンドワード:建設工事受注高」

国土交通省が発表した「建設工事受注動態統計調査報告」では、2024年の受注高が2023年と比較して上昇傾向にあると発表しました。1月から6月までの受注高を見てみると、1月は6兆4,739億だったものの、3月は13兆8,259億円となっており、4月・5月も10兆円を超えている状況です。

とくに、6月の受注高の構成割合を見てみると、7兆円は元請け、3兆円は下請けの受注高となっています。そのため、大規模な工事に付随する電気や設備工事の受注高も増加傾向にあるといえるでしょう。

過去数年の建設工事受注高の推移

「建設工事受注動態統計調査報告」の数字から、過去の建設受注高を年度に分けると次のような数字となります。

年度受注高(約)
2020104兆1,204億
2021106兆9,940億
2022116兆5,773億
2023110兆5,776億

2022年の受注高が高い理由は、民間投資が増加したためです。また、建設費の上昇も始まっており、工事受注額がより高くなる傾向が反映されているといえるでしょう。

知っておこう。都市部と地方の受注高の構成

都市部と地方では、建設工事受注高の割合が異なります。

都市部では、大規模な再開発プロジェクトやオフィスビル、商業施設の建設が活発に行われている傾向です。特に東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、新たなビジネス拠点や高層マンションの建設が続いており、受注高の増加につながっています。

また、交通インフラの整備も進んでいるため、都市部での建設需要は非常に高い状態が続いています。

対して、地方では、新築需要が縮小している一方で、インフラの維持・補修工事や地方創生に伴う観光インフラの整備が主な受注の対象となっています。そのため、公共工事の割合が都市部よりも多い状況です。地方によっては、60%ほどが公共工事が割合を占めているケースもあります。

建設工事受注高から考える建設業の今後

ここでは、建設工事受注高から建設業の今後について、予想していきます。労働人口の減少やDXの導入、BIMの活用など業界の働き方や慣習が変わりつつある状況です。

国内市場の予想

国内の建設市場は、数年単位で「環境に配慮した建物への取り組み」が各社にとって重要なテーマだといえるでしょう。SDGsの目標達成やカーボンニュートラルの実現など、環境に配慮した建設が求められています。今後、省エネ法の厳格化やZEB・ZEHの普及がより大きな課題となる可能性も予想できます。

また、エネルギー効率の高い建物や再生可能エネルギーを活用した建設プロジェクトの需要は世界規模で増加し続けています。そのため、建設業者は、ZEBやZEHの基準を満たす技術やノウハウを持つことが企業競争力につながるといえるでしょう。

再生可能エネルギーの利用やゼロエミッション(廃棄物ゼロ)建設現場の実現も進められているため、技術革新とコスト管理のバランスが求められます。環境規制は厳しさを増していくと予想されるため、業界全体での対応が必要になっていくでしょう。

また、インフラ整備もニーズが高まっています。とくに、橋梁やトンネル、水道管などの公共インフラの老朽化が進んでおり、安全性を確保するための大規模な補修・改修プロジェクトが増加するでしょう。

海外市場の動向

海外市場では、アジア市場の成長率が高い状況にあります。経済成長と都市化が急速に進んでおり、インフラ整備や都市再開発プロジェクトが増加しています。例をあげると、インドネシアやベトナム、フィリピンなどでは、都市の再開発や交通インフラ整備が進んでいるといえるでしょう。

そのため、日本の耐震技術や環境配慮型の建設技術は、需要が高く、海外市場は競争力を高められる分野だと判断できます。ただし、新興国市場では、政治的不安定性や法規制の変化、為替リスクなどが事業に影響を与える可能性があります。

仮に、インフラプロジェクトが進行中に政権交代が起きた場合、契約条件が変更されたり、プロジェクトが中止されたりするリスクがあります。そのため、アクシデントやトラブルが起きた場合の対応も予想しておかなければなりません。

業界全体の課題

国内外の市場を問わず、建設業界全体で直面している課題は次のようなものがあります。

  • 長時間労働(日本の場合、残業規制があるがそれでも他業種よりも労働時間は長い)
  • 業務効率化・生産性の向上(DXやAI、BIMの導入ができていない事業者が多い)
  • 人口の減少(入職者が増加しても労働環境やスキルが育つ環境になく、退職に至る。高齢化が進んでいる)

日本国内では、高齢化が進行し、若年労働者の建設業界への参入が減少しています。そのため、育成就労によって外国人労働者の受け入れが進められている状況です。今後も外国人労働者の活用を行うといった傾向は変わらないといえるでしょう。

また、DXの遅れも業界全体の課題です。BIMやAIIoTなどの先進技術は、一部の企業で建設現場に導入されているものの、業界全体では、まだまだ普及しきれていないといえます。そのため、中小企業が効果的に活用できるようになるには、教育とトレーニング、充実した支援制度が必要です。

加えて、先進技術を上手く活用できれば、設計から施工、維持管理までのプロセスが効率化されます。そのため、コスト削減や品質向上が期待できるでしょう。遠隔地での施工管理や、AIによるデータ分析を用いた最適化が可能となっているため、今後は労働力不足の対策としてより注目を浴びると予想されます。

まとめ

建設工事受注高は、過去数年で100兆円を超える高水準を維持しており、建設業界の需要が依然として強いことを示しています。国土強靭化やインフラ整備、環境対応型プロジェクトが受注高の増加に影響を与えているといえるでしょう。

しかし、労働人口の減少や働き方改革の遅れといった課題も浮上しています。国内市場では、省エネやカーボンニュートラル対応が進んでおり、老朽化したインフラの改修需要も高まっています。海外市場では、アジア諸国のインフラ需要が成長しているものの、政治的不安定性や法規制の変化への対応が求められる状況です。建設業の今後に関しては、DXの導入や労働環境の改善が建設業界の持続的な成長に必要だといえるでしょう。