月面基地建設「アルテミス計画」とは?わかりやすく解説|宇宙でもゼネコンが活躍
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「アルテミス計画」についてピックアップします。NASAが主導している月面開発プロジェクトで、日本人宇宙飛行士の参加が大きな話題になりました。本記事ではアルテミス計画の目的や日本の役割を分かりやすく解説するほか、国交省による「宇宙無人建設革新技術開発」についてもご紹介します。
アルテミス計画とは
アルテミス計画とは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が行っている月への有人探査ミッションのことを指します。2020年代に人類を月面に送り、持続可能な月面探査を確立することが主な目標です。
これはアポロ計画以来初めての大規模な月探査プロジェクトであり、将来的な火星探査への足掛かりとしても期待されています。アルテミス計画の参加国は、アメリカ、日本、カナダ、イタリア、ルクセンブルク、UAE、イギリス、オーストラリアの8か国です。
アルテミス計画の目的
アルテミス計画の主な目的は、月への再有人探査を通じて持続可能な宇宙探査への基盤を築くことです。具体的には「2025年までに最初の女性を、次の男性を」月面に着陸させることを目指しています。
そもそもアルテミスとは、ギリシャ神話に登場する月の女神の名前が由来です。ちなみに1972年の「アポロ計画」の由来である太陽神アポロンは、アルテミスと双子という関係性です。今回の計画は、女性初の月面着陸達成という点も注目されています。
日本の役割を簡単に解説
日本は、アルテミス計画において重要な役割を果たしています。主な役割としては、下記が挙げられます。
- 日本人宇宙飛行士2人が月面着陸予定
- 月面探査車「ルナ・クルーザー」を運用
- 有人基地「ゲートウェイ」への物資補給
日本人宇宙飛行士が月面着陸することになった背景には、人種や性別の多様性を認める「ダイバーシティ」への配慮も伺えます。日本はJAXAトヨタ自動車が開発する月面探査車「ルナ・クルーザー」も提供しており、大きな役割が期待されています。
月面基地「ゲートウェイ」とは
ゲートウェイとは、アルテミス計画で構築が予定されている有人中継基地のことを指します。持続的な月面探査活動に向けた中継基地として、月の軌道上を周回します。将来的には4名の宇宙飛行士が年間30日程度滞在し、火星有人探査に向けた拠点としての活用も担う予定です。
日本は、主に国際居住モジュール(I-Hab)内のクルーの生命維持に不可欠な環境制御機能を担当しています。空気の循環制御、気圧の制御、酸素の供給制御、温度湿度の制御、二酸化炭素や有害ガスの除去制御を担う装置を提供します。将来的には、宇宙飛行士の衣食住を支える物資の輸送等も行う予定です。
国交省、宇宙無人建設革新技術開発を推進
国土交通省では、将来的に月面での建設活動を行うことも視野に入れています。そのため、無人化施工やICT施工といった最新技術のさらなる開発を促進しています。
2021年度から始まった「宇宙建設革新プロジェクト」は、地上の建設事業における基盤技術を確立するのが目的です。2024年度は、前年からの継続プロジェクトが12件採択されました。ここでは、主な案件の内容をご紹介します。
鹿島建設|自立遠隔施工
鹿島建設は、建設環境に適応する自律遠隔施工技術の開発を行っています。月面と地上では重力や土質、環境が大きく異なるため、効率的な開発には月面環境を再現した仮想環境でのシミュレーションが重要です。
このプロジェクトでは地上で模擬試験を行い、その結果を仮想空間で再現するプラットフォームを開発します。これを月面施工用に拡張することで、月面での大規模な施工シミュレーションを実現できるのが特徴です。検証の成果は、地上での自律自動化施工システムにも活用される予定です。
清水建設|環境認識システム
清水建設では「自律施工のための環境認識基盤システムの開発及び実証」を行っています。月面での建設活動では、地球からの通信が数秒遅れてしまいます。そのため安全に作業を行うには、地球からの指示を減らして機械が自律的に作業できるシステムの構築が必要です。
この技術開発では、建設機械に搭載するデバイスと人工知能(AI)を使って、機械自身が判断し、自律的に作業を行うシステムを構築します。具体的には作業の厚さやエリアなどの簡単な指示を行うと、AIが作業箇所までの経路や敷均作業の経路を自動生成するのが特徴です。
この基盤が完成すれば他の建設機械にも応用でき、様々な自律施工機械が実現します。より高度な自律施工が可能になることで、建設機械の多様化と効率化が期待されます。
大成建設|SLAM自動運転
大成建設では「月面適応のためのSLAM自動運転技術の開発」が行われています。月面で無人建設を行うためには、建設機械の正確な位置情報を得る必要があります。しかし、月面には地球のような測位衛星システムがありません。
そこで、環境情報を活用するLiDAR-SLAM技術と、人工的な特徴点を使うランドマークSLAM技術を組み合わせた「ハイブリッドSLAM技術」を開発します。これにより、月面の特殊な環境に適応可能な自動運転技術を構築することが目標です。
2023年度に鳥取砂丘やJAXAの宇宙探査実験棟で模擬月面環境を使った実験では、SLAM技術が月面環境に適応できることが実証されました。今後は月面建設での長距離輸送を実現するため、より運用性の高いシステムの開発を進める予定です。
大林組|月資源を用いた建材製造
月の拠点基地まで地球から建材を運ぶのは、非常に費用がかかります。そのため大林組では、月資源を用いた拠点基地建設材料の製造と施工方法の技術開発を行っています。
具体的には、月にある土壌(レゴリス)が建設材料として使われる予定です。太陽光発電などのエネルギー源を利用して、マイクロ波やレーザーで加熱して焼成物を現地で製造します。
真空や低重力など、月の環境でも技術が使えるかどうかを検証します。この技術は、地球上の過酷な環境下でも役立つ可能性があります。
小松製作所|デジタルツイン建機で月面適応
小松製作所は、デジタルツイン技術を活用した月面環境に適応する建設機械の開発を行っています。月面での建設作業は直接現場にアクセスするのが難しいため、現場環境や機械を精密にサイバー空間に再現する必要があるのです。
これまでに作成したシミュレータに新機能を追加し、精度を向上させることで、月面建設機械や無人自律施工技術の開発を支援します。このシミュレータを使って具体的な月面建設機械の設計・検討を行い、得られた知見を地球上の建設機械や施工方法の高度化にも活用する予定です。
まとめ
アルテミス計画では、約半世紀ぶりに人類が月面着陸する予定です。将来的には、宇宙空間での建設活動が行われる日も近いかもしれません。自動施工や遠隔技術は地球上での人手不足対策としても有効な手段のため、さらなる開発が期待されます。