2024年5月|建設業における人手不足対策の現状を解説

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著者:鈴原 千景

日本では、2040年以降に労働人口が6,000万人を下回る可能性が高いとされています。建設業においても、人手不足が深刻化しているという声を聞く機会も多いでしょう。実際に、建設業では若年層の3倍以上の団塊世代の人々がいるものの、2030年までには大量に離職すると予想されています。

本記事では、2024年5月段階の建設業における人手不足対策について詳しくみていきます。

「トレンドワード:人手不足対策」

建設業における人手不足対策は、大きく分けて次の3つの対策を実施していくことを意味します。

  • BIM/CIMやドローンAIなどのICT技術の活用(作業効率の向上・生産性向上・業務効率化)
  • 待遇改善
  • 労働環境の改善

ICT技術の活用に関しては、大手企業だけでなく、中小企業でも取り組み始められています。遠隔でのタワークレーンや重機操作、施工管理、ロボットによる施工なども珍しい取り組みではなくなってきました。

待遇改善に関しては、給料の体系を月給制にする、給与水準を見直し引き上げを実施するといった方法があります。また、福利厚生に関しては、会社に所属している場合と一人親方や小規模事業者では大きく差があるのが実状です。

たとえば、テレワークの実施や生産性向上による労働時間の削減などは実施できる企業とそうでない企業に分かれるといえるでしょう。

現在、業界全体として社会保険の加入だけでなく、キャリアアップシステムの活用による構成なスキル評価などを行い、正統な給与を受け取れる仕組み作りが進められています。

労働環境の改善に関しては、残業時間の上限規制もふまえて、ノー残業デイの設置や土曜日の作業所閉所、勤怠管理システムの導入などに取り組む企業が増加傾向にあります。工期に関しても週休2日を前提とした設定を行うケースは今後増えていくといえるでしょう。

建設業における人手不足の原因

ここでは、建設業における人手不足の原因についてみていきましょう。とくに、イメージと待遇改善は、業界をあげて取り組まなければならない課題となっています。

たとえば、「デジタル技術を使用しない、これまでの事業運営方法」にこだわる事業者が多いとしましょう。そういった場合はなぜ変化が必要なのか、そうしなければ将来的にどうなっていくのかを明確に説明しなければなりません。

デジタル技術の導入においても、現場の声を拾いつつ、できるところから取り入れて改善・自社の業務に最適化していくことが求められています。

入職者よりも退職者が多い

建設業界では、入職者よりも退職者が多いという状況が続いています。実際、退職率だけをみてみると、全産業の中でも低く、令和3年雇用動向調査結果では9.3%程度です。

しかし、入職者が少ない状況であるため、審査に対する業務の負荷が高まるような状況になりつつあります。そのため、人手不足がより深刻化しているといえるでしょう。

技術者の高齢化が進んでいる

建設業界の労働人口は470万人程度です。しかし、年齢層をみてみると、2022年時点55歳以上の比率が36%となっています。単純に計算しても、169万人の人々が10年以内に退職する状況にあります。

年齢による退職に対応できる対策は、ITツールの導入による生産性向上や人材の採用などが代表的です。しかし、対策方法を知っていても、コストを気にして実践に踏み切れない事業者が多い点も知っておきましょう。

労働環境の改善が難しい

適正な工期の設定や残業時間の上限規制といった法律や指針の改訂が繰り返されています。残業時間に関しては適正な勤怠管理が必須となるため、ツールやアプリの導入などが進むと予想されるでしょう。

しかし、危険な場所での作業や人的負荷の高い検討業務などは、事業者によっては人材に頼るしかないケースもあります。また、システムやAIを使用したツールの導入においても、人材がいなければ扱えません。

労働環境の改善を行うためには、人材の採用や育成計画、導入するツールなどを総合的に見直したり、戦略を客観的に立てたりすることが必要です。

人手不足対策の事例

ここでは、実施されている人手不足対策の事例についてみていきましょう。業界全体というよりも、企業単位ではあるものの、自社の課題と向き合い、1つずつ対策を実施していくことが大切です。

省人化・生産性向上

これまでの業務内容を見直したうえで、部分的にITツールを導入した場合は省人化・生産性向上につながります。たとえば、タブレットなどによって現場の状況を共有・報告できるツールによって、次のようなメリットが生まれるでしょう。

  • 管理者・技術者の手間削減(報告・連絡・相談の簡略化)
  • 省人化(遠隔地から現場を管理する、常駐する管理者の削減)
  • 生産性の向上(何度も同じ説明が要らなくなる)

また、対応するソフトウェアの購入が必要となるものの、BIM/CIMが導入できれば、より細かい情報共有やコミュニケーションが可能となります。デジタルの3次元モデルを作成したうえで、設計から管理にいたるまでの情報が網羅されており、検討・計画段階の積算や照会作業も効率化できます。

外国人労働者の受け入れ

企業によっては、外国人労働者の受け入れを積極的に行っているケースもあります。社内での行事や管理者によるコミュニケーションなども含めて、ケアが必要となるものの、人材不足に対する有効な対策方法の1つです。

習慣・文化、ルールの違いに関しては、次のような対策も考えられます。

  • 研修・セミナーを開き事前に知っておく
  • 外国人から文化や習慣なども含めてコミュニケーションを取れる体制を作っておく

長期的に自社で活躍してもらうためにも、業務内容に加えて、文化や習慣を理解しようとする受け入れ体制の構築が大切だといえるでしょう。

まとめ

建設業は、他の業界と比較して人材不足が深刻化している状況にあります。これまでの働き方や待遇など、入職しにくい状況となっていた点は事実だといえるでしょう。しかし、残業時間の規制や適正な工期設定の実施など、これまでの働き方を変える法律やルールができつつあります。

また、生産性向上や業務効率化に関しては、AIやロボット、BIM/CIMを活用することで、実現に近付くといえるでしょう。対策の内容を1つずつ吟味し、実践できるところからスタートしましょう。