建設ディレクターとは|資格の難易度やデメリット
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「建設ディレクター」についてピックアップします。建設現場の業務の中からバックオフィス業務を切り出して分業化することで、チーム全体での効率化を図ります。本記事では建設ディレクターの仕事内容や国交省の具体事例、デメリットについてもご紹介します。
建設ディレクターとは
建設ディレクターとは、建設現場のバックオフィス業務を部分的に分業する職種のことを指します。バックオフィス業務だけを切り出して建設ディレクターに割り振ることで、業務効率化を図るのが目的です。
建設現場では、実際に現場で行う管理業務や打合せ等だけを行っている訳ではありません。書類作成や写真管理といった事務作業も多く発生し、これが業務過多の原因となってしまっています。
しかし建設ディレクターに分業すれば、現場社員への負荷を軽減できます。2024年からは建設業での残業規制がスタートすることもあり、建設ディレクターへの注目が高まっています。
建設ディレクターの仕事内容
建設ディレクターの仕事内容には、下記の業務が含まれます。
- 工事書類の作成
- 積算・入札
- 写真管理
- 測量補助
- DXアプリの運用
- 図面の作成・修正
- 3Dデータの作成
- 出来高管理
- 施工体制台帳の作成
これまでの建設現場では「業務の属人化」が課題となっていました。しかし実際には書類業務の多くが他社員でも行えるものが多く、建設ディレクターの導入によって「チーム力が高まった」という声も多く上がっています。
こういった業務は新入社員や若手でもできることから、会社全体での適切なワークシェアリングに貢献できます。ベテラン社員がよりコアな業務に注力できることで、生産性向上にも繋がるのです。
建設ディレクターの資格・テスト
建設ディレクターの資格としては、(一社)建設ディレクター協会による「建設ディレクター育成講座」があります。全8回(48時間)の講座を受講した後に終了テストを受けることで、「建設ディレクター認定証」の資格が認定されます。
経験豊富な専門家が講師を担当しており、実践に不可欠な基礎知識の理解やノウハウ、現場とのコミュニケーションの幅を広げる知識が習得できるのが特徴です。実際の講座内容は、下記の通りです。
- ①建設業マネジメントⅠ
- ②建設概論
- ③施工管理
- ④工事書類
- ⑤積算
- ⑥電子納品
- ⑦建設IT活用
- ⑧建設業マネジメントⅡ
建設ディレクターは国家資格ではなく民間資格であり、受験の条件も特に定められていません。そのため難易度はそれほど高くなく、年齢や職種を問わず幅広く受験可能です。
建設ディレクターが注目されている背景
ここでは、建設ディレクターが注目されるようになった背景についてご紹介します。
2024年問題|建設業に残業規制
「2024年問題」とは、建設業で時間外労働の上限規制が適用されたことによって生じる様々な問題のことを指します。具体的には時間外労働の上限が「月45時間・年360時間」になりました。特別な事情がある場合でも、「年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間」が限度となります。
これにより残業に制限が掛かってしまうことで、現場業務が回らなくなる可能性が指摘されているのです。対策としてDXツールの導入や業務効率化が促進されており、建設ディレクターに分業することも選択肢の一つとして上がっています。
建設業の2024年問題について詳しくは、下記記事をご覧ください。
国土交通省で建設ディレクターを導入した事例も
2023年に国土交通省から発表された「建設業における働き方改革推進のための事例集」では、働き方改革に役立てるための取り組みが紹介されています。その中の「建設ディレクターによる⽣産性向上の取組【株式会社⻄九州道路(本社︓佐賀県佐賀市)】」で、具体的な事例が取り上げられています。
それまでは仕事の特性上、全ての業務を現場監督本⼈が⾏いがちという課題がありました。そこで建設ディレクターという新たな職域を採用して、⻑時間労働の是正に取り組んだという経緯があります。
建設ディレクターの具体的な仕事内容は、下記の通りです。段階的に業務を進めることで、スムーズな連携が実現しました。
- ⼊社1年⽬:写真整理、CAD操作・図⾯編集、測量補助
- 2年⽬:数量計算書、出来形管理、品質管理、⼯程管理、産廃関係、電⼦納品、図⾯作成
- 3年⽬:着⼯前測量成果簿、施⼯計画書作成等、書類関係全般
建設ディレクターの導入で、現場監督が本来の重要な業務に時間を使えるようになりました。また総務部等との部署間の垣根がなくなり、契約や変更や完成時の業務がスムーズになった点もメリットとして挙げられています。
建設ディレクターのメリット
建設ディレクターの主なメリットは、下記の通りです。
業務効率化
建設ディレクターと分業を図ることで、現場技術者の長時間労働を軽減できます。技術者とワークシェアし、効率化が期待できるのがメリットです。
2024年からは残業規制が開始されており、業務を分散させる仕組み作りから取り組むことが求められています。
現場の離職率低下
「日中は現場に出て、夜遅くまで事務所で書類作成をする」といったワークスタイルは、残業の原因になります。これが原因で現場監督の離職に繋がってしまうため、業務の切り分けが求められているのです。
実際に建設ディレクターを導入した現場からは「頼れる人がいると、心の余裕に繋がる」といった声が上がっており、職場環境の向上に役立っています。このように、建設ディレクターの導入は、現場監督の業務多忙による離職防⽌に貢献します。
女性が活躍できる
建設ディレクターの仕事内容は、バックオフィス業務がメインです。そのため、事務作業を希望する女性が採用されるケースが多くなっています。
実際に「建設ディレクター育成講座の参加者の約7割は女性」というデータがあり、期待の職種として、新規雇用創出のきっかけにもなっています。また出産や介護といったライフイベントの際も、リモートワークで対応できる点も大きな魅力です。
建設ディレクターのデメリット・注意点
建設ディレクターの導入には、下記のようなデメリットや注意点もあります。
コストが掛かる|助成金が使える場合も
建設ディレクターを採用することで、人件費が余計に掛かる場合があります。また自社で建設ディレクターを養成して配置転換する場合にも、研修費用等が掛かるのがデメリットです。
例えば建設ディレクター育成講座を受講するためには、330,000円の費用が掛かります。
しかしこの講座は、厚生労働省の助成金「人材育成支援コース」を活用できます。助成金を利用することで「自社負担額165,540円」に抑えられるのです。
ただし助成金の利用には、「対象が雇用保険加入者であること」等の条件があるため注意しましょう。助成金についての詳細は、管轄の労働局に確認するのがおすすめです。
【参考】人材開発支援助成金
コミュニケーションの問題
建設ディレクターの仕事内容は、従来一人で完結していた業務を分割することで発生します。そのためコミュニケーションや伝達が上手くいっていないと「自分でやった方が早い」という結果になってしまいます。
また建設現場は、ほぼ男性で構成されているのが特徴です。そのため女性の建設ディレクターが配属されると、中々打ち解けられないといったトラブルが起こる可能性もあります。
しかし多くの現場では建設ディレクターの導入後も業務が円滑に行われており、適切なデジタルツールを活用することでさらなる効率化も期待できます。
まとめ
建設業ではいよいよ残業規制がスタートし、2024年問題が回避できるかどうか注目されています。業務の集中を防ぐには、適切な分業やチームワークが必要です。建設ディレクターの導入による、多様な働き方の広がりが期待されます。