2024「区分所有法改正」をわかりやすく解説|マンション高齢化はDXで対策
目次
トレンドワード:区分所有法の改正
「区分所有法の改正」についてピックアップします。マンションの老朽化・高齢化といった課題を受けて、2024年に法改正が行われます。本記事では区分所有法の改正内容や、高齢化に対応するためのDX技術について詳しくご紹介します。
区分所有法とは|わかりやすく解説
区分所有法とは「建物の区分所有等に関する法律」の通称です。具体的には、マンションやビル等の建物の一部分だけを所有する場合の所有権について定められています。
昭和30年代に団地が急速に増えたことを背景に、1962年に初めて区分所有法が施行されました。しかし団地が急増したことで共有部分の管理等でのトラブルが多発したため、その後1983年(昭和58年)に改正が行われています。
建物の建替えについては、それまで原則として「区分所有者全員の合意が必要」とされていましたが、「区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数」に基準が緩和されました。全員の合意を得るのは現実問題としてほぼ不可能であったため、改正により建替等が行いやすくなったのです。
2024年に区分所有法が改正予定|各省の動き
2024年に、区分所有法が改正されようとしています。ここでは法改正に向けた主な動きについてわかりやすく解説します。
国土交通省|マンションの現状と課題
全国のマンションのストック数は約685.9万戸で、1,500万人超が居住しているというデータがあります。そのうち築40年超のマンションは現在115.6万戸で、10年後には249.1万戸・20年後には425.4万戸となる見込みです。その一方で、マンションの建替えは累計244件(約19,200戸)に留まっているのが課題となっています(2021年時点)。
そしてマンションの管理に関する現状と課題として、国土交通省は下記4点を挙げています。
- 高齢化・非居住化、管理組合の担い手不足
- マンションの大規模化等
- 既存住宅流通量の増加、管理情報の不足
- 適切な長期修繕計画・修繕積立金の不足
建物の老朽化を抑制し、周辺への危害等を防止するための維持管理の適正化はもちろんですが、維持修繕等が困難になったマンションの再生に向けた取組の強化が喫緊の課題です。
法務省|中間試案
法務省では、2023年6月に取りまとめられた中間試案の中で、老朽化したマンションの管理、修繕や建て替えについての方針を示しています。
具体的には、「建替決議の多数決要件の緩和」が注目されています。基本的には現行の「5分の4の賛成」が維持されますが、建物の安全性が確保されないと判断された場合には「4分の3」に引き下げられます。
また、これまで集会等の不参加者は反対者と見なされてきましたが、所在不明者が複数いることで合意形成が図りにくいのが課題でした。そのため改正後は「出席者の多数決」による決議が可能となる予定です。
区分所有法改正の背景「2つの老い」|3つ目の老いも課題に
区分所有法改正の背景としては「2つの老い」の問題があります。ここでは、それぞれについて詳しくご紹介します。
①建物の老朽化
現在、築40年以上の高経年マンションは115.6万戸で、マンションストック総数の約17%を占めています。
築年数の経った建物には適切なメンテナンスが必要ですが、中には維持管理が放棄されている事例もあります。共用部分である外壁等の剥落、鉄筋の露出・腐食、給排水管の老朽化が進むと、見た目が美しくないだけでなく生命・身体に危険が及ぶリスクも生じます。
基本的には、マンションの大規模修繕工事の周期は12年です。しかし築40年以上のマンションの約4割、築30年以上のマンションの約2割で適切な修繕が行われていない可能性があります(平成30年度マンション総合調査)。
②住民の高齢化
マンション居住者の高齢化の状況に対する調査によると「60歳以上のみ世帯」の割合は、築年数が古くなるほど増える傾向があります(平成30年度住宅・土地統計調査)。
このように、マンションのソフト面においても高齢化・非居住化(賃貸・空き住戸化)が進行しているのが課題です。これにより管理組合の役員の担い手不足や、総会運営や集会の議決が困難等の課題を抱えているケースもよく見られます。
③労働者の高齢化
マンションの大規模修繕では、長期間に渡る工事が必要です。しかし現実問題として建設労働者の人手不足が進んでおり、将来的に「建設業の労働者がいない」という状況になる恐れがあります。
60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)を占めており、10年後にはその大半が引退することが見込まれます。その一方で、これからの建設業を支える29歳以下の割合は全体の約12%程度に留まっているのが現状です。
若年入職者の確保・育成が喫緊の課題であり、担い手の処遇改善、働き方改革、生産性向上を一体として進めることが求められます。建設業の課題について詳しくは、下記記事をご覧ください。
マンション高齢化に対応するDX技術事例
「マンションは管理を買え」という言葉が良く聞かれます。実際に、新築時の間取りやデザインのおしゃれさよりも、管理が行き届いたマンションの方が住み心地が良いものです。
デジタル技術を駆使することで、高齢化が進んでも適切な維持管理をサポートしてくれます。ここでは、マンションの高齢化に対応するためのDX技術についてご紹介します。
大京アステージら|マンション居住者サービス「POCKET HOME」
大京アステージと穴吹コミュニティは、2023年に「POCKET HOME(ポケットホーム)」の運用を開始しました。これは、分譲マンションの管理組合総会をアプリからオンライン形式で開催できる居住者向けサービスです。
POCKET HOMEは、全国で管理を受託する約 54 万戸のマンションを対象に無料で提供されています。具体的な機能としては、オンラインで総会への出席・議決権行使(投票)ができる「マンション WEB 会議」、「LINE からお問い合わせ」、「AI 自宅査定」など、6つのコンテンツが搭載されています。
これにより、総会の出席率向上や手間の削減など、居住者の利便性がアップします。また、マンションの資産価値の維持・向上にも貢献します。
大成建設|BIMによる建物情報検索システム「R2-BIM」
大成建設では、2023年にBIMに基づく建物情報検索システム「R2-BIM」を開発しました。これは、キーワードを文字入力するだけで建物の維持管理履歴に関する情報を検索できるシステムです。
建物の維持管理では、設備機器のメンテナンス時期や仕上げ材といった過去のデータを把握する必要があります。しかし情報が図面にバラバラに記載されていたり、そもそも工事記録が残っていなかったりするケースも多く、各種情報の取得が難しいのが課題でした。
そこで大成建設では建物情報をBIM化し、設備機器のメンテナンス時期、型番、メーカーといった詳細情報を文字検索できるシステムを開発しました。これにより専門知識を持たない方でも検索が可能になり、建物の維持管理や改修等の業務効率の向上が期待されています。BIMについて詳しくは、下記記事をご覧ください。
まとめ
最近では新築マンションの価格高騰により、若い世代でも築古マンションを購入するケースが増えています。今回の区分所有法改正で、建て替え等のメンテナンスが進むことが期待されます。維持管理の際には、BIM等の適切なデジタル技術を活用した賢い運用が求められています。