メタバースに「警察」はいない?法整備の課題や事例まとめ
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トレンドワード:メタバース空間の法整備
「メタバース空間の法整備」についてピックアップします。メタバース空間が急速に広がる中、「法整備が追い付いていない」との声も聞かれ、課題が多いのが現状です。本記事ではメタバース空間でのトラブル事例や、法整備の在り方についてご紹介していきます。
メタバースとは
メタバースとはインターネットを通し、利用者同士が交流できる仮想空間のことを指します。語源の由来としては、「超越」「高次元」という意味の「メタ(meta)」と、「宇宙・ユニバース(universe)」から取った造語となります。
仮想空間はCGで制作され、利用者はヘッドセットやゴーグルを装着してメタバースの世界に入ります。あくまでも仮想的な空間にはなりますが、VR端末を利用することで奥行きや音場も再現できるのが特徴です。
インターネットの世界にいながら「まるで現実のように」感じられることから、現実では難しい体験ができたり、アバターを介してコミュニケーションが取れたりと応用の場面は広がっています。
メタバースについて、詳しくは下記記事をご覧ください。
日本政府もメタバースへの対応を本格化|2023年法案提出も
内閣府から2022年6月に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2022」では、「多極化された仮想空間へ」の中で以下のように述べられています。
「分散型のデジタル社会の実現に向けて、必要な環境整備を図る。(中略)さらに、メタバースも含めたコンテンツの利用拡大に向け、2023年通常国会での関連法案の提出を図る。」
また2022年11月に行われた政府税制調査会では、メタバースでの取引やデジタル資産売買に対する課税への必要性が指摘されました。政府では、メタバースでのトラブルを未然に防ぐためにも法整備を本格化する姿勢です。
メタバース空間の危険性|起こりうる問題は?
ここでは、急速に広まりつつあるメタバースの「リスクやトラブル」についてご紹介します。
メタバースのリスク
総務省のAI分科会の中では、メタバース空間で起こる問題として次のような例が挙げられました。
- 現実世界のデザインを仮想空間上でアイテム化した
- 他者のアバターのなりすまし
- 現実世界の他人の顔を自分のアバターに貼る
- アバター間の嫌がらせ
また経済産業省では「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」の中で、メタバースの問題は「12類型」あるとしています。メタバースのリスクやデメリットは、以下の通りです。
- 仮想オブジェクトに対する権利の保護
- 仮想空間内における権利の侵害
- 違法情報・有害情報の流通
- チート行為
- リアルマネートレード(RMT)
- 青少年の利用トラブル
- ARゲーム利用による交通事故やトラブル
- マネーロンダリングや詐欺
- 情報セキュリティ問題
- 個人間取引プラットフォームにおけるトラブル
- 越境ビジネスにおける法の適用に関わる問題
- 独占禁止法に関わる問題
メタバースは「現実世界の再現」という面があり、現実世界でのトラブルが同様に起こる可能性があります。しかし法整備が追いついておらず、トラブルに繋がりかねないのが現状です。
メタバース空間での法律の課題
メタバース空間ならではの「法律の課題」は下記が挙げられます。
- メタバース空間では「警察」の機能がない
- 「国際私法」の問題
メタバース空間では「警察」の機能がない
現実世界でルール違反があれば、国の公的機関である「警察」が動いてくれます。しかしメタバースの世界では、「警察のような組織が存在しない」という点が課題です。
現状では、各メタバースを提供している「運営企業」がトラブルに対応する形となっています。
たとえば「他のアバターにまとわりつく」という問題には、Meta社のHorizonでは「友達リストにないアバターとの距離は4フィート以上離す」というルールを設定しています。
このようにプログラムによって防止できる対策もありますが、現実世界のように自由度が高い分、仮想空間でのプログラムコード規定ではカバーしきれない課題も多いです。
「国際私法」の問題
国際私法とは、複数の国をまたぐ私人間の法律問題のことを指します。国際的な裁判を行う機関があるわけではないので、関係する国のうちどの国の法律を適用するのか決定しなければなりません。
インターネットの世界と同様、メタバース空間も複数の国をまたぐことが想定されます。そのため、できればアクセス元の国ごとにメタバース空間自体を変えるのが望ましいと言えるでしょう。
総務省の「情報通信政策研究」では、「たとえばドイツのユーザー画面にはカギ十字を非表示にするが、他国のユーザーには表示されたままにする」といったような対応が紹介されています(※ドイツでは、カギ十字のシンボルを公共の場で展示・使用することは法的に禁止)。
ただし表示が細分化されることで技術的処理に負荷が大きくなるのであれば、「より厳しい方の対応に合わせる」のは言うまでもありません。
メタバース関連の法律・トラブル事例
ここでは、メタバースに関連する法律や実際に起こったトラブル事例についてご紹介します。
商標権侵害かアートか?「メタバーキン」
2021年、NFT(代替不可能なトークン)の取引を行うマーケットプレイスで、エルメスの高級バッグバーキンを模した「メタバーキン」が出品されました。しかしブランドの許可を得ずに販売されていたため、知的財産侵害行為として販売中止の通告を受ける結果となりました。
制作したアーティストは「芸術的なアイコンと私のアートのリミックス」と主張していますが、ブランドの商標権に関する問題に発展しています。
「NFT」について、詳しくは下記記事をご覧ください。
「バーチャルYouTuberの“中の人”」への名誉棄損
実際の顔は出さずアバター等に扮して配信する「バーチャルYouTuber(V Tuber)」が人気を集めています。しかし誹謗中傷や悪質なコメントで「炎上」するケースも多く、トラブルに発展することも。
2022年8月に行われた裁判では、アバターへの中傷が「本人への名誉棄損」に当たるという判決が出ています。
訴えられた側は「中傷はアバターに向けられたもので、女性へのものではない」と主張していましたが、裁判所では「アバターの表象を“衣装”のようにまとって活動しており、女性本人への中傷に当たる」と結論付けています。
Vtuberはまだまだ新しい存在のため、法律も未整備な点が多いです。しかし今後このようなケースは増えていくと考えられ、対応が期待されます。
メタバースのルール整備が必要
ここでは、現時点で実際にメタバース上でどのようなルール作りがされているのかをご紹介します。
バーチャルシティガイドライン ver.1.5|バーチャル渋谷
バーチャルシティガイドライン ver.1.5は、2020年に始動した「渋谷区公認 バーチャル渋谷」で作成された、メタバースに関するガイドラインです。この取組には、東急建設、KDDI、みずほリサーチ&テクノロジーズといった企業が参画しています。
クリエイターエコノミーの実現に向け、NFT活用時の注意点や都市連動型メタバースでの活用の考え方を中心にアップデートしているのが特徴です。
メタバースでのNFTの活用方法を整理しているほか、アート・コンテンツでの活用や課題について論点をまとめています。また都市連動型メタバースでは、「実在都市の関係人口の増加」や「シティプライドの醸成」、「実在都市の 機能との連動」を主な目的としてユースケースが整理されています。
「煽りすぎ」には問題も|メタバースイメージ悪化の懸念
2022年11月、読売新聞による記事「仮想空間『メタバース』でセクハラ横行…臨場感あり『とにかく気持ち悪い』」が公開されましたが、「メタバースのイメージを不当に悪化させかねない記事にされてしまった」との情報提供者からの要望で、現在は取り下げられています。
取材を受けたバーチャル美少女ねむさんは、記事に関して「メタバースではミュートやブロックなど現実世界にはない自己防衛手段が充実しており、そういったものを駆使してユーザーが自分を守っている」、
「メディアがメタバースの危険性を過剰に煽ったり、政府がやけに規制に前向きだったりと、実際のユーザーの感覚からかけ離れた議論があちこちで起こっていることに、1ユーザーとして強い危機感」とコメントしています。
もちろんメタバースでのハラスメントに課題はありますが、「自由を妨げる規制をメタバースに持ち込まないでほしい」と懸念する声も大切にするべきでしょう。
まとめ|メタバース空間で問われるモラル
メタバース空間は、今後ますます広がると予想されています。しかし現状では、仮想空間の運営企業ごとにルールが定められているのが課題です。メタバースでのルール作りが急がれる一方、「ユーザーの感覚」に寄り添った対応が求められます。