【先行配信】グリーンインフラとは?「新時代」の街づくりを分かりやすく解説
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「グリーンインフラ」についてピックアップします。従来までのコンクリート中心の都市計画から、「自然との共存」へとシフトする動きに注目です。本記事では具体的な取組事例や、メリット・デメリット等についてご紹介していきます。
グリーンインフラとは
ここでは、グリーンインフラについて分かりやすく解説していきます。
グリーンインフラの概要
グリーンインフラとは「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」のことを指します。
グリーンインフラの構成要素は3つで、上図の通り「防災・減災」「地域振興」「環境」から成り立っています。持続可能な社会の実現、国土の適切な管理といった役割が期待されているのが特徴です。
日本社会は成熟期を迎えており、「経済成長一辺倒」ではなく「自然豊かな環境で健康に暮らせる社会」を求める価値観のパラダイムシフトが起きています。
そのため国土交通省では「グリーンインフラ推進戦略」を取りまとめ、国土計画への活用を推進しています。また鹿島建設、大林組といった大手ゼネコンでも、同様の取り組みが進められています。
「グリーンインフラ」と「グレーインフラ」の違い
グリーンインフラと対をなす言葉が「グレーインフラ」です。グリーンインフラは「土、植物等の自然環境」を指しますが、グレーインフラは「コンクリート等の人工物」という違いがあります。
しかしどちらかに偏るのが望ましいとは言えず、「双方の特徴を融合させる」ことが重要です。たとえば災害時にはコンクリートの丈夫な建物の方が安全で、「生きていく基盤」として不可欠でしょう。
災害にはこれまでグレーインフラのみで対応してきましたが、今後は自然構造物にも負担させる計画にシフトする必要があります。グリーンインフラとグレーインフラの特性を理解し、両方を組み合わせることが大切です。
グリーンインフラの事例(海外)
ここでは、グリーンインフラの具体的な事例をご紹介します。海外ではグリーンインフラの取り組みが活発で、先進的な事例が多くみられます。
事例①スペイン・バルセロナ
スペインのバルセロナでは、グリーンインフラの考えに基づいた都市計画がなされています。並木道に代表されるように、都市の自然空間ごとに自然環境を取り入れているのが特徴です。
バルセロナの代表的な建築物といえば、「サグラダ・ファミリア」がよく知られています。設計者のガウディは、「構造は自然から学ばなければならない」という考えを貫いた建築家でした。
巻貝や植物のモチーフなど「曲線」を多用した生物的なデザインが特徴で、自然法則に基づいた建築を目指していました。設計されたのは100年以上前ですが、現在の「グリーンインフラ」にも通じるものがあります。
またサグラダ・ファミリアは「永遠に未完成」の代名詞のようになっていましたが、ガウディの没後100年・2026年にいよいよ完成する予定です(※新型コロナウイルスの影響で遅延の可能性あり)。工期が早まった要因としては、「3DプリンタやCNC加工機」といったIT技術が大きく貢献しています。
事例②アメリカ・ポートランド
グリーンインフラは元々、アメリカで発案された社会資本整備手法です。ポートランドでは「自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用する」という考え方をもとに取り組みが進められています。
具体的には、高層ビルの屋上緑化や「グリーンストリート」が挙げられます。どちらも雨水管理が主な目的で、緑地を設けることで雨水の流水経路が確保できるのがメリットです。
事例③アメリカ・ニューヨーク
ニューヨークでは、屋上緑化面積に応じた固定資産税減税措置が図られています。また下水道エリア内の私有地を緑化し雨水管理することに対しては、助成金が支払われる仕組みもあります。
税制措置や助成金があることで、グリーンインフラ化が比較的スムーズに進められているのが特徴です。
グリーンインフラの事例(日本)
ここでは、国土交通省が発表している「グリーンインフラ大賞 国土交通大臣賞・優秀賞受賞事例」の中から代表的な事例をご紹介していきます。
【防災・減災】IKE・SUNPARK(池袋)
池袋駅から約1㎞にある「としまみどりの防災公園」の事例です。防災拠点やまちづくりの核として、平常時と災害時の両方で有効な公園整備が行われました。
既存樹木の保存と移植、以前あった巣鴨刑務所の石垣排水口のモニュメント化など、歴史を継承する取組みを実施しています。またヘリポートの計画箇所に芝生耐圧基盤材を活用することにより、芝生広場の面積を維持したまま耐圧性・雨水流出抑制の機能を確保しました。
【生活空間】コンフォール松原・松原団地記念公園(埼玉県草加市)
建設後50余年経過した「団地」の再生プロジェクトです。建替え以前の団地で育まれた環境資産の活用により、地区全体を結ぶみどりのネットワークを形成しています。
またグリーンインフラを活用した浸水対策も、大きな特色となっています。緑道沿いの50㎝程度のくぼ地を利用した「レインガーデン」により、通路冠水と流出を抑制できます。公園の池の水源についても、公園内表面雨水と井戸水を消毒装置を設けず循環させる仕組みです。
【都市空間】WITH HARAJUKU(原宿)
原宿のビル「WITH HARAJUKU」の事例です。しかしビル単体の一過性のプロジェクトではなく、街全体を未来に向けて再生していく持続的な再開発の一端と位置付けられています。
明治神宮と2つのストリートに囲まれた立地を活かし、グリーンインフラにより原宿駅前の新たな公共的空間を創出しています。段状の地形の頂部となるホールの屋根をマウンド状に緑化し、かつての源氏山の風景を再現しました。
将来的にはテラスの樹木が成長することで庇や屋上を包み込み、ヒートアイランドの抑制が期待されています。
【生態系保全】里山グリーンインフラネットワーク(千葉県)
千葉県の印旛沼で行われているグリーンインフラプロジェクトの事例です。
これまで多くの地域団体等によって活動が展開されてきましたが、連携が取れていないのが課題でした。そこで印旛沼流域で活動する市民団体関係者、行政官(個人として参加)、コンサルタント職員を中心にメーリングリスト等で情報共有するメンバー非固定の「ネットワーク」を構築したという点が評価されています。
連携研究プロジェクト等により、里山グリーンインフラの持つ多面的な機能が明らかになりつつあり、活動のモチベーションアップにも繋がっています。
グリーンインフラの効果・メリット
グリーンインフラの効果やメリットとしては、下記が挙げられます。
- 地球温暖化対策になる
- 防災・減災に繋がる
- 人口減少社会への対応
- ビジネスチャンスの機会
グリーンインフラは地球温暖化対策として有効で、適切な雨水管理等を行うことで防災・減災にも効果があります。また人口減少が確実な日本においては、効率的な都市計画を行うことで持続可能な社会の実現に繋がるでしょう。
新技術の導入が広まることも予想でき、新たなビジネスチャンスとしても捉えられます。
グリーンインフラの課題・デメリット
一方で、グリーンインフラにはデメリットもあります。
- メンテナンスの手間が掛かる
- 初期整備費用が必要
グリーンインフラは緑化や植栽を伴うため、「水やり」「剪定」といったメンテナンスが必要です。またコンクリートに比べると初期整備費用が高額になりがちなため、コストが余計にかかってしまう点もデメリットでしょう。
まとめ|グリーンインフラで環境に優しい社会へ
グリーンインフラは2015年の国土形成計画で盛り込まれた新しい取り組みですが、「自然環境の機能を様々な課題解決に活用する」という考え方は、本来人間にとって馴染み深いものです。グリーンインフラの「古くて新しい」理念に基づき、人と自然環境のより良い関係の構築が期待されます。