建築デザイナーの業務と選定ポイント|設計士との違い・協業時の注意点まで徹底解説

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建築工事における意匠性の重要性が高まっており、企業が建築デザイナーを外部パートナーとして起用するケースが急増しています。一方で、「建築士との違いが分からない」「発注時の注意点が不明」といった声も多く、業務委託や共同設計の判断に迷う担当者も少なくありません。

本記事では、建築デザイナーの定義や業務範囲にふれたうえで、建築士との違い、協業の実務ポイントを網羅的にみていきましょう。

建築デザイナーとは|設計士との違いと役割を再整理

企業が人材を起用する際は、建築デザイナーと建築士の違いを正確に理解しておくことが重要です。また建築デザイナーは建築士と混同されるものの、設計業務の内容や法的な責任範囲、発注者との関わり方には明確な違いがあります。

ここでは、建築デザイナーの具体的な業務範囲を整理したうえで、建築士との機能的な相違点についてみていきましょう。

建築デザイナーの定義と業務範囲

建築デザイナーは、建物における「印象」や「体験価値」を設計する専門家です。建築全体の意匠に関わる下記のような領域を担当します。

  • 建築意匠(外観・立面・屋根形状など)
  • 内装設計(素材選定・色彩計画・造作家具)
  • 空間構成(動線設計、ゾーニング、レイアウト)
  • 照明・音響・ブランド演出(店舗・宿泊施設等で特に重要)

近年では、「プレゼン資料の作成」「施主との空間提案打合せ」など、企画提案フェーズから関与するケースも多くなっています。そのため、顧客との打ち合わせも含めたいわゆる「デザインコンサルタント」としての役割を担う人材も増えている状況です。

建築士との主な違い

建築デザイナーの主な業務は、空間構成・内外装デザイン・照明計画・導線設計など、視覚と機能を融合させた意匠設計にあります。対して、建築士が建築基準法に基づいた構造・法令遵守の設計監理を担うといった違いがあります。

他にも以下のように違いがある点は知っておきましょう。

比較項目建築士建築デザイナー
資格要件国家資格(1級・2級建築士など)が必須特に資格要件なし(有資格者も存在)
主な業務領域法令遵守を前提とした設計・確認申請・監理業務意匠設計・空間演出・ブランディング提案
責任範囲建築基準法に基づく設計図書の作成・監理責任基本的に法的責任なし(監理は行わないことが多い)
業務成果物意匠図・構造図・設備図・確認申請図書等コンセプト提案・3Dパース・マテリアルボード等
役割の重なり意匠・構造ともに対応可能(特に一級建築士)意匠に特化するが、建築士資格保持者もいる
起用シーン新築・大規模改修・公共案件など法的要件がある場合店舗設計・モデルルーム・空間演出が重視される場合
発注時の注意点設計・監理の責任範囲や契約条件の明確化実施設計との整合性、納品物の仕様確認が重要

企業が建築デザイナーに注目する理由

企業が建築でサイナーに注目する理由は大きく分けて、以下3つです。

  • ユーザー体験(UX)の重要性が高まった。とくに店舗やホテル、シェアオフィスなどにおいては、「空間の印象」がサービス価値の一部となっており、設計段階から空間ブランディングを導入する企業が増えている
  • 設計業務の細分化が進み、設計士が法規や構造計算に集中する一方、意匠部分を専門の建築デザイナーに外注するという分業体制が一般化している。デザイン力に加え、BIM対応やCGプレゼンのスキルを持つ人材は、企業が即戦力として扱っている
  • 建物が企業ブランディングの手段となりうる時代背景になった。そのため、住宅展示場やコワーキングスペース、老舗旅館などにおいて、建築デザイナーによる演出が競争力にもなっている

建築デザイナーの役割は単なる意匠提案にとどまらず、企業の提供価値やブランド戦略に直結する中核的存在へと変化しています。そのため、プロジェクトの初期段階から建築デザイナーをパートナーとして迎え、空間の質と企業競争力の両立を図ることが戦略判断と必要だといえるでしょう。

建築デザイナーとの協業における実務上の注意点

建築デザイナーとの協業においては、クリエイティブ面に目が向きがちです。しかし、契約形態・設計条件・社内調整の不備によって工期遅延やコスト増が発生する事例も少なくありません。

そのため、依頼する企業側としては、設計段階からの役割整理と成果物の明確化が極めて重要です。ここでは、協業時に押さえるべき3つのポイントについてみていきましょう。

契約形態と費用感の把握

建築デザイナーとの契約形態には、正社員以外であれば以下の2種類が多く見られます。

  • 意匠設計業務委託契約―意匠図(平面図・立面図)やパース、マテリアルボード、コンセプト資料などの制作を請け負う契約。納品範囲により料金が変動する
  • プロジェクト共同設計契約―設計事務所や社内設計部門と役割分担し、意匠部分を外注する。実施設計や監理は社内・別会社が担当する

また、発生する費用感はプロジェクトによって異なるものの、総工費の10%から20%が設計料の相場となっているのが現状です。

【H3】考えたい設計条件の共有と成果物の定義

建築デザイナーに発注する前に、以下の条件を整理し共有することがトラブル防止にも重要です。

項目具体例・補足事項
法的制限・敷地条件用途地域や高さ制限、建蔽率・容積率、斜線制限、接道条件など。設計変更のリスクを未然に防ぐ
予算と材料のグレード指定ニーズとして、「天然木フローリングを希望」「国産建材を優先したい」といった意向も伝える。実現可能な提案とコスト把握につながる
施主の価値観・ライフスタイル「子育てを意識したゾーニング」「在宅ワークを想定」「来客が多い」など。空間提案の方向性を明確にする
成果物の形式・内容図面(PDF/CAD)、3Dパース(CG/手描き)、素材ボード、照明計画など。納品条件を明確化し、認識の齟齬を防止する

施工会社や施主との情報連携

建築デザインに関わる社外の利害関係者が多い場合は、役割分担を事前に調整しておくことも大切です。以下の点に留意しましょう。

  • 社内外の調整役の明確化― 営業・設計・施工の各部門間での情報共有体制を明示する
  • 実施段階での整合性の確保―意匠と施工仕様の乖離を防ぐため、素材変更・構法制限の可否を設計段階で確認
  • 施工会社とのレビュー体制の構築―工事着工前に設計側と施工側でレビュー会議を実施する。納まり図や構造対応のすり合わせを行っておく

とくに近年は、BIM(Building Information Modeling)や3Dモデルデータを前提とした施工管理が普及しています。そのため、デジタル連携が設計品質に直結する傾向が強まっており、建築デザイナーの実務要件への対応力も見定める必要があるといえるでしょう。

まとめ

建築デザイナーは、企業にとっては下請けではなく、事業戦略の一部を担う存在です。協業にあたっては、ビジュアルだけでなく、実行性・予算管理・他部門との連携といった多面的な評価が求められます。

将来的に企業が建築デザイナーを社外の資源として活用するには、実績・コミュニケーション能力・施工理解を備えた人材を選び、プロジェクトの初期段階から巻き込む体制が必要です。そのため、社内における空間づくりのナレッジ蓄積と差別化が重要だといえるでしょう。