インスタントコンクリートは補修専用?現場に求められる判断とは

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Category:コラム

著者:鈴原 千景

インスタントコンクリートは、水を加えるだけで使用できる簡易施工型のコンクリートです。少量施工や応急補修に適しており、狭小地・夜間工事・災害復旧といった特殊な条件で高い利便性を発揮します。一方で、構造体には使用できない、長期耐久性に限界があるなどの注意点も存在します。

本記事では、インスタントコンクリートの基礎知識、メリット・注意点、適用範囲と活用事例についてみていきましょう。

インスタントコンクリートとは

インスタントコンクリート(簡易施工用プレミックスドコンクリート)とは、あらかじめセメントや細骨材(砂)、粗骨材(砕石や砂利)、必要に応じて混和材(急結剤、可塑剤、防凍剤など)を乾燥状態でプレミックスした製品です。

現場では、所定量の水を加えるだけで使用可能な建材です。通常は、20〜25kg単位で袋詰されています。

従来のコンクリート施工では、生コンクリートをミキサー車で現場に搬入し、大型のポンプ車などで打設する必要がありました。対して、インスタントコンクリートは、現場に運んだ袋入りの材料にバケツなどで水を加え、その場で手作業または小型の電動ミキサーで混ぜれば使用可能です。

インスタントコンクリートは主に以下の要件に対応する目的で使用されます。

  • 生コン車の入らない場所(山間部、住宅密集地、屋上など)
  • 少量で済む補修・修繕工事(1m³以下が多い)
  • 急を要する施工(夜間工事、災害復旧、応急対応)
  • 専門職の確保が難しい場合の簡易作業

通常の生コンクリートはJIS A 5308に基づいて品質管理され、スランプ試験・空気量測定・温度測定等が義務付けられています。一方、インスタントコンクリートは試験が省略されることが多く、製造者独自基準または簡易性能評価によって流通しているため、構造体(柱・梁・スラブ・基礎)には原則として使用できません。

インスタントコンクリートの種類は以下のように分けられます。

製品タイプ主用途特徴
標準タイプフェンス基礎・標識・ブロック積み施工後24時間程度で実用強度、簡易強度20〜25N/mm²
速硬タイプ緊急修繕・交通復旧30〜60分で硬化開始、2時間後に通行可
寒冷地用冬季作業・外気温5℃以下凍結防止混和材を含み、氷点下でも使用可能
軽量タイプ屋上・高所・架台用骨材に軽量骨材を使用、比重1.5〜1.8 

インスタントコンクリートのメリット

インスタントコンクリートのメリットは、以下のとおりです。

  • 施工時の時間を短縮できる
  • 水を加えるだけで使える
  • 小規模施工や補修作業への適応性が高い

とくに、インスタントコンクリートは、現場での配合作業や生コンの受け入れ検査、運搬手配などが不要な点はメリットです。袋から取り出して混ぜれば使用できるため、時間を大幅に短縮できます。打設開始までにかかる準備時間が数時間から数分になることで、作業員の拘束時間も短縮され、工期全体の圧縮につながります。

ただし、使用できるのは非構造体のみである点は知っておきましょう。

インスタントコンクリートを使用する際の注意点


コストが高く、数量が多いと割高

インスタントコンクリートは20〜25kgの袋単位で販売されており、1袋あたり600〜1,200円前後が相場です。1m³あたりに換算すると2〜3万円以上になる場合もあり、生コンの単価(1m³あたり13,000〜18,000円程度)に比べて高額といえるでしょう。

そのため、少量の補修や仮設工事には経済的でも、0.3m³以上の中規模施工になると材料費が急増します。大量に使用する予定がある場合は、他の工法と比較・検討しましょう。


長期的な耐久性や性能には限界がある

インスタントコンクリートは簡易施工を目的とした製品です。長期的な荷重支持や構造部材としての使用は想定されていません。

製品によっては圧縮強度が15〜25N/mm²程度であるため、建築基準法上で求められる構造用コンクリートの基準を下回るケースもあります。乾燥収縮性や耐候性の面では、長期的な耐久性は通常の現場練りコンクリートに劣るといえるでしょう。

そのため、柱・梁・基礎など構造耐力上重要な部分には使用できません。そのため、非構造部材や補修用途に限定され、大量に使用することが想定される場合は、設計や予定の見直しが必須です。


施工ミス(混練水量のばらつきなど)による品質低下リスク

水を加えるだけであるため利便性は高いといえます。しかし、練り水の量が多すぎたり、少なすぎたりすると、硬化後の性能に大きな影響を及ぼします。

たとえば、水が多すぎると水セメント比が高くなり、強度低下やクラック、表面剥離の原因となります。逆に少なすぎると材料がうまく混ざらず、打設性が悪化したり、部分的に硬化不良を起こす恐れがあります。

また、保管状態によっては袋内の乾燥材が吸湿しやすく、施工時に練りムラが発生するケースも少なくありません。

活用事例と適用範囲

インスタントコンクリートは、少量での使用や迅速な施工が求められる場面に適しています。とくに、設備の固定や補修などの構造性能が求められない部位では使用されています。ここでは、代表的な活用事例についてみていきましょう。

フェンスや看板の基礎、カーポート支柱の固定など

フェンスや看板の基礎工事では、1箇所あたりの施工量が小さく、現場ごとの支柱ピッチや深さに応じて材料を調整する必要があります。インスタントコンクリートは袋単位で管理できるため、施工場所ごとの個別対応がしやすく、残材も出にくいため効率的だといえるでしょう。

また、外構業者やエクステリア施工の現場では常備材として利用されることも多く、特に都市部や狭小地で重機の搬入が困難な現場に有効です。


災害時や応急工事、夜間作業での即時対応に活用

突発的な道路損傷や水道管・電線埋設の緊急復旧では、迅速な施工と簡便な施工体制が求められます。インスタントコンクリートは工具と水があればすぐに施工可能です。

そのため、自治体・土木、インフラ事業者・道路維持管理部門などでは、応急処置用の常備材や災害対応資材としてストックされるケースもあります。ただし、後日、交通荷重や構造性能を考慮した本復旧(通常の生コンや高強度材料での再打設)が行われることを前提とした使い方がほとんどです。

夜間作業や交通規制下での短時間施工にも適しており、速硬タイプや寒冷地仕様の製品も活用されているといえるでしょう。

まとめ

インスタントコンクリートは、施工の迅速化、省人化、小規模対応といった点で大きなメリットを持つ材料です。とくに設備固定や緊急補修といった非構造部材への施工では、取り回しやすさと即時対応性が評価され、多くの現場で採用されています。

構造用途には適さず、材料コストや品質管理上の制限もあることから、使用範囲を明確にし、適材適所での運用が重用です。用途を意識しつつ、インスタントコンクリートを使用していきましょう。