施工時期を平準化する効果とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説

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繁忙期に長時間労働が必要になることも少なくない建設業界ですが、近年では働き方改革の一環として、施工時期の平準化が浸透し始めています。では、平準化するとどのような効果を期待できるのでしょうか。

本記事では、施工時期の平準化の概要や背景を説明したのち、実施するメリット・デメリットをわかりやすく解説します。

施工時期の平準化とは

出典:国土交通省「施工時期の平準化について」

施工時期の平準化とは、国土交通省および各地方自治体が推進している建設業界の納期の考え方です。

今まで建設業界では、4~6月に閑散期、12~1月に繁忙期が来るというように、業務量のバランスが月によって変動している状況でした。しかし、繁忙期における超過残業はもちろん、閑散期と繁忙期で収入が不安定化するといった問題が起こります。

そこで国土交通省は新たに「すべての地方公共団体における平準化の進捗・施策の取組状況について公表する『見える化』に取り組む」と発表しました。働きやすい建設業界をつくり出すため、現在も平準化の取り組みが進められています。

施工時期の平準化の状況

施工時期の平準化は、もともと令和4年までに80%を達成するものと設定されていました。残念ながら、令和6年時点の状況として、全国平均で58%とまだ目標を達成できていません。

また、標準化の状況は地域ごとに次のような違いがあります。

都道府県達成率
北海道62%
東北57%
関東56%
北陸60%
中部51%
近畿53%
中国68%
四国60%
九州57%
沖縄69%

出典:国土交通省「地方公共団体における平準化の状況」

最大値は沖縄の69%であるのに対し、最低値は中部の51%です。また、80%以上を達成しているのは、各地域で最大でも20%程度になります。

以上より、施工時期の平準化を実現するためには、もう少し年数が必要になるでしょう。

施工時期の平準化が必要な背景

そもそも、なぜ施工時期の平準化に関する対策がスタートしたのでしょうか。ここでは、平準化が必要となった背景について解説します。

建設DXに伴う働き方改革

まず施工時期の平準化の話が登場したのには、2019年4月よりスタートした働き方改革が関係しています。

少子高齢化および人手不足が続いている日本で企業の生産性を高める対策として始まった働き方改革は、少しでも業務の無駄をなくそうと取り組みが進行されている状況です。そして建設業界で取り上げられたのが、業務発注における慢性的な課題であった閑散期・繁忙期の差となります。

出典:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について【報告】」

忙しいときには深夜を超えてまで働くのにもかかわらず、暇なときは定時で帰宅できるというように、時期によって業務時間がバラバラでした。建設従事者が疲弊する原因にもなることから、建設DX(デジタル・トランスフォーメーション)の一環として、施工時期を平準化し、建設従事者の負担を減らそうと動き出したのです。

36協定による残業規制

働き方改革に伴い改定された36協定の時間外労働の上限も、施工時期の平準化に大きく関係しています。

今回の36協定の改定では、特別な事情がなければ月45時間・年360時間を超えて残業をしてはいけないというルールが定められました。建設業界も例にもれず、災害時などを除けば上記の時間内で業務を終えなければなりません。

特に建設業の繁忙期は、残業時間が月100時間を超える場合もあります。国が定めたルールに違反してしまうことから、施工時期を平準化して残業規制に対応しようと動いている状況です。

施工時期を平準化するメリット

建設業界の施工時期を平準化することには、企業そして従業員にとって大きなメリットがあります。事業のなかで抱える課題解決につながるため、ぜひチェックしてみてください。

売上の安定化を図りやすくなる

施工時期が平準化されれば、月ごとの受注量が安定化し、企業経営における不安を無くしやすいのがメリットです。

今まで建設業界では、4~6月の閑散期に業務が発注され、繁忙期の12~3月に納期を迎えるというルーティンができていました。しかし、閑散期は簡単な現地踏査や計画だけを実施する流れとなり、本格的に動き出すのは7月以降です。また、施工業者の場合、降雨量の多い夏時期に工事ができない影響で、年末・年始にかけて業務が溜まる一方でした。

対して施工時期を平準化すれば「この業務は3月の納期」「この業務は8月の納期」というように、納品の時期をずらして業務を進められます。納期が被るため仕事を受注できない、一定の時期を超えると受注が難しくなるといった問題を解決しやすくなるため、売上のめどを立てやすくなるのが魅力です。

従業員の社内満足度向上を期待できる

施工時期が平準化して、毎月の残業時間が安定化すれば、従業員の社内満足度を向上しやすくなります。

例えば、連日深夜まで働くような生活をつづけた場合には、建設従事者がメンタル面にダメージを受けやすくなります。その分だけ離職率も高まることから、今まで建設業界は多くの離職者が生まれていました。

対して残業時間を平準化すれば、仕事を計画的に進めやすくなります。従業員のストレスを回避しやすくなることにより、次第に企業の離職率を下げることができるでしょう。

人手不足の解消につながる

ハードな仕事をおこなう建設業界の施工時期を平準化できれば、建設業界を表す3K(きつい・汚い・危険)のうち「きつい」というイメージを払拭しやすくなります。

まず建設業界が人手不足に陥っている原因として挙げられるのが「ライフワークバランスを考えて仕事をしたい」という人が増えている点です。

参考として、企業向けの教育研修事業と若年層向けの就職支援事業を展開する株式会社ジェイックが実施した就職調査によると、全体の約6割がライフワークバランスを大切にしていると回答しました。

出典:PR TIMES『就職する上で大切にしたいこと調査 1位は「職場の人間関係」2位は「ワークライフバランス」』

条件にあわせなければ、求職者はほかの業界へと移動してしまいます。対して、施工時期の平準化により、徐々にライフワークバランスを考えた働き方ができるようになりました。今回の変化を受け、建設業界の人手不足を解消できるかもしれません。

施工時期を平準化するデメリット

施工時期を平準化することには多くのメリットがある一方で、次のデメリットに注意しなければなりません。

  • 企業の業務体制を変更しなければならない
  • サプライチェーンとの連携が複雑化する

今まで閑散期・繁忙期が決まっていた建設業界の働き方から、平準化した働き方になった場合、案件の入札時期や納品のタイミングなどがばらついてしまうことにより、建設従事者にも柔軟な働き方が求められます。

また平準化によって業務の時期がばらつくことによって、いままで連携しながら工事を進めていた下請け業者・材料業者との連携が複雑化します。タイミングによっては対応が難しいと断られるケースもあるため、サプライチェーンの再構築が必要になるのが課題です。

まとめ

ある一定の時期に業務の納品時期が詰まっていた建設業界ですが、少しずつ施工時期の平準化が進んでいます。

日本全体を見れば約6割の地域で平準化が完了しており、建設業界全体の超過残業なども減ってきています。一部業務体制の見直しなどの課題はありますが、プラス方面の改善が見込まれているため、今後の動向から目が離せません。