老朽化とは?劣化との違いや建設業の現状についてわかりやすく解説
建設業界で発生している建築物・構造物の老朽化は、早期解決が求められる重要な問題です。しかし、どれくらい深刻な問題なのかよくわからないとお悩みの人も多いでしょう。
そこで本記事では、老朽化の概要や劣化との違いについて解説したのち、建設業界を取り囲む現状についてわかりやすく説明します。
目次
老朽化とは
老朽化とは、時間の経過により”もの”の状態や機能、品質が低下する状態のことです。空気や水に触れることで起こる酸化作用や、風によって飛ばされる塵やほこり、砂などによる摩耗などの影響を受けて老朽化が進行していきます。
参考として以下に、老朽化のイメージを整理しました。
- 建物の木材部分が変色して雨漏りが起き始める
- コンクリートから錆汁が垂れ壊れやすくなっている
- 鉄骨の塗装が剥げて錆が広がったことにより、ボロボロと崩れている
- 設備が古くなり反応しにくくなっている
上記の内容はあくまで一例ですが、新しかったものが古くなる、正しく動いていたものに不具合が出始めているという状態で問題が生じることを老朽化と呼びます。
老朽化と経年劣化の違い
老朽化と似た言葉に経年劣化があります。
まず老朽化は、前述したように時間の経過とともに”もの”の状態が悪くなり、その影響で問題が生じることです。木材が朽ちたり、古いせいで明らかな原因が出たりする場合に使います。
対して経年劣化は、時間の経過の大きさを問わず、微小の損傷が生じている状態のことです。例えば完成して数日で鉄骨の塗装が色落ちしている、数年でコンクリートの間に設置されたゴム製の目地が固くなっているという状態は経年劣化だと言えます。
以上より、時間の経過としては「老朽化>経年劣化」、また損傷の度合いについても「老朽化>経年劣化」という関係が成り立ちます。イメージとして、見た目が悪くなってきたけど大きな影響は起きていないものを経年劣化、見た目が悪くなりすぐにでも大きな問題が起きるかもしれないものを老朽化と表すと覚えておきましょう。
【何年で起きる?】老朽化の目安を構造物別に紹介
老朽化は、建物・構造物ごとに設けられている寿命をもとに判断するのが一般的です。
例えば、寿命が50年なら50年を超えた建物は老朽化の懸念があると言えます。そのなかでも、損傷などが生じて損壊につながる恐れのある建物については、老朽化していると言って良いでしょう。
ただし、建物や構造物ごとに設定されている寿命が違います。ここでは一軒家やマンションなどを表す建築物、インフラ設備などを表す構造物に分けて、老朽化の目安が何年なのかを整理しました。
建築物の場合
まず一軒家やマンションを含む建築物の場合、国税庁が公開している「耐用年数」の表から判断できます。以下に一部建物の例を整理しました。
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
木造 | 住宅 | 22年 |
一般用の倉庫 | 15年 | |
RC造 | 住宅 | 47年 |
一般用の倉庫 | 38年 | |
レンガ造り・石造り | 住宅 | 38年 |
一般用の倉庫 | 34年 |
出典:国税庁「耐用年数」
例えば、木造は自然素材を利用していることから20年程度で寿命を迎えます。10年を超えたあたりから目立つ損傷が出てくるほか、時間の経過とともに性能が低下しやすいです。
一方で、人工的につくられている鉄筋とコンクリートでつくられたRC造の建築物は高い耐久性があるため、50年近い寿命があります。
特に一軒家は木造である場合が多いため22年、ビルなどの高層建築物はRC造が採用されやすいため47年程度で老朽化の有無を判断できます。
構造物の場合
インフラ設備などに使われている構造物は、鉄骨と鉄筋を組み合わせてつくられることから、おおよその耐用年数が50年程度とされています。実際に国土交通省が公開している「インフラメンテナンス情報」でも50年未満、以上で老朽化の有無を判断することが多い傾向です。
なおこれまでの実験・調査より、構造物については外的要因・環境要因などの影響を受けにくい場合には100年程度の寿命があることがわかっています。対して、サビや劣化の影響を起こしやすい塩害の影響を受けやすい海岸線沿いなどの構造物は50年よりも短い期間で老朽化する場合もある点に注意が必要です。
建設業界を取り囲む老朽化問題の現状
土木・建築を含む建設業界では、現在日本全国の老朽化の進行が大きな問題として取り上げられています。業種ごとの老朽化問題の現状を整理しているので、業界の今を知る参考にしてみてください。
建築業界における老朽化問題
まず一軒家では、近年徐々に空き家の数が増えている影響で、老朽化による倒壊の恐れが高まりつつあります。国土交通省が公開している「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」の資料によると、2018年時点で349万とが空き家となっており、維持管理されずに放置され続けていることがわかっている状況です。
また、そのうちの3/4が旧耐震基準でつくられていることから、地震などの影響を受けて大倒壊の恐れがあると懸念されています。
出典:国土交通省「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」
続いてマンションの老朽化に目を向けると、国土交通省が公開している「我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)」より、平成30年時点で6.3万戸だった築50年超えの建物が、令和20年には約30倍の197.8万戸に増える見込みです。
出典:国土交通省「我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)」
今後上記の予想どおり老朽化する物件が増えた場合、現状の建築従事者だけでは対応が難しくなると懸念されています。
土木業界における老朽化問題
国土交通省が公開している「社会資本の老朽化の現状と将来」によると、寿命である50年以上を迎えた構造物が、下表のように徐々に増えていることがわかっています。
2020年3月時点 | 2030年3月時点 | 2040年3月時点 | |
道路橋[約73万橋(橋長2m以上の橋)] | 約30% | 約55% | 約75% |
トンネル[約1万1,000本] | 約22% | 約36% | 約53% |
河川管理施設(水門等)[約4万6,000施設] | 約10% | 約23% | 約38% |
下水道管きょ[総延長約48万km] | 約5% | 約16% | 約35% |
港湾施設[約6万1,000千施設] | 約21% | 約43% | 約66% |
例えば自動車や歩行者が通行する道路橋は、橋長が2.0mを超えるものだけでも30%が老朽化している状況です。今後20年で全体の7割以上が老朽化すると推定されているなど、国民の生活に大きな影響が起きつつあります。
また、ほかの構造物についても同様に老朽化が進行していく予定です。土木業界は人手不足や高齢化の問題を大きく受けていることから、上記の予想が現実になる日もそう遠くはないでしょう。
老朽化問題を解決する方法
建設業界全体で問題化している老朽化を解決するためには、次のような対策を講じることが重要です。
- 損傷が小さいうちに補修して長寿命化を目指す
- 補修対象となる老朽化物件の優先順位を決める
- 新技術を活用した補修工法を取り入れる
短い期間で建築物・構造物を損壊させないためにも、現在の寿命よりも長持ちする長寿命化に力を入れることが重要です。
また近年では、AIを活用して損傷を抽出するシステムや、BIMソフトなどにより3Dモデル上での補修・補強管理などが実施できるようになっています。建設DXなどに取り組み作業効率化を実現することで、より多くの補修・補強に対応できる状況をつくり出すことも欠かせません。
まとめ
建築物・構造物の老朽化は雨風・潮・地震などの自然により起こる問題であるため、避けて通ることはできません。また、建設業界ではすでに老朽化した建物の数が増加傾向にあり、人手不足なども相まって、解決するために多くの時間が必要となっています。
そのため、老朽化の問題を解決するためには、以下に劣化を進行しにくくできるのかが鍵を握ります。損傷が大きくないうちに継続的な補修を実施する、また新技術を取り入れて1建築物・構造物あたりの補修・補強を効率化することで、老朽化の問題を解決していくことが大切でしょう。