CLTとは?木材を活用した建築工法のメリット・デメリットを解説
住宅やビルに用いられている建築工法はいくつもありますが、そのなかでも環境に優しく快適な屋内空間をつくり出せる材料として、今注目を集めているのが「CLT」です。
本記事では、CLTの概要や性能を解説したのち、導入するメリット・デメリット、そして建築事例について解説します。
目次
CLTとは
出典:日本CLT協会「CLT工法とは」
CLTとは、天然木を板状に切り出してつくられた「ひき板」を並べ、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。正式名称をCross Laminated Timber(直交集成板)と言い、加工技術を駆使して厚みのある大きな板を製造します。
またCLTは建築の構造材のみならず、土木用材、家具などにも使用されているのが特徴です。日本では2013年12月よりJAS規格に追加され、一般家屋はもちろん、大規模建築物にもCLTが導入されています。
【CLTはオーストリア発祥の建築材料】
CLTは、オーストリアを中心に1995年あたりから普及が進み、現在ではヨーロッパ各国のみならず、カナダやアメリカ、オーストラリアでもCLTを使い、戸建て住宅、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室などに利用されています。
CLTがもつ性能・メリット
CLTは、木材でありながら大規模建築物にも適用できる便利な木質系の材料です。まずは、CLTという材料にどのような性能があるのか詳しく見ていきましょう。
施工スピードを効率化できる
CLTはあらかじめ工場で加工されてから現場へ輸送されるため、現場でのサイズ調整といった手間がかからず、その分だけ施工スピードを高められるのが特徴です。
パネルユニットを組み立てることで手軽に建築物を完成させられるのはもちろん、単位体積重量が鉄筋コンクリートと比べてはるかに軽量であることから、輸送コストの削減にもつながります。
CLT | 鉄筋コンクリート | |
単位体積重量(t/㎥) | 0.5 | 2.4 |
また軽量であるという特性により、組み立てにかかるスピードを向上できるほか、建物の総重量を減らせるため、その分だけ基礎のサイズを小さくできる(杭本数を減らせる)といった魅力をもっています。
耐震性・耐火性に優れる
CLTは、日本CLT協会で実施された実大振動台実験の結果、阪神淡路大震災であるマグニチュード7.3よりも大きな地震に耐えられることがわかっています。現行の建築基準法は、阪神淡路大震災のデータをもとに建物や材料の強度がまとめられている(新耐震基準)ことから、日本全国の建物にCLTの適用が可能です。
また、CLTは木材でありながら耐火性に優れるという性能をもっています。耐震実験と同じく日本CLT協会で実施された試験によると、厚さt=90mmのCLTを燃やし続けた結果、毎分1mm程度の速度でしか燃えず、1時間も壁が燃え抜けないことがわかりました。
出典:日本CLT協会「CLT工法とは」
地震などが頻発し、二次災害として火災の発生なども危惧される日本では、耐震・耐熱に強い建築物が必要です。CLTは2つの条件を満たしていることから、今後の日本の建築物で利用されやすい材料だと言えます。
CLTを導入するデメリット
建築材料として高い性能をもつCLTですが、建築工事に導入する際に2つのデメリットがあることに注意しなければなりません。具体的なデメリットとCLTの現状について解説しているので、あわせてチェックしてみてください。
製造工場が限定される
CLTはまだ登場して間もない建築材料であることから、製造に対応できる工場が少ない点がデメリットです。
農林水産省が公開している「令和5年木材統計」によると、現在日本で集成材の製造に対応できる向上数は143工場、これに対しCLTの工場は10工場と非常に少ない状況です。また、ほかの集成材の生産需要が228,000〜7,962,000㎥ほどある一方で、CLTの生産需要が18,000㎥と少ないこともわかっています。
出典:農林水産省「令和5年木材統計」
またCLTは、前年比(令和4年)と比べて生産需要が120%になるなど、生産需要は高まりつつありますが、メインの木材として普及するまでには、まだ長い時間が必要になると考えられます。
建築コストが増加する
CLTは材料としての性能が高いほか、生産需要が大きくないことから、鉄筋コンクリートよりも高額な費用がかかるというデメリットがあります。
まず林野庁が公開している「CLTをめぐる情勢」によると、CLTの建設費全体の単価が約27万円/㎡、対して鉄筋コンクリートの建設費全体の単価は約24万円/㎡であることから、従来の建築材料よりも膨大なコストがかかるとわかります。
出典:林野庁「CLTをめぐる情勢」
現在、CLTに対応した製造工場を増やし、量産化をする計画なども立案されていますが、それでも鉄筋コンクリートと同等のコストまでしか抑えられないと試算されています。徐々に単価は下がってきているものの、実用化にはまだ時間がかかるでしょう。
CLTの建築導入事例
CLTはほかの集成材などと比べると導入事例が少ない一方で、すでに全国の建築物で導入がスタートしています。木材を活用した暖かみのある建築物が次々と生み出されているため、詳しい導入事例を見ていきましょう。
ケンタッキー・フライド・チキン堺百舌鳥店
出典:日本住宅・木材技術センター「CLT建築事例集2022」
ファストフード店として有名なケンタッキー・フライド・チキンでは、屋内の天井や壁にCLTパネルが用いられています。
木の温かさが伝わる内部空間であるほか、CLTを活用することにより、別案としてあった鉄骨造の建物と比べ、施工期間を10日以上短縮できています。
JR勝間田駅の駅舎
出典:日本住宅・木材技術センター「CLT建築事例集2022」
岡山県勝田郡勝央町勝間田にあるJR勝間田駅の駅舎にも、CLTが多数導入されています。
JR勝間田駅は、連続する7つの家型フレームを用いた独特な構造をしており、屋根材を除くほとんどの材料がCLTで構成されています。あらかじめ工場で製造されたパネルユニットを組み立てるというシンプルな施工により、短期施工を実現しました。
南予森林組合事務所
出典:日本住宅・木材技術センター「CLT建築事例集2022」
愛媛県北宇和島郡鬼北町にある南予森林組合事務所では、屋根・壁・床の材料としてCLTが用いられています。
屋内の素材のほとんどがCLTで構成されているほか、配置されているインテリアにもCLTが使用されています。なおCLTは集成材ということもあり、サイズを自由に調整できるのが魅力です。本工事では最大12m×1.5mのCLTが屋根パネルとして利用されています。
まとめ
CLTは天然木を繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料であり、施工性や耐震性・耐熱性に優れるといった特徴がある次世代の建築材料です。ただし製造できる国内工場が少ないこと、工事単価が鉄筋コンクリートよりも高額になるといったデメリットを抱えています。
とはいえ徐々に向上数が増え、材料の価格も落ち着き始めている状況です。カーボンニュートラルの実現を目指す日本において、木材を使った建築物には重要な役割があるため、今後さらに普及が進んでいくと考えられます。