大和ハウス工業と大阪大学が共同開発、バイオガス由来メタンから高効率メタノール合成に成功

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大阪大学先導的学際研究機構の大久保敬教授を中心とする研究グループが、大和ハウス工業株式会社との共同研究により、バイオガスに含まれるメタンガスからバイオメタノールを高効率で合成する画期的な技術を開発しました。この技術は、常温・常圧という穏やかな条件下で、2017年に開発された技術の変換率14%と比較して6倍となる89%という高い変換率を達成しました。

気候変動対策としての意義

現在、世界各地では化石燃料の使用による温室効果ガス(GHG)の影響で、気象災害が頻発しています。こうした状況を受け、各国政府や企業はカーボンニュートラルに向けた取り組みを強化しています。

特に注目すべき点は、今回の研究がメタンガスの有効活用を目指している点です。メタンガスは二酸化炭素の25倍もの温暖化効果を持つガスであり、単に削減するだけでなく、有益な物質に変換することが望ましいとされています。

歴史的な技術的挑戦

メタンガスから酸素(空気)を使ってメタノールを一段階で作り出す反応は、アメリカ化学会が1990年代に『21世紀に開発を望んでいる10個の化学反応』の一つに含めたもので、その難しさから『ドリームリアクション』と呼ばれ、長年にわたり科学者たちの挑戦課題でした。メタンガスの安定した分子構造を活性化させることは非常に困難であり、特に常温・常圧という条件下では有効な方法が見つかっていませんでした。

大久保教授の研究グループは2017年に世界で初めて常温・常圧でメタンガスからメタノールを合成する技術を開発しましたが、その変換率は14%にとどまっていました。

画期的な技術革新

今回開発された技術の最大の特徴は、反応溶媒としてパーフルオロアルケニルエーテルを使用した点です。この特殊な溶媒と光照射条件の改良により、メタンガスからメタノールへの変換率を89%まで飛躍的に向上させることに成功しました。

この技術には以下のような利点があります。

・常温・常圧での反応が可能

・バイオガス由来のメタンを原料とすることで原料の脱炭素化を実現

・投入エネルギーの削減による省エネルギー化

従来技術との大きな違い

従来のメタノール合成法は、天然ガスを原料とし、高温・高圧条件(240-260℃、50-100気圧)が必要でした。また、腐食性の高い金属触媒を使用するため、設備投資や維持管理に多大なコストがかかっていました。

このような条件の厳しさから、日本国内ではメタノール生産体制が整備されておらず、現在は需要のほぼ全量を輸入に頼っています。メタノールは世界的に重要な化学品であり、2024年現在で9,900万トンの市場規模があり、2029年には1億2,000万トンに達すると予測されています。

これからの展望

研究グループは今後も共同研究を継続し、さらなる効率化と生産量の増加を目指します。大和ハウス工業では自社施設でのバイオメタノール利用体制の構築を検討するとともに、製造装置のシステム開発や他のカーボンニュートラル技術への応用も視野に入れています。

この技術の実用化に向けて、大阪大学と大和ハウス工業の共同研究にとどまらず、様々なパートナーとの協業も検討されています。

技術の社会的意義

この技術が実用化されれば、以下のような社会的効果が期待できます。

・温室効果の高いメタンガスの有効活用

・メタノールの国内生産体制の確立

・輸入依存からの脱却による経済的安定性の向上

・カーボンニュートラル社会への貢献

このバイオメタノール合成技術は、脱炭素社会の実現に向けた重要な一歩となる可能性を秘めています。研究グループの今後の取り組みに注目が集まります。

出典情報

大和ハウス工業株式会社リリース,高変換率のバイオメタノール合成法を開発 常温・常圧下でこれまでの6倍の高変換率を実現,https://www.daiwahouse.co.jp/about/release/house/pdf/release_20250311.pdf