「暗黙値を視覚化する」3Dバーチャルコラボレーションツールの建設業界での可能性を探る【前編】
目次
言語による表現の限界を乗り越える!「MEs」が目指す世界と特徴とは
近年、幅広い業界で広がりを見せる3Dバーチャルコラボレーションツール。すでに日常業務に取り入れる企業も増えています。今回は、ユーザーの思考(暗黙値)を可視化することに特化したバーチャルツールを開発する、O株式会社CEOのa春氏にインタビューを行いました。インタビュアーは、「誰でも簡単に現実(3D)を共有できるツールの提供を通じて、生産性向上とクリエイティビティの解放を支援する」nat株式会社の若狭氏です。
3Dツールの最前線に携わる二人が、a春氏の開発する3Dバーチャルコラボレーションツール「MEs(ミーズ)」について紹介しながら、建設業でメタバースを展開していく未来について語ります。
プロフィール
次世代のWork&Playのための Spatial Computer ”MEs”を開発中。Rhode Island School of Designでインダストリアルデザインとコンピュテーショナルアートを学ぶ。感性と知覚を覚醒するインターフェースで、New Humanのためのクリエイターカルチャーを広めることを目指す。
大学卒業後、国内大手市場調査会社にて事業会社や広告代理店の様々なマーケティング課題に対するマーケティングリサーチ業務に従事。また、上流課題における意思決定業務を経験すべく、不動産メディア会社にてマーケティング業務に従事したのち、nat株式会社にジョイン。現在はサービスの認知拡大を目的としたセミナー・展示会の運営や、エンタープライズ企業向けの営業活動などフロント領域全般の管轄を行う。
言語による表現の限界を乗り越える!「MEs」が目指す世界
-まずはa春さんの経歴について教えていただけますか。
私はアメリカで生まれ育ち、ロードアイランド州の美術大学で工業デザインとコーディング、心理学を学びました。当初はアニメーターになろうと考えており、その背景には私が日本とアメリカ、2つの文化的背景を持って育ってきたことが関係しています。
特に学生時代の私は、言葉だけで自分の思考を誰かに伝えたり、表現することに大きな制限を感じていました。そこでアニメーションという、言語だけでない視覚的な情報や音・時間の変化などが表現できる世界に憧れて、その道に入りました。人間は視覚・聴覚・触覚・嗅覚に加えて創造力も持っていて、幅広い現実の捉え方ができる生き物ですので、それらを脳が感じ取れる表現をしていきたいという気持ちがありました。
-ご自身の体験から、言語だけに縛られず幅広い感性を刺激する作品を作りたいと考えられたのですね。そこから3Dツールの開発に至った流れはどのようなものでしたか。
手で素材を扱う楽しさや、3Dで思考する可能性に惹かれて工業デザインを専攻しましたが、その中でコンピューターを扱っていて「インターフェースをアップデートしたい」と考えるようになっていきました。
今使っているデスクトップやフォルダの中でファイルを管理する概念は、すでに50年以上もコンピューターのインターフェースとして変わっていません。それが今のパソコンのハードウェアやスペックに合っているのか、また人間が必要とする思考ツールとしてふさわしいのかと考えたとき、「今の形のままでいいのだろうか」と疑問を持ちました。そこで、「MEs(ミーズ)」という新しい空間を提供するインターフェースの開発に至りました。
今まで二次元だったデスクトップ環境が、MEsの中では3Dのバーチャル空間になっており、かつ複数人のチームでもコラボレーションができます。MEsは3Dデータを共有し、アバターを使って交流や情報交換ができる空間であり、私が学生時代に抱いていた「言語による表現の限界を乗り越えたい」という想いを形にしたものです。
3Dバーチャルコラボレーションツール「MEs」の特徴とは
-MEsを使ったサービスとしては、現在どのようなものを提供しているのですか。
大きく分けて2つのサービスがあります。一つは3Dデータを活用できるプロジェクトルームの提供、もう一つはMEs Studioという3DCGのモデリングを活用したカスタムのバーチャル空間を提供するサービスです。
プロジェクトルームでは、クリエイターやコンサルタント向けの3Dバーチャルコラボレーションツールとして、企業などにプラットフォームを提供します。例えばオフィスや学校、アトリエなどの場所に複数の人がアバターになって集まり、一緒に仕事やディスカッションすることを通して、自然な形でクリエイティブ思考が高まり相乗効果を生むものとなっています。
MEs Studioは、クライアントの依頼を受けて様々な3Dデジタル関連の制作を行うサービスです。過去には慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)のデジタルツインを制作しました。制作過程では現場で撮影した写真や、建物間の距離を測れる衛星データを使って、ビル同士の距離などを計測しています。また学生たちにも協力してもらい、ビルの外観やコンクリートのテクスチャーなどの写真を撮ってもらって参考画像とし、カスタムのモデリングをしました。
-どちらにも共通しているのは、チームメンバーや学生などが集まってコラボレーションできる場、アイデアが生まれる場ということですね。類似のサービスが数多くある中で、MEsならではの特徴はどういった部分でしょうか。
従来はバラバラで関連性がなかったデータをひとまとめで保存したり、チームの中で共有してみんなで同じ体験ができたり、その中でディスカッション・コラボレーションするなど、データを一か所に集めるツールとして使いやすいのがMEsの大きな特徴です。
建設現場を例にしますと、ある施設の姿をそのまま3Dモデル化してMEsの中に落とし込むと、データ化された建物が3D空間に現れます。アバターを利用してチームみんなでその中に入ることで、その空間をプロジェクトルームとして使うこともできます。
また、建物の構造について「このパイプは今はこうなっているけど、別の方法もあった」という意見をメモとして貼ったり、「コンクリートは今回これを使ったけど、次回はこっちを使いたい」など、新しい素材の画像とURLなどを隣に貼っておくと、全員で共有できます。様々な情報とディスカッションをそのデータとセットで保存できる点で、MEsは提供価値ができるツールだと考えています。
-ここまで、a春氏が暗黙値を可視化するバーチャルツールの開発に至った経緯と、「MEs」の主な特徴について伺いました。後半では建設業界をはじめとする幅広い現場で「MEs」がどのように活用できるのかについてお聞きします。
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