建設業における賃金格差とは。解決方法を解説

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2024年7月、男女の賃金格差を開示する義務がより拡大する方針が発表されました。これまでの開示義務は、従業員数が301人の大企業のみでしたが、今後は従業員数が101人以上の中小企業も範囲内となります。

では、建設業では男女の賃金格差が激しいと言われてきたものの、現在はどのような状況なのでしょうか。本記事では、建設業界における賃金格差の概要と解決策についてみていきましょう。

「トレンドワード:賃金格差」

建設業の賃金格差は、業界内と業界外どちらにもあります。まず、建設業内の賃金格差からみていきましょう。

厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」をみると、正社員待遇の男性は368.5万円、女性は271.2万円です。つまり、正社員の立場でも男女で90万円以上の金額差があることになります。

また、国土交通省が2022年の「賃金構造基本統計調査」を参照して、年収の平均額を算出した際には、全産業の平均年収は約494万円でした。そして、建設業の平均年収は約464万円だったことから、全産業と比較しても格差があるといえるでしょう。

今後、開示義務の対象となる企業が増加すると予想されるものの、建設業は一部を除いて、賃金格差を埋める対策が追いついていない状況にあります。

賃金格差を含めた建設業の課題

建設業は、AIBIMの活用などといった働き方や生産性向上の取り組みも行われているものの、多くの課題があります。ここでは、賃金格差を含めた建設業の課題をみていきましょう。

男女の賃金格差に関しては、同じ資格を持っていたとしても差が生じるケースも多いことから、企業の自主的な解決だけでなく、政府による支援や法的整備も必要です。たとえば、男女平等を推進する法律の強化や女性が働きやすい環境を整えるための育児休業制度の充実、職場でのハラスメント防止策の徹底などが重要となるでしょう。

労働環境が良いとはいえない

建設業では、工期を厳守しなければならないことに加え、作業内容が天候条件に左右されます。そのため、長時間労働や不規則な勤務が常態化しています。法律として残業規制があるとしても、ワークライフバランスの確保は難しいといえるでしょう。

また、高所作業や重機の操作などは、危険を伴う業務が多く、労働災害のリスクもあります。とくに、労働人口の減少によって、人の手による安全チェックのみでは、労働災害を防ぐのが難しい状況になりつつあります。

スキルを持っていたとしても他業種との賃金格差を埋められない

建設業は、高い技術や資格が必要な部分が多いものの、賃金は決して高額とはいえません。大手ゼネコンの年収は比較的高く見えるものの、業界全体では、他業種よりも低いというデータもあります。

また、企業によっては資格や経験に応じた賃金体系が整っていない場合も多く、モチベーションの低下につながっています。賃金のピークの違いもあるものの、製造業やIT業界では、一人で現場を任せられるようなスキルや資格に対しては、より高い賃金体系となっている点も大きな課題です。

そして、キャリア面から比較しても、明確なキャリアパスが示されていない場合が多く、将来的な予想を立てにくいといえます。たとえば、管理職でなかったとしても、スキルや経験を高めた場合のキャリアを社内で用意できていないケースもあるでしょう。

若年層の建設業離れと人材不足の加速が止まらない

建設業界では、若年層の労働者が減少していることに加え、高齢者の退職が加速しているため、人材不足が深刻な課題です。とくに、若年層視点では次のような問題があります。

  • 魅力の欠如:労働環境の厳しさから、若年層にとって業界が魅力的に映らない
  • 教育・研修の不足:若手を育成するための体系的な教育や研修プログラムが不足している。あったとしても、中小企業では難しいケースも多い
  • 世代間の格差:ベテラン労働者とのコミュニケーションや働き方が大きく異なる。そのため、職場環境に適応しにくい

また、DX化に取り組んでいる企業と取り組めていない企業においても、働きやすさや人材に対する負担の大きさに差が生じています。

建設業における賃金格差を解決するための方法

ここでは、建設業における賃金格差を解決するための方法についてみていきましょう。

政府が提供するシステムの普及をより進める

労働者の技能資格に応じて、適正や評価する制度を整備することで適正な年収の把握が可能となります。また、透明性のある報酬体系を確保できれば、雇用の決定基準を明確にし、労働者が納得できる報酬体系を構築できるでしょう。

現状では、国土交通省の建設「キャリアアップシステム」がその役割を担っています。技能者の実務経験や保有資格を一元管理し、適正な評価を得るための仕組みだといえます。

ただし、建設業の就労者が全員登録しているシステムではないため、今後はより推進していくための施策などが必要だといえるでしょう。

労働環境の改善

法律的な整備が進んでいることに加え、公共工事では原則週休2日制となっているケースも増えてきました。そのうえで、時間管理の徹底や安全対策におけるツールやAIの使用を行うといった工夫によって、労働環境の改善が可能です。

取り組み事例としては、大手ゼネコンによる週休2日制の実施やBIM・AI、勤怠管理ツールの使用などが代表的です。長時間労働の防止や生産性向上にも役立つ施策となっています。

そのうえで、賃金格差を無くすためには、業界全体で取り組む情報共有の施策や徹底した規則の策定も必要だといえます。

若年層の育成と就業支援

教育・研修プログラムの見直しを図りましょう。新入社員向けの研修や技能習得のための教育プログラムを整備し、キャリアパスも明確化しましょう。たとえば、将来的なキャリアアップの道筋を示すことで、長期的なモチベーションの維持や退職率の低下につながります。

取り組み事例としては、自治体と連携して、職業訓練の実施を行っているケースが代表的です。地域の建設業者と自治体が協力し、若者の技能習得と就業支援を行っています。今後も企業単独ではなく、地方自治体と協力しながら人材の定着を図るという視点が大切になるでしょう。

まとめ

建設業界では賃金格差が課題の1つとなっており、とくに業界内では男女間で同じ資格を持っていても賃金に大きな差が生じています。また、他の業界と比較した場合、労働環境の厳しさやスキルに見合った賃金が得られないことから、若年層の建設業離れと人材不足が加速しています。

そのため、政府の支援や法的整備の強化、労働環境の改善、教育・研修プログラムの充実が必要です。建設業界全体での取り組みと情報共有を進め、賃金格差を是正できる環境を構築することが求められているといえるでしょう。