建設業におけるWeb3はどの程度浸透している?事例を解説

建設業では、BIM/CIMや作業の自動化といった最新技術が取り入れられるケースも増加しています。その中で、Web3を活用して、従業員のモチベーション向上や新しい評価制度の構築が行われるケースも見かけるようになりました。

本記事では、Web3の概要にふれたうえで、導入の課題や実際の活用事例についてみていきましょう。

「トレンドワード:Web3」

Web3とは、ブロックチェーンや分散型のインターネット技術と呼ばれる管理者がいなくてもユーザーによって、管理できる仕組みのことを意味します。Web3に代表される技術には次のようなものがある点も知っておきましょう。

  • ブロックチェーン:改ざん・変更ができない特性を持つ仕組みのこと。分散型台帳も同様の仕組み
  • スマートコントラクト:本人も含めて改ざん・変更できない自動契約の仕組み。互いに合意した条件を満たせば、契約を行うことができるため、第三者も不要。スピードは早い
  • トークンエコノミーの形成:仮想通貨やNFTを発行できるコミュニティのこと。中央集権的なコミュニティではなく、自分たちで管理・保守・運営し、価値もコミュニティ内で決定する

建設業でも活用されているDXプラットフォームやBIM/CIMのモデル構築に関しては、Web3の考え方を適用しています。ブロックチェーン技術によって、変更を行った場合、誰がいつ手を加えたのかといった履歴を遡ることができます。加えて、関連する情報も記録できるため、作業がより効率化するといえるでしょう。

建設業におけるWeb3プラットフォームは、活用できている企業と導入すらできていない企業に分かれるものの、今後多くの企業で導入される可能性が高い技術だといえます。

建設業におけるWeb3導入と運用の3つの課題

ここでは、建設業におけるWeb3導入と運用で生じる3つの課題について解説します。

スマートコントラクトやブロックチェーンの専門知識がない

Web3サービスを導入するためには、スマートコントラクトの構築やブロックチェーン技術に関する深い理解が必要です。建設業界の場合、大手ゼネコン以外は、Web3技術に関する専門知識や経験が不足しているため、社内での開発・運用が難しいといえるでしょう。

とくに、技術者の不足は深刻です。プラットフォームの設計セキュリティに詳しいエンジニアは希少であり、採用育成には多大なコストと時間が発生してしまいます。また、ブロックチェーンを使用する場合、スケーラビリティ(処理能力)の管理を行わなければなりません。高い技術力に加え、扱うデータによるブロックチェーンへの負荷の予測といった分析作業も重要になります。

レガシーシステムとの統合は難しい

多くの建設会社は、すでに独自のプロジェクト管理システムや会計、BIMツールを使用しています。Web3サービスを既存システムと統合する場合、技術的な課題が多く、互換性を確保するためには、カスタマイズや追加開発が必要です。

とくに、レガシーシステムから移行する場合は、移行するコストや時間、手間を入念に計画したうえで実施する必要があります。このような場合は、短期的な視点だけでなく、長期的な視点から、導入した場合の効果を外部の専門家を交えてシミュレーションしておきましょう。

文化醸成に時間がかかる

建設業界は、アナログな業務フローや人と人とのコミュニケーションを重視する文化が根付いています。そのため、研修による意識改革と企業内での文化醸成が必須だといえるでしょう。とくに、急に導入した場合は、従来の方法から抜け出すことに対する心理的な抵抗が強いと予想されます。

また、Web3を導入することで、契約管理やプロジェクト管理がデジタル化されるものの、現場での労働者のタスクや作業フローが複雑化する可能性もあります。

建設業でWeb3を活用するメリット

建設業でWeb3を活用するメリットは、大きく分けて次の5つの項目が代表的です。

  • サプライチェーンの透明性を確保できる
  • 管理から支払いまでを効率化できる
  • データセキュリティとプライバシーの向上できる
  • 給料以外のインセンティブ制度を策定できる
  • 建物の長期的な保守・管理の効率化ができる

とくに、サプライチェーンの透明性はこれまで以上に向上するでしょう。契約内容や工事進捗状況、支払い条件などを一元管理し、関係者が全員で確認できるようになるためです。また、適正な工期や工事の契約条件をブロックチェーン上に記録することで、契約履行における改ざんやトラブルを回避できます。

建設業におけるWeb3の活用事例

ここでは、建設業におけるWeb3の活用事例についてみていきましょう。

鹿島建設

鹿島建設は、日本円ステーブルコイン「JPYC」を導入し、インセンティブとして活用しています。ステーブルコインであるため、JPYCは日本円と同様の価値があり、相互評価によって、ポイントを獲得しJPYCに変換できるという仕組みです。

現状では、社内での活用のみに留まっているものの、将来的にはウォレット機能を使用した、金融サービスの提供なども想定されています。

大林組

大林組では、「デジタルツインアプリ」の開発や位置制御技術と力の感覚を再現する「リアルハプティクス」技術などに取り組んでいます。デジタルツインアプリに関しては、自社だけでなく、建設業界に広く普及することを目指しており、直感的でシンプルな操作が可能です。また、全てクラウド上にデータが保存されるため、どこにいても現場の状況を確認できます。

リアルハプティクスに関しては、遠隔からでも微細な力加減が必要とされる左官作業の実施を行い、高い精度で再現している状況です。

奥村組

奥村組では、詳細な現場の状況を知るためにデジタルツインを活用した「4Dモデル・現場映像連携システム」を開発しています。デジタル空間に3Dモデルと施工ステップごとの情報を加えたものを展開し、Web上で操作や閲覧を可能としました。

また、現状を把握できるだけでなく、過去の状態の把握も可能となっているため、途中から現場に入った施工管理者や作業者も状況を理解しやすいといえるでしょう。

まとめ

建設業界におけるWeb3技術の導入は、一部の企業では進んでいます。とくに、現場単位のブロックチェーンやスマートコントラクトを活用することで、契約のスムーズな管理やサプライチェーンの透明性の確保などが可能です。 ただし、人材不足に加え、導入に関しては企業全体で取り組む必要があります。

技術の普及と社内体制の整備が進めば、業界全体のデジタル化の加速につながるでしょう。