建設キャリアアップシステムの登録人数は増加傾向。取り組み事例まで解説

建設キャリアアップシステム(CCUS)は、8月末時点では約150万人が登録しているクラウドシステムです。大手ゼネコンやハウスメーカーでの導入が進められており、いずれは義務化される可能性もあります。

本記事では、建設キャリアアップシステムの現状や活用事例についてみていきましょう。

「トレンドワード:建設キャリアアップシステム」

建設キャリアアップシステムは、建設業団体と国土交通省が連携して構築したクラウドデータベースです。登録した場合、以下のような項目を事業者が把握できます。

  • 就業履歴(所属事業者、元請け・下請け)
  • 保有資格・社会保険や共済の加入状況
  • リーダー経験の年数

導入されている現場では、カードによって登録が可能です。また、データ連携ができるため、事業者は資格の有無・社会保険の有無なども簡単に確認できます。週休2日達成状況や建設キャリアアップシステムの利用状況を、発注者に報告する場合も活用できる点もメリットだといえるでしょう。

また、登録者は能力を適正に評価するために次のような手順も設けられています。

  • 必要書類の準備を行い申請者から能力評価審議会(評価団体)に申請する
  • 評価団体が基礎情報や施工能力、保有資格などを能力評価基準に従って評価する
  • 情報が更新され、レベルが変化する(4段階評価)

建設キャリアアップシステムは、能力が客観的に視覚化されるため、人材の適正配置や待遇の改善につながるシステムだといえるでしょう。

システムの目的は3つ

建設キャリアアップシステムの目的は、次の3つです。

  • 経験に応じた処遇改善
  • CCUSを活用した事務作業の効率化・省力化
  • 就業履歴の蓄積と能力評価

とくに、経験に応じた処遇の改善については、大きな課題だったといえるでしょう。能力やスキルを客観的に評価されるケースが少なく、「資格を保有していても適正な賃金が支払われているか」を判断しにくい状況でした。

しかし、建設キャリアアップシステムによって、これまでの経験や保有資格も把握できます。そのため、適正な賃金レートを把握することが可能です。

システムの登録者数と労働者数にはまだ差がある

令和6年6月に発表された「建設行政に関する最近の話題」から、現状の建設業における技能者数は483万人です。また、年齢構成をみてみると、3割以上が55歳以上となっており、29歳以下は1割程度となっています。

建設キャリアアップシステムの登録者が150万人となっていることから、建設業全体の労働人口と比較すると3分の1以下となります。そのため、建設キャリアアップシステムは、「業界に浸透しはじめた段階」だといえるでしょう。

ただし、官民連携でシステムの利用を推奨していることから、今後は「事業者として登録しているかどうか」が評価されるように変化する可能性が予想されます。登録には2,500円~4,900円の料金が発生するため、ネックになっている事業者も少なくありません。

しかし、現時点でも登録していない事業者は、経営事項審査で加点されないという影響がある点は知っておきましょう。

建設キャリアアップシステムが注目される2つの理由

ここでは、建設キャリアアップシステムが注目される2つの理由について解説します。たとえば、データベースとして利用できるため、適正な人材配置や育成などにも役立てられます。 

スキルの客観的な評価が把握できる

建設キャリアアップシステムを活用すれば、事業者・労働者がスキルを客観的に把握できる点はメリットの1つです。たとえば、次のような活用方法も実施できるでしょう。

  • 企業として、効率的なチーム編成が可能となる。得意スキルや保有資格ごとにチームを組めるため、事務作業の業務効率化や品質の向上にもつながる。現状の適正をみて、人材育成の方向性を決めることもできる
  • 労働者は、自分の市場価値を客観的に把握できる。そのため、年齢や経験からより詳細なキャリアパスが描けるようになる。資格の取得や転職も含めて、より広い選択肢を選べる。モチベーションアップにもつながる

キャリアパスについて、企業と労働者が目線を合わせて目標設定を行うことも可能となるため、エンゲージメント向上も図れるでしょう。

若年層のイメージアップにつながる

最近では、若年層の建設業への入職率は増加しています。そのうえで、賃金や適正な労働時間の確保、客観的な評価制度の構築が課題となっていました。しかし、建設キャリアアップシステムを活用すれば、スキルにあった適正な報酬を受け取れやすくなります。

評価基準が明確となっており、事業者と労働者だけでなく、第三者から客観的に評価される点もメリットだといえるでしょう。とくに、企業内の評価制度も含めて、透明性の確保につながるため、企業に対する評価の改善も期待できます。

建設キャリアアップシステムの活用事例

建設キャリアアップシステムの活用事例についてみていきましょう。

大林組

大林組は次のような取り組みを行っています。

  • 本社から支店、現場ごとに担当者を決めている
  • e-ラーニングの実施やリモート支援なども図っている
  • 担当者による現場訪問や専門ゲートの設置、マニュアル作成といった取り組みも実施している

関係各社が取り組みやすい環境作りが進んでいるといえるでしょう。

鹿島建設

鹿島建設では、次のような取り組みを行っています。

  • 登録者に対する認定制度や登録料全額負担
  • 協力会社の登録を鹿島建設が代理で登録を行うサポート体制
  • データを一元管理し、有効な就業履歴数の向上を図る(標準API連携認定システムBuildee を活用。自動的な建設キャリアアップシステムの更新もできる)

また、顔認証による入退場の実施によって、現場でも建設キャリアアップシステムを利用する文化が醸成されている状況です。

戸田建設

戸田建設では、次のような取り組みを行っています。

  • 3,000以上の協力会社を整備・更新
  • 2018年12月から建設キャリアアップシステムの登録状況調査
  • サポートチーム、サポートセンターを開設
  • 作業所ごとに看板、ヘルメットに登録者シールを貼る
  • 関係各社向けにポスターやリーフレットを配布

企業として、建設キャリアアップシステムを強く推進しているといえるでしょう。

まとめ

建設キャリアアップシステムに登録することで、経験に応じた就業履歴や保有資格・社会保険の加入状況を把握できます。事業者としても、労働者の能力やスキルを正確に把握できるため、賃金の見直しや適正な人材配置に役立つといえるでしょう。

現在は、業界全体だと3分の1の登録者数であるものの、今後はより活用する事業者や労働者が増加していくと予想されます。