BIM環境整備の現状と課題とは。今後の変化を解説

BIMは、建設業界における重要な技術の1つです。しかし、ゼネコンごとに独自規格があり、業界全体での統一基準が存在しない状況にあります。

そういった状況の中で、2024年7月に国土交通省は「BIM図面審査」と「BIMデータ審査」の導入を発表しました。大手ゼネコンだけでなく、中小企業においてもBIMの活用や普及が進むことが期待されています。

本記事では、現状のBIM環境における課題と今後期待される変化や展望についてみていきましょう。

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現状のBIMは、ゼネコンが独自の規格を使用しているケースが多い状況です。加えて、活用するためのガイドラインはあるものの、業界全体に浸透しきってはいないといえます。そのうえで、国土交通省はBIMに関連するシステムとして、「BIM図面審査」と「BIMデータ審査」を今後開始すると発表しています。

システムの特徴は以下のとおりです。

  • BIM図面審査では、記載事項のチェックと審査時間の短縮。入出力基準基準の策定。PDFやIFCデータで提出できる。クラウド上で管理される
  • BIMデータ審査では、審査に必要な情報が自動的に表示される。図面間のチェックが不要となるため審査側の時間的負荷を軽減できる

これまでのBIMは、規格に加えて、統一された基準はない状態でした。また、人材がいなければそもそも運用できないケースも多かったといえます。しかし、政府が環境整備を行うことによって、業界内の基準が統一されていくことに期待できるでしょう。

現状のBIM環境における3つの問題

ここでは、現状のBIM環境における課題について解説します。BIMは工事全体に影響を与える技術です。プロジェクトの初期段階から運用する必要があり、工事完了後もBINモデルを活用し続けることになります。そのため、今からBIMの活用を検討する場合は、運用に関する理解を進めておくことも大切です。

導入コストと技術的ハードルが高い

BIMを活用できるソフトウェア(Autodesk RevitやTekla Structuresなど)は、購入費用に加え、ライセンス契約や年間更新費用が必要です。また、BIMを実行するためには高性能なハードウェアを用意したうえで、既存のシステムの刷新やアップデートも必要となるでしょう。そのため、大企業ではBIMが活用されているものの、中小企業では初期投資が大きな負担となっており、導入が進んでいません。

また、BIMを効率的に活用するには、ソフトウェアの操作スキルに加え、3Dモデリングやデータ管理の知識も必要です。多くの企業では、知識を持つ人材が少ない状況となっています。

デジタル人材を充足させるためには、新たに人材を雇用するか、既存の従業員に対して集中的な研修を実施しなければなりません。とくに研修に関しては、実施する内容によって、その後の運用成果や企業の業績にも影響を与えるため、長期的な目線での綿密な人材育成計画の検討と策定が必要です。

データの互換性と標準化が進んでいない

各種BIMソフトウェアには、独自のデータフォーマットがあります。たとえば、Revitで作成したモデルデータをTeklaやArchiCADで開く場合、情報が一部欠落したり、正確に表示されなかったりするケースも少なくありません。データをIFCなどに変換して利用する場合も情報の欠落や再調整が必要になることも想定されます。

現状では、各国でBIMに対する規格や標準が異なります。そのため、国際的なプロジェクトや多国籍企業が関わる建設プロジェクトでは、BIMの運用方法やデータフォーマットが統一されておらず、必要な情報が伝わらないといったリスクも考えられます。

関係者間のコミュニケーションや情報共有にルールが必要

BIMは、各関係者のモデル修正や情報更新が他の関係者に適切に共有されなければ、重大なトラブルにつながる可能性が高いといえます。たとえば、設計者や施工業者、設備設計者といった事業者がBIMモデルを活用する場合、デザインや具体的な施工方法などそれぞれの事業者で必要な情報が異なります。そのため、入念なコミュニケーションと情報更新のルールを周知し、徹底しなければなりません

現状のBIMの活用事例

大手ゼネコンでは、BIMの活用は積極的に行われています。積算や設計、施工など多くの工程で使用されている状況です。たとえば、独自プラットフォームによって、リアルタイム更新や情報共有などの課題を解決しながら、着工前から同一のBIMを使い続けるといった取り組みは代表的な活用事例です。シミュレーションや状況の可視化でもBIMは活用されています。

また、各BIMソフトウェアを統合して使用するプラットフォームを大手ゼネコンが各社と協力して作った事例なども画期的だといえます。専門事業者がNavisworksやTekla Structuresといった異なるソフトウェアを使用していても、BIMモデルの中で統合できます。そのため、最終的な施工状況とBIMで差異が生まれない点はメリットだといえるでしょう。

今後のBIMに期待される変化と展望

ここでは、今後のBIMに期待される変化と展望についてみていきましょう。とくに、規格が統一された場合、業務効率の向上に加え、教育機関の学習などにも導入しやすくなります。

BIM標準化と国際規格の統一

今回の国土交通省の取り組みもふくめて、今後BIMは統一された規格が浸透していく可能性があるといえます。仮に、各国の基準が統一された場合には、グローバルなプロジェクトでもスムーズにデータ共有が可能になるでしょう。

また、異なるソフトウェア間のデータ互換性も強化されると予想されます。異なるBIMツール間でのデータ交換がよりスムーズになることで、変換時の情報損失が減少することが期待できます。

BIM導入のコスト削減と人材育成プログラムの拡充

現状では、高額なハードウェアやソフトウェアの購入コストが必要となるものの、今後はクラウドベースのBIMプラットフォームが普及する可能性があります。データ保存や処理をインターネット経由で行うことで、多くの企業は初期コストを抑えたうえで、最新の技術を利用できるでしょう。

また、BIMに関連するデジタル人材の育成プログラムが強化されることも予想されます。現状では、企業ごとに対策を行っているBIM教育が各教育機関でもふれられるようになれば、業界の発展や継続的な成長にもつながります。

企業でも基本的なポイントを抑えたBIM研修プログラムが普及すれば、既存の従業員のスキルアップにつながるでしょう。

まとめ

BIMを活用しようとする場合は、導入コストや技術、データ互換性といった課題をクリアする必要があります。そのうえで、国土交通省のBIM関連システムの導入によって、業界全体の基準ができるため、課題解決に役立つと期待されています。

仮に、規格の統一やクラウドベースのBIMプラットフォームが普及すれば、中小企業でも導入しやすい環境が整備されると予想されます。今後のBIM環境の整備に注目しておきましょう。