循環経済とは|メリットや課題、建設業での事例を紹介

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「循環経済(サーキュラーエコノミー)」についてピックアップします。限りある資源を効率的に利用しながら、持続可能な経済成長も両立させる点が注目されています。本記事では循環経済のメリットや課題、建設業での具体的な事例についてご紹介していきます。
循環経済(サーキュラーエコノミー)とは
循環経済(サーキュラーエコノミー)とは、資源を効率的に活用しながら付加価値を生み出す経済活動のことを指します。従来の「大量生産・大量消費型」の線形経済とは異なり、「資源消費の最小化・廃棄物の発生抑止」等を目指すのが特徴です。
循環経済では製品や資源を再利用・リサイクルすることで、持続可能な経済成長を目指します。これには製品の寿命を延ばすことや、シェアリングエコノミーのように資源の効率的な利用を促進する仕組みも含まれます。
循環経済のメリット
ここでは、循環経済の主なメリットについてご紹介します。
温室効果ガス削減につながる
資源の効率的な利用や廃棄物の削減によって、製品の生産・消費・廃棄に伴う二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスの排出量削減に貢献できるのがメリットです。環境省によると「日本全体のCO2排出量のうち、資源循環が貢献できる排出量は約36%」という試算も出ています。
また既存材料を再利用して新たに資源を採取する必要性を減らすことで、環境負荷を軽減することにもつながります。近年では気候変動問題・大規模な資源採取による生物多様性の破壊など様々な環境問題が深刻化していることから、循環経済の必要性が高まっているのです。
資源枯渇を防げる
循環経済では資源の効率的な利用・再利用を促進することで、限りある天然資源の枯渇を防ぎます。具体的には、製品や材料を可能な限り再利用・リサイクルするのが特徴です。環境省では、「循環経済工程表」の中で下記のような方向性を示しています。
- 2030年までにプラスチック資源としての回収量や金属リサイクル原料の処理量を倍増させる
- 食品ロス量を2000年度比で半減(489万トン)する目標に加え400万トンより少なくすることを目指す
- 持続可能な航空燃料(SAF)の製造・供給に向けた取組を推進する
このように、廃棄物を単なるゴミとして処理するのではなく、新たな資源として活用することを目指します。廃棄物を原材料に変換することで新たな資源を採掘する必要がなくなり、資源の保護につながります。
新規ビジネスが広がる
循環経済では、廃棄物を資源として再利用するリサイクル事業が重要な役割を果たします。これにより、リサイクル企業や廃棄物処理業者などの新しいビジネスの発展につながるのがメリットです。
実際に、製品のメンテナンスやリペアサービスの需要増加、シェアリングエコノミーの発展等、既存の資産を有効活用するビジネスモデルがすでに広がりつつあります。さらに、製品がリサイクルや再利用されやすいように設計する「循環型デザイン」の需要が増える可能性も期待できます。結果として経済全体の多様化と成長が促進され、持続可能な社会の実現にも寄与するでしょう。
循環経済に関する日本の取り組み
政府が8月に決定した「第5次循環型社会形成推進基本計画」では、循環経済を国家戦略として位置付けることが示されました。
具体的には「使用済み太陽光パネルのリサイクル制度創設」といった政策について、年内に法整備が行われる予定です。循環経済への移行を加速することで社会的課題の解決を図り、経済安全保障・産業競争力の強化も後押しします。
経済産業省|成長志向型の資源自律経済戦略
経済産業省では2020年策定の「循環経済ビジョン2020」を受けて、2023年に「成長志向型の資源自律経済戦略」を新たに策定しました。
その中で、日本の強みは「無駄の節約・協調性と調和・3Rの実績と技術力」としながらも、強化すべき点として「野心的な目標の共有・デジタル基盤の構築・ルール形成」を挙げています。そのため今後は野心的な定量目標を設定し、積極的に挑戦する企業を優先的に支援することが示されています。
具体的にはGX先行投資支援策の資源循環分野において、今後10年間で約2兆円〜の投資が行われる予定です。有望なスタートアップの事例共有を行うなど、幅広い企業にチャンスを広げています。
環境省|循環経済工程表
環境省では、2022年に「循環経済工程表」を公表しています。具体的には2050年カーボンニュートラルを見据えた目指すべき循環経済の方向性や、素材や製品など分野ごとの2030年に向けた施策の方向性が示されています。
この内容に基づき、ライフサイクル全体での資源循環に基づく脱炭素化の取組を官民が一体となって推進していく予定です。
循環経済の課題・問題点
循環経済の実現が望まれますが、まだまだ課題や問題点もあります。具体的には、下記の点が挙げられます。
- 技術力の不足
- コストが掛かる
- ビジネスモデルの変革が求められる
まず循環経済を実現するためには、資源の効率的な再利用やリサイクル、製品の寿命延長などを可能にする高度な技術が必要です。しかし現時点では、リサイクルする過程で余計なCO2が発生する等の課題が残っています。また運用コストも大きいため、さらなる技術開発が求められます。
そして多くの企業は、現在の直線的な経済モデルに最適化されたビジネスプロセスで事業を行っています。しかし循環経済に移行するためには、製品の設計から販売後のサポートに至るまで、全ての段階で新たなビジネスモデルを構築する必要があります。これには、企業文化の変革や社内の教育が不可欠です。
循環経済の事例|建設業での取り組み
ここでは、循環経済の主な事例をご紹介します。建設業での取り組みについて、注目してみましょう。
大成建設|建設副産物巡回回収システム
大成建設では2017年より、建設副産物の資源循環を目的に「建設副産物巡回回収システム」を現場で導入していました。そして2023年に、日本通運と共同で運用スキームの再構築を行いました。
具体的には日本通運の専用回収容器「NRボックス」と物流ネットワークを活用することで、建材端材を効率的に回収して建材製造工場へ運搬する仕組みです。これにより、建設副産物から建材製品への資源循環が一層促進されます。
今後も日本通運と連携して多くの建設現場への普及展開を図り、建設業界の循環経済推進に貢献していく予定です。
竹中工務店|サーキュラーデザインビルド
竹中工務店は巖本金属ら5社で連携して、電炉鋼材(鉄)を活用した「サーキュラーデザインビルド」の取り組みを2023年に開始しました。鉄スクラップの回収・加工を担う製鋼原料加工会社・電炉鉄鋼メーカー・ゼネコンによる協業体制を構築し、業界の垣根を超えた循環サイクルの最適化を目指すのが特徴です。
具体的な流れは、下記のようになります。
- 竹中工務店が解体する建築物から鉄スクラップが排出される
- →巖本金属が回収し、製鋼原料に加工
- →加工された原料を、岸和田製鋼・共英製鋼・東京製鐵が製品化
解体プロジェクトから排出される鉄スクラップ等から製品の製造、新たなプロジェクトにおける設計・施工に至るまで、共通プラットフォームによる効果の可視化を実施します。トレーサビリティを確立することで、鋼材の活用数量及びCO2排出量の全体最適化を推進できるのがメリットです。
Sanu|セカンドホーム・サブスクリプションサービス
スタートアップ企業のSanuは、⼈と⾃然が共⽣する社会の実現を⽬指すライフスタイルブランドです。自然の中にもう一つの家を持つセカンドホーム・サブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」を展開しています。
セカンドホームの建築に関しては、カーボンネガティブな建築を実現しています。建設資材の再活用を可能にする「釘を使わない」⼯法、土壌への負荷を軽減する高床式建築、国産材利用、解体に向けたプレハブ建築・分解可能設計など、可能な限り建築ライフサイクル全体の循環を実現しているのが特徴です。
この取り組みは、経済産業省による「サーキュラーエコノミースタートアップ事例集」にも掲載されています。サービス利用により自然との共生に意識が向くという体験・教育的価値に加え、建築自体もサーキュラーエコノミーの原則に則っている点が評価されました。
まとめ
従来型の大量消費型経済から循環経済に変革することで、持続可能な社会実現につながると考えられます。まだまだ技術面や社会構造面での課題は多いですが、さらなる広がりに注目です。