建築技術者の新卒者就職は増加傾向。過去10年で1.4倍に
建設業界における新卒者の就業が増加傾向にあります。では、どういった要素が学生の興味・関心を持たれるようになったのでしょうか。
本記事では、建設業界の新卒者の就職状況や指向について詳しくみていきましょう。
目次
建設業界における新卒者の就職状況と傾向
ここでは、建設業界の就職者の現状と傾向についてみていきましょう。建設業の入職者に関しては、現状では次のような理由から増加傾向にあります。
就職者数は増加している
2024年3月の建設業界への新卒就職者数は17,325人でした。2013年には1.27万人であったことから、過去10年で1.4倍に増加していることになります。増加した理由としては、次のような要素が関係しているといえるでしょう。
- 経済成長とインフラ需要-建設投資額が74兆を超えており、業界としてニーズが高くなっている。また、経済成長による都市部の再開発プロジェクトや大型インフラ整備の需要があることから、建設業界の雇用が増加している。
- 業界の技術的な伸びしろ-近年、新技術の導入やデジタル化を推進しているため、ゼネコンやサブコンなどは若者にとって魅力的なキャリアを選択しやすくなった。特にBIMやAI技術の活用が進んでおり、技術系の進路も選びやすくなった。
- 企業の積極採用-新規プロジェクトの増加に対応するため、積極的な採用活動を行っている。BIMやリモート施工管理など、アピールしやすい取り組みが増加している点も新卒者の興味・関心を得ている。
女性技術者の増加が進んでいる
新卒女性技術者数は4,257人に達して、過去10年で2倍となりました。業界を挙げての柔軟な勤務制度や育児支援の拡充が女性の参入を後押ししているといえるでしょう。
また、建設現場における働きやすさを改善する取り組みも進んでいる状況です。たとえば、安全性の向上やワークライフバランスの確保が図られ、女性技術者の継続的なキャリア形成が可能な環境に変化しつつあります。
そして、「現場女子」や「けんせつ小町」の活躍が建設業界の硬いイメージを柔らげ、多様性を受け入れる現代的な職場環境を作っているといえるでしょう。
建設業も含めた学生の就職志向が変化しつつある
近年では、学生の興味は多様化しています。とくに、建設業務においては、デザインやデジタル技術の活用に対する関心が高まっています。そのため、技術面に期待を持つ新卒人材の参入が期待されている状況だといえるでしょう。
学生が興味を持っているのはデザインと技術
好意的な建設業界に対する学生の興味・関心は、大きく分けて次の3つの要素が影響しています。
- デザイン志向が高まっている-建設業界におけるデザインの重要性を認識し、都市計画や環境デザインに興味を持つケースが増加。建築デザインやグリーンビルディングなどへの関心も高まっている
- デジタル技術の進化に伴い、BIM/CIMやVR技術などの最新技術を学び、活用したいと考える指向がある。建設業界としても、これまで以上に効率的で革新的な方法でプロジェクトを進められる可能性が高くなっている
- 教育機関では、DXといった概念や最新技術(AI)、デザイン思考を取り入れたカリキュラムを提供するようになった。そのため、技術として実践的なスキルを身につけられる環境に身を置けるように変化した
男女の志向の違いもある
男子学生は、依然として大企業志向が強く、安定した職場環境とキャリアチャンスを求める傾向にあります。現在もスーパーゼネコンや準大手ゼネコンへの就職希望は多い状況です。
とくに、大企業は安定した雇用があり、幅広いキャリアパスを用意しているため、魅力的な選択肢の1つだといえます。また、大規模工事への参加機会が得られるため、自身の成長とスキルアップにも期待できることから、会社の規模が判断基準の1つになっています。
対して、女子学生は、企業選びにおいて目的や業種を重視する傾向が強く、働きやすさや社会貢献度を重視しているといえるでしょう。たとえば、柔軟な勤務制度や育児支援の実績がある企業を選べば、長期的に働きやすい環境が整っていると判断できます。
また、社会貢献や地域貢献に対する意識が高く、自治体の土木分野などを選択するケースも増加しています。そのため、地方自治体や中小企業への就職希望が増えている状況です。
建設業界におけるイメージ変容:3Kから新4Kへ
従来、建設業界は「3K」(キツイ、汚い、危険)というネガティブなイメージが強く、若者から敬遠されがちな業界とされていました。しかし、近年では「新4K」(給料が良い、休暇が取れる、希望が持てる、カッコいい)というポジティブなイメージへと大きく変わりつつあります。
変化の理由は、業界全体の改革や技術の進化です。たとえば、労働環境の改善や最新技術の導入、福利厚生の充実によって、建設業界は「魅力的なキャリアパスの可能性がある」と評価されるようになりました。実際に、ワークライフバランスは改善されつつあります。
BIM/CIMやAIなどを活用する建設現場では、高度な技術や創造力を必要とするため、結果として、プロフェッショナルとして「カッコいい」イメージがつくように変化しています。
建設業界における入職者への政府と企業の取り組み
ここでは、政府と企業が入職者に対して行っている取り組みについてみていきましょう。
人手不足への対策
育児支援制度を充実させることで、女性の働きやすい環境を整え、離職率を低下させている事例も増加しています。また、フレックスタイムやテレワークの導入によって、ワークライフバランスを重視する若年層にも対応できる職場環境も整えられはじめています。
現状では、他業界でも採用が活発化しているため、建設業界も子育ても含めた多様なライフスタイルに対応できる柔軟な働き方の実現が可能となりつつあります。
PRキャンペーンの効果
タレントを起用したPRキャンペーンでは、建設業の多様な職種や働き方を紹介し、新卒技術者が興味を持ちやすい内容の発信を行っている状況です。
また、官民連携によって、若年層や女性技術者向けの研修プログラムやイベントも開催されています。業界の魅力を直接体験する機会の増加によって、新卒技術者の入職にも良い影響を与えているといえるでしょう。
学生からみる建設業界の課題
ここでは、学生からみる建設業界の課題についてみていきましょう。
2023年の就職者数は減少傾向だった
2023年に関しては、男女ともに建設業界の就職者数は減少傾向にありました。コロナ禍を経て、IT業界やサービス業などの他業界が積極的な採用活動を行いはじめたことが影響しています。
また、他業界と比べて、長時間労働や過酷な労働条件のイメージが強いため、業界全体で働き方改革や魅力発信を強化する必要があります。そのため、新卒者が魅力を感じる環境作りが急務だといえるでしょう。
デジタル化の推進
デジタル化は、建設業界の効率化と競争力強化に不可欠です。入職者の増加も新技術の導入と活用を進めたいというニーズに興味・関心があるためだと予想されます。
大手企業や自治体では、BIM/CIMやAI技術の導入によって、設計や施工の効率化が図られていますが、業界全体では浸透しきれているとはいえません。また、施工管理や現場監視における自動化技術を活用した、業務の効率化も一部では進んでいるという状況です。
そのため、今後も新卒者も含めてデジタル技術を活用できる人材の育成を進めたり、業界全体で最新技術の導入による生産性向上に取り組んでいったりする必要があります。
まとめ
建設業界は、技術者の増加やデジタル化の推進により、新たな活力を得ています。女性の活躍によって、業界全体に多様性をもたらし、業界のイメージ向上に貢献しているといえるでしょう。
また、デジタル技術の導入によって、業務の効率化と工事の質向上が図られています。しかし、建設業界では、働き方改革や人材育成の強化が急務といえる状況です。今後の建設業界への新卒技術者の増加率に注目しておきましょう。