PICK×natインタビュー|不動産電子取引でDX推進(後編)

2022年に宅建業法が改正され、電子契約が解禁となりました。その中で不動産電子取引サービス「PICKFORM」は、不動産取引をオンライン上で適法に行えるツールとして注目されています。本記事では、「PICKFORM」を提供している株式会社PICKの阿部氏と、AI測量アプリ「Scanat」で知られているnat株式会社の若狭氏による対談の様子をご紹介します。

建設DXを推進する企業同士だからこそ分かり合える業界の課題や今後の展望など、興味深い内容をぜひチェックしてみてください。

PICKFORMについて

【若狭】

「PICKFORM」について、具体的な操作方法や使い方をお聞かせ願えますか?

【阿部】

まずは、対象物件の登録を行って頂きます。例えば「PICKFORMマンション」といった物件であれば、「種別:アパートマンション」を選択します。住所・媒介状況・締結日といった一連のフォーマットに沿って入力することで、簡単に登録可能です。

そして物件関連のファイル等があれば、アップロードしてまとめて管理できます。社員個人のPCに保管してしまうと共有が難しいですが、全員閲覧できることで業務がスムーズになるのがメリットです。また社外のお客様と情報を共有する場合には、メールアドレスを入力してボタンを押すだけで閲覧可能になります。メール添付だと重たいファイルは送信できないこともありますが、この形式なら問題なく共有できます。

契約の段階でも、オンライン上で契約・署名が可能です。不動産取引版だけでなく建築版もご用意があります。押印が必要な書類に関しては、署名依頼を相手に送ってサインを頂く形になります。更新ボタンを押すと締結完了になり、PDFファイルを出力可能です。何時何分に誰がサインしたという履歴データや契約書IDが入った締結証明書が自動的に発行されるため、安心してお使いいただけます。

【若狭】

細かい所まで実装されていて、まさに「痒い所に手が届く」サービスですね。UXという視点でも、ユーザ体験を向上させる工夫をされているのですか?

【阿部】

情報量を減らし、シンプルな操作性を重視しています。例えば押すボタンの回数、ページの遷移数などをなるべく減らすように工夫しました。他社の類似サービスも研究した上で、感覚的に操作できる方法を追求しました。情報量が少ないという観点では、かなりプロダクトを意識していると思います。

【若狭】

直近、建築版もリリースされたとなると、現場での使いやすさも重要になってきそうですね。現在導入されている企業様では、どのくらいの定着率になっているのでしょうか?

【阿部】

現在、約95%の顧客企業に継続してお使いいただいています。具体的には、飯田グループホールディングスの東栄住宅様や、シニア向けマンション販売会社様等が導入されています。不動産取引の契約では契約書を10年間保管する義務があり、倉庫での保管が大きな課題でした。しかし電子化が解禁になったことで、DX意識の高い会社様がいち早く着手されている印象です。

実際の現場でも、操作性がシンプルでシニア層の方にも比較的スムーズに受け入れられているという声を頂いています。ITアレルギーがある方でも使って頂ける、良い事例になっていると感じています。またPICKFORMは、国土交通大臣より適法である旨の回答を取得した国内で唯一のサービスです。こういった安心感も、導入につながっていると考えています。

物件登録実際の図

電子契約の解禁

【若狭】

2022年に宅建業法が改正され、電子契約が解禁になりました。PICKFORMは、解禁に合わせてサービスを構築されていたのでしょうか?

【阿部】

これは、寄せざるを得なかったというのが体感としてあります。法改正の約3週間前に、国交省が不動産の電子契約のルールブックのようなマニュアルを発行しています。ただ抽象度が非常に高く解釈が何通りもあり、プロダクトを作るうえで引っかかる部分が多くありました。

そのため「取引前に事前に同意書を取得しないといけない」等の細かいルールについて、直接国交省と打ち合わせを行っていました。1年以上国交省の方と打ち合わせを重ね、具体的に教えて頂けました。その結果、国交省の担当者いわく「電子契約の打ち合わせをしている会社はPICK以外いない」とのことで、我々が国内で一番詳しい状態になっていたという訳です。国交省のHPにも掲載の通り、国内で唯一”適法に利用できるサービス”という正式な回答をいただきました。

照会書:https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/point/content/001574397.pdf

回答書:https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/point/content/001574207.pdf

実はPICKFORMのリリースをしてから、一度サービスを停止して再開発した時期もありました。マニュアルを理解すればするほど業法上グレーな部分が出てきて、サービス利用をされる業者さんが宅建業法違反になってしまう可能性があるのではという懸念が生じたことが理由です。しかしそういった姿勢も、国交省に評価頂けたのではと思っています。

【若狭】

やはり現場出身だからこそ活かされている真摯な姿勢は、きちんと評価されるものなのですね。現場の声や行政のヒアリングを抽出することには、リサーチ会社でのご経験が活きているのでしょうか?

【阿部】

それは結構あると思っています。リサーチ会社ではユーザーインタビューこそが宝で、普段意外と気付いていないことを発見できる貴重な場だなと思っていました。どうしても開発の人間は現場の声を聞ける機会が少ないので、社内にデリバリーすることが重要な役目だと思っています。組織としても、そういった意識はかなり浸透しているのではないかと思います。社内のグループチャットでも色々な意見が上がるのが日常なので、お客様に向き合っている証拠だと嬉しく感じます。

【若狭】

最近の建設DXの流れでは、マーケットインとプロダクトアウトの形式がありますよね。技術ありきのプロダクトアウトとは異なり、マーケットインではヒアリングや現場の経験がやはり重要なのだなと感じます。

今後の展望

【若狭】

今後の展望や、プラットフォームの新機能等があれば、差し支えない範囲でお聞きできますでしょうか?

【阿部】

今後は、工務店やビルダーといった業者様向けのサービスも展開していければと考えています。不動産や建設業を掛け合わせて行われている業者様が多いですが、一気通貫で完結できるサービスがあれば、便利に活用頂けると思います。

例えば契約書作成機能では、AIを活用した開発を進めています。将来的には土地の仕入れや役所調査、契約書の自動作成といったアフターフォローまで、全ての部分に介在していく予定です。業務効率化することで、セールスに時間を割いて頂けるようにするのが理想です。さらには建設業者の工程管理についても、元現場監督という経験を活かして広げていきたいと考えています。

【若狭】

建築の不動産の領域をまたいでサービス展開される中で、越えていくべき課題等はありますでしょうか?中小ベンチャーから大手企業にアプローチする際に、意識されている部分があればお聞かせください。

【阿部】

最終的には、街の不動産屋さんをターゲットにしていきたいと考えています。ただ大手の実績が無いと全体に広がっていかないという事情もあり、各エリアのNo.1ビルダー様などにアプローチして採用頂いています。実際にこういった取り組みから地場の中小企業にも広がっているため、一つずつステップを踏む形で広げていきたいです。

【若狭】

阿部様は不動産からいきなりテック系に転職されたのではなく、不動産業で実際の現場状況に身を投じられていたのですよね。

【阿部】

そうですね。今はスタートアップの執行役員をしていますが、現場での経験や行政とのやり取りの経験は結構珍しいと思います。意見を迅速に開発に活かしていくという姿勢は、現在のベースになっていると感じています。

―――「ITアレルギー」を持たれているお客様に対しては、どのようにアプローチされていましたか?

【阿部】

弊社の代表も、元々パソコンが苦手な人間でした。当時はショートカットキーの使い方も分からないといった状態だったので、「なるべくシンプルに分かりやすくする」という考え方で開発していました。

―――2022年に宅建業法が改正されたのは、書類の保管や印紙経費といった課題を解決するという狙いがあったのでしょうか?

【阿部】

はい、国が電子契約のデジタル化を推進する目的があり、業界からも書類の保管コストや非効率性への改善要望があったため、法改正が行われました。また、他の業界ではすでに電子契約が一般化していたことも背景にあります。

―――実際の現場での普及率は、現時点でどの程度進んでいるのでしょうか?

【阿部】

賃貸物件では15%程度、売買物件ではさらに低く5%程度の普及率だと報告されています。契約はイベント感が強いため対面での契約が好まれる習慣があり、まだまだ時間はかかりそうですが、着実に進んでいくと考えています。高額な契約での、そういった心情はもちろん大切にしたいと考えています。最近では対面で電子契約を行う事例が多く、既存のやり方とテクノロジーを融合した方法が増えつつあります。

開発ロードマップ

まとめ

電子契約が解禁になり、建設・不動産業でもデジタル化が進められています。「PICKFORM」では現場の声を丁寧にヒアリングすることで、誰にとっても使いやすいツールを実現しています。まだまだ導入広がりの余地があり、完全電子化が実現すれば業界全体での効率化も進むと考えられます。