営繕工事の週休2日制の実施率は98%以上に。労働者の健康と生産性の両立は可能か?

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著者:鈴原 千景

建設業界の中でも、建築物の所有者から施工条件を提示されるため、営繕工事の労働条件は厳しいとされています。しかし、2023年度の営繕工事における週休2日制の実施率は90%以上という結果となりました。つまり、現状は建設業の中でも営繕工事は労働者の肉体的・精神的負荷の軽減が図られているといえるでしょう。

本記事では、営繕工事の現状と週休2日制の導入が重要視されている理由にふれたうえで、導入手順についてみていきます。

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国土交通省は7月13日に、2023年度完成の営繕工事において、週休2日制の実施率が98%を達成したことを発表しました。ここで定義される週休2日制は、4週8休以上の現場閉所があったと認められる状態を意味しています。

残業時間の上限規制など、働き方改革法案の影響もあるものの、建設業においては次のような課題があることから週休二日制の実施が難しいケースも多かったといえるでしょう。

  • 労働人口の低下(日本全体で下がっているが、イメージと実際の労働環境から、入職率がほかの業界よりも低い)
  • 方針は示していたものの、適切な工期設定がされなかった(2024年になって努力義務が出された)

そのうえで、発注者と施工者の協議することで週休2日制を実施できる労働環境を営繕工事ではある程度整えられたと判断できます。

建設業全体で週休2日制が重要視される理由

営繕工事も含めて、週休2日制の実施が重要視される理由は、次のような理由があります。

  • 労働の安全性を高める必要がある(肉体的・精神的負担を軽減し、十分な休息を確保すれば、労働災害や過労、ケガなどのリスクを低減できる)
  • 労働者の満足度・モチベーションの向上(過去の建設業は現在よりも過酷な労働条件だったことから離職率が高く、モチベーションを維持するのが難しい状況だった。しかし、現在は、残業時間の上限規制による労働時間の規制、長期就労前提のキャリアプラン形成もしやすくなった。また、労働環境の改善は人材獲得のためにも必須となりつつある)
  • 生産性と品質向上(生産性の低さは休息の有無でも変化する。そのうえで、休息の確保によって生産性の向上や施工品質の向上が期待できる)

AIの活用やBIM/CIM、DX推進なども労働者の負担を軽減したうえで、生産性を確保するための施策です。また、週休2日制の導入によって、労働者の創造力が高まる効果も期待できるため、重要視されているといえるでしょう。

把握しておきたい営繕工事の労働環境

ここでは、営繕工事でよく発生する労働環境の課題がどういったものなのかについてみていきましょう。

営繕工事における週休2日制の取得率は90%以上であるものの、通常の工事を含む「国土交通省の令和4年度完了工事における週休2日の取組状況(都道府県)」では全国平均で46%程度でした。また、都道府県によって、15%から90%程度まで差が生じている点も知っておきましょう。

つまり、営繕工事では労働環境の改善は進んでいるものの、業界全体としては、週休二日制の考え方そのものが浸透していないケースもあると予想されます。

労働環境の現状はどのようなものか

営繕工事は、建物や施設の維持・修繕を行うため、作業が屋外で行われることが多く、天候や季節による影響を受けやすいといえます。また、作業現場は騒音や粉塵、重機の稼働などによって、物理的にも過酷な環境にさらされるケースも少なくありません。

また、建物の老朽化や既存の設備の不具合による安全性のリスクもあります。労働者は作業前に建物の安全性を確認し、適切な安全対策を講じなければなりません。また、アスベストなどの有害物質の除去作業も含まれることがあります。

そういった現状の対策としては、アプリやAIを使用した労働環境の把握や最新機器の導入などが実施されており、作業効率の向上や効率的な現場管理につながっています。

労働時間で考えられること

営繕工事は、建物の利用者やオーナーの都合に合わせて作業時間を調整することが多く、労働時間が不規則になりがちです。たとえば、午前中の工事はNG、夜間であれば17時以降であれば可能などといった条件があるケースも想定されます。そのため、労働者のライフバランスに影響を与えるケースも少なくありません。

また、突発的な修繕が求められる場合は、予期せぬ残業や休日出勤が発生するケースもあるでしょう。加えて、施工者は工事の進行状況を適切に管理し、スケジュールを調整する必要があります。

ただし、週休二日制の実施は、施主と施工者で協議ができたり、スケジュールを調整できるような環境が構築されていたりすれば、実現できる可能性が高いでしょう。そのうえで、施工に影響がある職人のスケジュールや材料の確保まで含めた綿密なプランニングがこれまで以上に求められる環境になりつつあります。

たとえば、労働時間の月次レポートの作成やフィードバックなどはアプリやAIでの管理も可能です。スケジュールの進行に関しても、依頼者とコミュニケーションを取りながら、効率的な技術の導入などを実施できれば、施工スケジュールにも余裕を持つことができるでしょう。

営繕工事における週休2日制の導入手順

実施要領に関しては、長崎県や茨城県、宮城県など非常に多くの自治体で交付されています。つまり、多くの自治体では、週休2日制を前提とした営繕工事を行っているといえるでしょう。そのうえで、週休2日制を今から導入したい場合、次のような手順を意識することが大切です。

  • 労働時間と現場の声の現状把握
  • 改善するための課題特定
  • 課題をふまえた計画の策定とツールやシステムの導入
  • 実際に導入したツールやシステムを使用し施工を進める
  • 評価を行い改善していく

リソースが限られている企業ほど実施が難しいと考えられるものの、今後の企業活動のために週休2日制を実施できる体制作りを進めていきましょう。

まとめ

営繕工事における週休2日制は、労働時間の適正管理やシフト制の導入、効率的な作業計画の策定などによって実現できます。実際に、国土交通省では98%の導入率があるという結果も発表されています。

建設業全体では、労働者の負担を軽減する取り組みが今後も必要です。週休2日制の実施によって工事の品質と生産性が向上し、顧客満足度も高まります。そのため、導入を諦めるのではなく、できるところから取り組んでいくことが大切だといえるでしょう。