建設業における不当な工事契約は禁止へ。これまでと今後について解説

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著者:鈴原 千景

建設業界では、不当な工事契約によって、長時間労働や低賃金が引き起こされるケースもあります。建設業に限らず、不当な契約は業界のイメージの悪化、入職者の減少につながるものです。そのため、6月7日の改正建設業法では、不当契約の禁止が定められました。

では、なぜこれまで不当な工事契約が締結されてきたのでしょうか。

この記事では、なぜ不当な契約がこれまで存在してきたのか、その原因や背景、改善事例についてみていきましょう。

「トレンドワード:不当契約」

不当な工事契約とは、公正な取引条件が守られていない契約を意味する言葉です。たとえば、契約書として、資材の高騰や工期の遅れなどに関しても請負側が一方的に不利になるような内容であれば、禁止ということになります。

6月7日に成立した改正建設業法も発注者側のルールを新たに定めるものでした。たとえば、標準労務費の遵守が必須であり、違反した場合は都道府県や国による勧告が実施されます。加えて、資材高騰のリスクなども事前に伝えなければなりません。

そして、次のような場合であれば不当契約に該当する点は知っておきましょう。

  • 不適切な価格設定:工事費用が過剰に高い、不当に低く設定されている。たとえば、賃金の設定などに加え、利益が過剰な計算になっている場合や材料の品質が低い場合など
  • 品質確保手段の不足:契約内容に明記されている品質基準が守られない。発注元が提供する材料の仕様が曖昧、材料の品質検査が実施されておらず下請けに事実を伝えてないなど
  • 曖昧な内容:契約書の内容が曖昧となっている。たとえば、解釈の余地が大きすぎることで賃金支払いや支払い条件の確認でトラブルが起きる

発注者都合によって、契約変更が実施され、請負側に説明がない場合なども不当契約といえます。この場合、工事事業者の信頼関係の構築、適正な工期や賃金の支払いが不可能となるため、工事契約の適正化や見える化が求められています。

不当な契約がもたらす影響とは

不当な契約がもたらす悪影響は次のような項目が代表的です。どのようなリスクがあるのかを把握し、適正な契約内容の締結を実施していきましょう。

  • 工事品質の低下:コスト削減の圧力と利益確保が必要になるため、材料の品質が低下し、工事の品質が低下する。施工方法にも悪影響を与え、工期を確保できないため、適正な工法の実施が難しくなる。
  • コストの増大:不透明な契約内容となっているため、施工ミスの是正やトラブルの解決で追加費用が発生する。
  • 納期遅延:計画がスムーズに実施できなくなり、資材や人材の不足から工期が延びる。また、人材に関しては現場単位で金額を調整しているため、工期がコストや計画の遅延で遅れた場合、スキルのある人材を確保できない。
  • 法的トラブル:契約違反や紛争が生じやすく、法的な対処が必要となる。たとえば、契約締結後でも契約内容が不当な場合、法的対処のリスクがある。
  • 信頼関係の崩壊:発注者と受注者間の信頼関係が損なわれるため、全体的な工事の質が下がる。また、会社としての評判も下がってしまう

なぜ不当な契約がこれまでできたのか

ここでは、これまでなぜ不当な契約が実施されてきたのかについてみていきましょう。賃金や工期に関しては、承諾したあとの変更が難しい状況が多かったことも理由の1つとしてあげられます。

また、建設業として、依頼そのものに契約書がないような働き方も可能な状態であったため、不当な契約となっていたケースもあったといえます。

法規制が不十分で改善の最中にある

建設業に関しては、現状も法規制が頻繁に行われており、整えている段階にあるといえます。そのため、次のような問題がこれまではありました。

  • 監視体制が甘い-地方や小規模な工事現場では、監視が行き届かないことが多く、不当行為が見逃されるケースも多かった。地方自治体や監督機関のリソース不足もある
  • 報告義務がない-契約段階で、監査制度が整っていなかったり、報告義務が不明確となっているケースがある。不当契約内容が外部に知られないまま放置されることも。
  • 罰則が軽かった-不当行為が発覚しても、罰則が軽く、業者はリスクを冒してでも不当な契約を結ぶ。軽い罰金や短期間の営業停止では、再発防止には不十分。

業界の慣行が環境の悪化につながっていた

業界の慣行に関しても次のような問題があります。たとえば、大手から中小企業だけでなく、大手同士でも談合で摘発されるケースも過去にはありました。また、下請け業者が元請け業者の契約内容に口出しできないといった力関係も問題の1つでした。

  • 入札談合があった-これまで入札談合は歴史的に行われてきた。競争を実質的にしないため、特定の業者が有利な条件で契約を獲得する。そのため、不当な契約が締結やすかった
  • 強制的な低価格化-競争が実質的に存在せず、コストが削減されるケースもある。そのため、適正な価格での契約ができなくなる
  • 下請け構造によるコスト圧迫-建設業界では、多重下請け構造が一般的だった。下請け業者が元請け業者から、不当に低い価格で仕事を受けるケースが多い

経済的な立場が前提にあった

適正な工事契約を実施するためには、元々の契約内容を知ったり、適正なコストの確保が必要です。そのうえで、経済的になぜ不当契約となっていたのかを知っていきましょう。

  • 価格競争に勝つための低価格提示-建設業界として、他社よりも低価格を提示するために、実現不可能な条件で契約を結ぶケースもあった。ただし、コスト削減や品質低下につながる
  • 納期の罰則があった-短い工期では、納期を守るために、劣悪な労働条件や不適切な工事方法を実施することもある。納期遅延に対する厳しいペナルティが設定されているケースも多く、無理な工期を受け入れざるを得なかった
  • 利益の圧迫が悪循環につながっている-競争激化や経済状況の悪化により、利益を確保するために更にコスト削減を行う。業界全体の利益率が低下につながる

建設業の契約の改善は進んでいる

建設業界では、次のような取り組みによって契約の改善が進んでいます。

  • 透明性の向上
  • 法的整備の強化
  • 業界団体の取り組み

契約の透明性を高める取り組みに関しては、電子契約システムの導入や契約書の標準化が進んでいます。法規制の強化は近年では頻繁に実施されており、公共工事においては公正取引委員会の監視が強化されている状況です。そのため、不正行為が発覚した場合には厳しい罰則が課されるようになりました。

業界団体によるガイドラインの策定も不当な契約の減少に効果を発揮しています。今後はより適切な工事契約が増加していくといえるでしょう。

まとめ

不当な工事契約は、公正な取引条件が守られない契約を意味します。そのため、工事品質の低下や法的トラブル、関係者間の信頼関係の崩壊など多くの問題を引き起こしていました。

しかし、法改正によって厳しい罰則が適用されるようになったことから、コスト削減による人材不足や利益率の悪化を改善できる可能性が高まりました。今後も、工事契約の改正の動向を見守っていきましょう。