国土交通省が「CO2排出量試行ツール」を配布。建設業のCO2削減の現状を解説

2050年のカーボンニュートラルの実現を目指すため、建設業においても建築物省エネ法の義務化やカーボンニュートラル対応試行工事の推進なども進められている状況です。また、2024年5月には国土交通省が「CO2排出量試行ツール」を作成し、提供を開始しました。

本記事では、国土交通省が配布している「CO2排出量試行ツール」と建設業におけるCO2削減への対策について詳しくみていきましょう。

「トレンドワード CO2排出量試行ツール」

国土交通省は、CO2排出量試行ツール「建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)」を5月に配布しました。このツールを活用することで、資材製造から運搬、解体といった建物のライフサイクルを通したCO2排出量を算出できます。

  • 算出方法は標準算定法や概算用として活用しやすい簡易算定法などがありニーズに合わせて使いわけられる
  • 形式はExcelであるため、多くの企業が広く使用しやすい

ただし、造成工事や敷地外工事などには対応していないため、自社の施工内容とツールを活用できる範囲を確かめましょう。

建設業でもCO2削減を含めた環境配慮が必要な理由

ここでは、建設業でCO2削減を求められる理由についてみていきましょう。CO2を含めた温室効果ガスの削減は、世界全体の目標です。地球温暖化がこのまま加速した場合、環境破壊や災害の増加などにつながります。

そのため、建設業においてもCO2削減を念頭においた工事や解体までふくめたCO2削減の取り組みが求められている状況にあります。

建築物省エネ法の施行・義務化

建築物省エネ法は建築物のエネルギー効率や性能の向上を図るための法律です。2025年4月1日以降、適用外となっている建築物以外は以下の基準を守る必要があります。

  • 断熱等性能等級、一次エネルギー消費量等級の削減率を必ず満たす(ZEBでは最低30%以上。ZEHでは最低20%以上の一次エネルギー消費量を満たし、建築地の「UA値、ηAC値」を満たさなければならない)
  • 増改築でも省エネ基準への適合が必須(非住宅・住宅どちらでも)

2024年の段階で、省エネ性能は販売・賃貸業者であれば表示が義務化されています。そのため、計画や施工段階における省エネ性能の確保は今後はより求められていくといえるでしょう。

企業イメージ・信用力の向上

CO2を含めた温室効果ガスを削減する取り組みは、企業イメージ・信用力の向上につながります。「企業イメージの改善」や「幅広い顧客からの資金調達」などを目標とする場合にも役立つでしょう。

また、設計から解体まで含めた建築物のライフサイクルまで考慮した施工であれば、内外の評価向上にもつながります。CO2削減を意識する場合、施工内容もAIやBIM/CIMの使用が前提となるケースが多いため、結果として生産性の向上や従業員の負担軽減といった効果も期待できます。

国際的な競争力の向上

建設業全体にいえることとして、国内だけでなく、海外での評価を高める場合にも、温室効果ガス削減の取り組みが役立ちます。例えば、過去と比較して工事全体で60%以上の温室効果ガス削減などといった結果があれば、企業の競争力はこれまで以上に高まるといえるでしょう。

また、国内の動きに関していえば、大規模建築でも木材の使用が全体となったことに加え、ZEB・ZEHに使用される設備機器の開発も進んでいる状況です。そのため、建設業の中でも温室効果ガス削減の取り組みを実施しているかどうかで、企業の競争力も評価されるようになると予想されます。

建設業の年間CO2排出量と現状

環境省の「2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について」では、日本全体の温室効果ガス排出量は11億7,000万トンとなっています。そして、国土交通省の「建設施工分野における地球温暖化対策の推進建設機械」によると、建設機械は年間1万1,466トンのCO2を排出している状況です。

そのため、建設業においては、次のような取り組みが実施されています。

  • 建機や車両から排出されるCO2削減
  • 再生可能エネルギーの活用、普及
  • 建築資材の低炭素化、脱炭素

建機や車両は施工段階のCO2排出量の8割を占めていることから、低炭素型建機への切替、燃料の代替に取り組んでいます。また、ガイドラインの策定や研修の実施なども進めているため、今後は温室効果ガスに配慮した建機が業界内でも広がっていくでしょう。

ただし、具体的な目標設定がされるまでには時間がかかるため、政府や関連団体からの指針・法律の策定などを受けて、企業単位で取り組みを実施していくことになると予想されます。

建設業におけるCO2削減に関連する取り組み事例

ここでは、建設業におけるCO2削減の事例についてみていきましょう。材料や設備、施工方法など、自社で取り組める範囲から実施することが大切です。

鹿島建設

鹿島建設では、サプライチェーンまで含めたCO2削減を実施しています。例えば、バイオディーゼル燃料の使用、環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM®」の開発・使用、工事工程におけるCO2排出量可視化システム「edes」なども運用しています。

また、カーボンニュートラルの実現に関しても自社でのCO2削減と関係各社による目標の策定も行っているため、企業として今後も温室効果ガスの削減に注力していくといえるでしょう。

大林組

大林組は、2030年までに46.2%(2019年比較)のCO2削減を目標としています。そのため、現在はバイオディーゼル燃料の導入やICT施工の推進による省エネルギー工法の推進などを行っている状況です。

とくにICT施工に関しては、人材への負担軽減、電動建機の導入などによって燃料使用料の低下を実現しています。2030年には、燃料に関して再生可能エネルギーへの切替率を100%としており、ZEB・ZEHを顧客に提案していく方針です。

まとめ

建設業においても、エネルギー消費量を意識した施工の実施が必要となり、建築物に関しては建築物省エネ法よりも厳しいルールが適用される可能性もあります。そのため、現状における自社のCO2排出量を的確に把握し、できるところから温室効果ガスを削減していかなければなりません。

官公庁からの情報やツール提供なども含めて、温室効果ガス削減の対策を検討していきましょう。