国交省の中央建設業審議会、工期基準の見直しを実施。どう変化した?

国土交通省の諮問機関である中央建設業審議会は、2024年3月29日に工期に対する基準を改訂し、勧告しました。

建設業のあらゆる工事は、工期に合わせて施工を行っていくものです。工期は、契約に沿って決められ、工期通りに工事が完了しなければ契約違反となってしまいます。そして、建設業法では、「著しく短い工期による発注」は法令違反に該当します。

しかし、これまでは事業者の作業によって工事全体が遅れたとしても、最終的な工期の調整が不可能なケースもありました。また、2024年4月からは「工期に間に合わせるための多すぎる残業」も原則はNGとなり、法律を守ったうえで生産性を高めていく必要があります。

そうした事情もふまえて、本記事では、工期に関する基準がどのように変化したのかについて詳しくみていきましょう。

トレンドワード:「工期 新基準」

工期の新基準は、2020年7月20日に中央建設業審議会が適切な工期の設定や見積りを行う段階で、考慮すべき事項を定めたものを意味します。そして、2024年3月29日に今までの工期の基準を見直し、改訂したという流れです。

工期に対する改定を行った理由としては、次のような要因があります。

  • 建設業も残業時間の上限規制の実施が義務となる
  • 発注者の理解と協力の促進を行いたい(これまではガイドラインがあったとしても短い工期での施工を実施させるケースが多かった)
  • 工期の遅れが技術ではなく、単純な確認事項の伝達ミス・施工内容の変更の共有がないことによって起きていた

業界として適正な工期の遵守に取り組んでいくことで、適正な見積り金額による工事の受発注や時間外労働の上限規制の違反回避が可能となるといえるでしょう。

適正工期が確保された見積書の提出を努力義務とした

今回の工期の改定においては、適正な工期が確保された見積書の提出を努力義務としています。法的な罰則はないものの、労働環境を考慮した内容の基準となっており、発注者に対して十分に考慮すべき事項として記載している点は、大きな変化だといえるでしょう。

移動時間も労働時間に含む点を明確な文章に示した

今回の工期基準の改訂では、重機オペレーターや直接作業を行う作業員の移動時間も含めて適切な工期を設定することを記載しています。実際に、これまで作業員や重機オペレーターについては、作業前に数時間の移動を要するケースもあったとしても、労働時間としてはカウントされていませんでした。しかし、今回の改訂では工期の基準として明確化されているため、移動時間も含めて労働時間を明確に管理する必要があるといえるでしょう。

工期の基準で考えられる対応例

ここでは、新しい工期の基準をふまえた対応例についてみていきましょう。

前提として、公共工事は発注者が決定し、民間工事は受注者と協議しながら決定します。しかし、これまでは、「発注者が一方的に決めた工期に対して、受注者が無理にでも工期内に完了させる」というケースも多かったといえます。

しかし、関係各社に配慮した適切な工期を設定できれば、受注者と発注者の関係性の改善、受注者に対する正統な施工料金の支払い、状況をふまえた契約内容の変更が実施しやすくなります。

ケース1.

「前工程の遅れによって夜間の突貫工事を命じられた」

こういった場合は、工期の基準をふまえると、どの工程に問題があり遅れが生じたのかを明確にし、関係者間で協議を行い、適正な工期や金額を再設定するという対応になります。

ケース2.

「本来はもう施工に入れていたが、前工程の遅れで入れなかった。工期に間に合わせるため作業員を追加の支払いで確保したが、元請けからの追加支払いはなかった」

作業員は、次から次へ現場を移動するケースがほとんどです。その点もふまえて、他の工程や前の工程による遅れの損失を自社だけが負担するものではないといえます。契約変更もふくめて、協議を行い調整しましょう。

ケース3.

「機械設備の承認遅れによって工期が遅れているが、無理にでも最初の契約通りに完了させろと言われている」

機械設備の承認は必須であり、省略できません。発注者の承認によって遅れた場合は、起こった原因を含めて協議し、適切な工期を設定しましょう。また、そうなった原因や記録を示すことも大切です。

工期適正化によるメリットと想定される変化

ここでは、工期適正化によるメリットや想定される変化についてみていきましょう。法律の変化に伴って、建設業においても「労働時間を守りながら、生産性や工事の質を落とさずに施工する」必要があります。そのため、工期が適正に設定されることで、業界全体の変化が進むと想定されます。

適正な時間管理が可能となる

工事の基準と法律を守るためには、アプリなどを通してこれまで以上に適正な時間管理が求められるようになります。しかし、工期が適正に設定されたうえで、時間管理が行われた場合には、法律の遵守とこれまでと同様の質の担保も可能となると予想されます。

また、これまで以上に労働時間を管理したうえで、工事の品質を落とさない取り組みが必須となります。労働時間内で生産性を向上させるためにも、AIBIM/CIMといった最新技術の活用も進んで行くでしょう。

生産性の向上・効率化を行うために業務内容が最適化される

残業時間の上限規制が施行される前から、建設業では、生産性や効率化に対して問題がありました。適切な契約内容の締結なども課題の1つなっていたといえるでしょう。

しかし、改訂された工期の基準においては、労働時間も明確に規定されているため、業界全体で生産性の向上を図るための業務フロー改善・最新技術の導入が進んでいく可能性があると予想されます。

まとめ

今回は、中央建設業審議会が3月末に発表した工期の新基準について解説しました。労働時間に移動時間も含める点や時間外労働を守りながら工期を検討する点などから、建設業の契約内容の健全化が進むといえるでしょう。

また、今回の改訂に関しては、契約書の内容として、時間外労働の規制も加味した「適切な工期設定」が努力義務となっています。法的拘束力がない点もふまえて、今後も工期の基準がどのように変化していくのか注目しておきましょう。