「空飛ぶ車」実用化はいつ?仕組みやヘリコプターとの違い、建設業との関わり

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著者:小日向

トレンドワード:空飛ぶ車

「空飛ぶ車」についてピックアップします。渋滞解消や観光といったメリットがあり、次世代のスマートモビリティとして注目されています。本記事では空飛ぶ車の仕組みや特徴、建設業との関わりについてご紹介します。

空飛ぶ車とは

国土交通省によると、空飛ぶ車とは「電動・自動(操縦)・垂直離着陸」といった機能を備えた乗り物のことを指します。車のように小回りが利くため、未来の都市交通手段として開発が進められています。

高齢化の進む日本では、都市部での送迎サービスや離島や山間部での移動手段、災害時の救急搬送などへの活用が期待されています。空飛ぶ車を次世代モビリティシステムにするべく、世界に先駆けた実現を目指しています。

空飛ぶ車の仕組み・種類

空飛ぶ車は、主に下記3つのタイプに分類されます。

  • マルチロータータイプ
  • リフト・クルーズタイプ
  • ベクタードスラストタイプ

マルチロータータイプ

https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20210203.html

マルチロータータイプは、ほぼ垂直な軸周りに回転する三つ以上の電動の回転翼を持つタイプです。回転翼によって、揚力・推進力を得る仕組みとなっています。

複数のモーターの「回転速度」を変化させることにより推力や反トルクが生じ、ローターの位置関係、回転方向、ピッチ順逆といった要素からなる合力が得られます。ただし巡航時のバッテリーの消耗が激しいため、短距離の移動への利用が見込まれています。

リフト・クルーズタイプ

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000073843.html

リフト・クルーズタイプは、マルチローターと固定翼・推進用プロペラを持つタイプです。垂直離着陸時と巡航時で、異なる電動推進システムを用いるのが特徴です。

離着陸時は、マルチローターで上向きの推力を発生させます。一方で巡航時には前向きのプロペラを使用して水平飛行を行い、固定翼により必要な揚力を得ます。

固定翼より揚力を得ることで、マルチロータータイプと比較すると巡航時のエネルギー効率が良いのが特徴です。そのため、長距離飛行にも適しています。

ベクタードスラストタイプ

https://www.jobyaviation.com/

ベクタードスラストタイプは巡航用の固定翼があるのが特徴で、垂直離着陸時と巡航時で同じ電動推進システムを用います。

離着陸時は、垂直方向に配置されたプロペラ等により上向きの推力を得ます。一方で巡航時はプロペラ等が傾いて前方への推力を発生させ、固定翼より揚力を得るという違いがあります。マルチロータータイプよりも長距離飛行に適しているだけでなく、より高い巡航速度と距離を実現できるタイプです。

空飛ぶ車とヘリコプターの違い

空飛ぶ車に似た乗り物として「ヘリコプター」が連想されますが、機能や仕組みは大きく異なっています。空飛ぶ車とヘリコプターの主な違いは、下表にまとめられます。

項目空飛ぶ車ヘリコプター
エネルギー電力化石燃料
騒音静かうるさい
部品点数少ない多い
整備・運行費用安い高い
自動飛行可能難しい
離発着場所自由度が高い制限がある

ヘリコプターは回転翼を制御して飛行する仕組みですが、「バタバタ」という大きな騒音が発生するのがデメリットです。しかし空飛ぶ車では複数のプロペラを低速回転する仕組みのため、騒音が発生しにくくなります。

また電力駆動の空飛ぶ車の方が、飛行時にCO2が発生しないため環境に優しくなります。ビルの屋上といった比較的狭いスペースでも離発着できることで、タクシー感覚で気軽に使えるようになる点もメリットです。

空飛ぶ車の実用化はいつ?

https://xtech.mec.co.jp/articles/9927

日本では、2025年頃からの空飛ぶ車の実用化が目標とされています。現在、商用運航や社会実装を目指し、官民一体で検討が進められている段階です。それに先駆けて、実証実験や検証といった取り組みもスタートしています。

国交省|空の移動革命に向けたロードマップ

https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk2_000007.html

国土交通省では「民」の将来構想や技術開発の見通しをベースに、「官」による支援も充実させることで、社会に受容されるルール作りを進めています。

具体的には2025年の大阪・関西万博までに実証実験を重ね、2020年代後半には商用運航の拡大、2030年代以降にはサービスエリアや路線・便数の拡大が進められる予定です。

2025大阪・関西万博|空飛ぶクルマ「モビリティエクスペリエンス」

https://www.expo2025.or.jp/future-index/smart-mobility/advanced-air-mobility/

2025年の大阪・関西万博では、「モビリティエクスペリエンス」として空飛ぶ車を体験できる予定です。当初は乗客を移送する交通手段として運航される予定でしたが、技術的な問題でデモ飛行に留まることになります。

万博は最先端技術のお披露目の場でもあり、これをきっかけに空飛ぶ車の開発が進むことが期待されています。

東京都|空飛ぶクルマ社会実装プロジェクト

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/12/07/17.html

東京都では、2022年から空飛ぶクルマを活用したサービスの実証実験を行っています。実際には空飛ぶ車ではなくヘリコプターを代替としていますが、都内3地点間を5つの航路で運航することでデータ収集に役立てています。

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/12/07/17.html

「ゆりかもめ青海駅~新丸ビル」といった地点を実際に空路で移動することにより、渋滞回避や快適性などの効果を実証します。2024年度の実証では、ヘリコプターではなく空飛ぶ車を使った運航実証及び地上オペレーション(離着陸管理・シミュレーション、チェックイン・保安検査、周辺安全管理・監視)が行われる予定です。

空飛ぶ車のメリット

空飛ぶ車のメリットとしては、下記の点が挙げられます。

  • 渋滞の解消
  • 物流の効率化
  • 観光への活用
  • 災害対応の効率化

空飛ぶ車は空中を移動するため、地上の道路交通による渋滞に影響されません。そのため、より迅速に目的地に到着できます。これにより、物流業界においても迅速かつ効率的な輸送手段として活用が可能です。

また空飛ぶ車によって観光地や景勝地間の移動が容易になり、より多くの観光スポットを短時間で訪れられるようになります。地上の交通網が混乱しやすい災害時においても、空飛ぶ車は救助活動や物資輸送で迅速な対応が可能です。

空飛ぶ車の課題

空飛ぶ車にはメリットが多いですが、まだまだ解決すべき課題も残っています。

  • 安全性・技術の問題
  • インフラ整備
  • 法整備
  • 開発費用が掛かる

国交省ロードマップでは2020年代後半に商用運航の拡大が予定されていますが、技術的な課題により実現できるかに疑問が残ります。また従来の飛行機とは違った新技術になるため、空飛ぶ車に合わせた法整備も必要です。

建設業での空飛ぶ車の事例

ここでは、建設業における空飛ぶ車の事例をご紹介します。直接空飛ぶ車を開発しているわけではありませんが、発着ポートの建設等で大きな関わりがあります。

清水建設

https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2023/2023036.html

清水建設らは、「次世代モビリティ(空飛ぶクルマ用浮体式ポート・陸海空のマルチモーダルMaaS)」を実証実験します。これは東京都による「東京ベイeSGプロジェクト」によるもので、2026年3月末まで行われる予定です。

実証には、野村不動産、ANA、朝日航洋といった企業が参画します。この中で清水建設は、多拠点化が可能な空飛ぶ車用の浮体式ポートの構築・検証を行います。ここを中心として、陸(自動運転車)、海(自律航行船)、空(空飛ぶクルマ)における複数の移動手段が相互連携した交通サービスを実現します。

大林組

https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220721_1.html

大林組は、「空飛ぶクルマの大阪ベイエリア航路実現性の調査事業」に参加しています。大阪・関西万博後の商用運航の拡大を見据え、その他の有望な離着陸ポート候補地の検討と、ポートの設置に当たっての制度上の課題等について検証を行いました。

機体にはSkyDrive社の空飛ぶクルマが採用され、大林組はポート建設関連のアドバイザリ・調査支援を担当しています。2025年の大阪・関西万博後には、日常での「空飛ぶクルマ」の普及も視野に入れて開発が進められています。

まとめ

空飛ぶ車は、次世代モビリティとして注目されています。道路渋滞等の影響を受けにくく、観光や物流面でのメリットも大きいです。まだまだ技術的な課題は残っていますが、2025年大阪・関西万博を契機に普及が広がるかが注目されています。