天井吸着移動型ドローンとは。今後現場に広がる?

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著者:鈴原 千景

建設業において、ドローンを使用した施工や現場管理は増加傾向にあります。人材不足の解消につながることに加え、データ共有による作業効率化に貢献しているといえるでしょう。

また、作業面では、ビルのメンテナンスでは目視が不要になったり、測量では人間が行うよりも短時間で広範囲の測量が可能となったりするなどのメリットも多いことから、今後もドローンは現場で有効活用されると想定されます。

しかし、従来のドローンは狭所作業に向いておらず、埃が舞うような天井裏やピットではまともに映像が取れないといったデメリットもありました。

そこで、今回は天井吸着移動型ドローンの概要と通常のドローンとの違いについてみていきましょう。

「トレンドワード:天井吸着移動型ドローン」

天井吸着移動型ドローンとは、駆動輪を持ち、天井やピットなどに貼り付けながら移動できるドローンを意味します。通常のドローンでは操作や活用が難しかった狭所で操作しやすく、次のような特徴があります。

  • 人が入り込めない天井裏やピット(地下の配管を通す空間)で操作しやすい(気流による埃が舞い上がらない)
  • マイクロドローンよりもバッテリーが長く持つ
  • 橋梁の詳細な調査にも役立つ

これまでのドローンでは、天井裏やピットでの作業は難しく、仮に飛ばせたとしても埃が舞い上がってしまうため、映像での調査は難しい状況でした。しかし、天井吸着移動型ドローンの場合は、気流が反転するため、操作していても埃が舞い上がることがありません。

加えて、現在は開発段階であるものの、AIによる画像認識ができるようになれば、あらゆる構造物の点検業務を効率化できます。

現在は開発段階であり、業界に普及するまでには時間がかかると予想されます。また、

従来のドローンのメリットである広範囲の測量は難しいといえるでしょう。

天井吸着移動型ドローンのメリット

ここでは、天井吸着移動型ドローンのメリットについてみていきましょう。とくに、天井裏やピットでの確認作業が多い事業者であれば、有効的に活用できると想定されます。

視認性が高い(埃が舞わない)

天井吸着移動型ドローンは、吸着力に優れており、気流が反転しているため、従来のドローンで発生していた埃の舞い上がりを抑えることが可能です。ドローンが侵入できるスペースさえあれば、人間の代わりに様々な箇所を確認・点検できるため、業務効率化や今後のリスクの予想などにもつながるでしょう。

長時間のフライトが可能

天井吸着移動型ドローンは比較的、長時間のフライトが可能です。ドローンの飛行時間を比較すると以下のようになります。

マイクロドローン(手のひらサイズ)6分~10分程度
通常のドローン30分から60分程度
天井吸着移動型ドローン40分から80分程度※通常のドローンよりも30%程度の増加。

従来の調査業務に必要な時間を確保しやすくなり、人材への負担を軽減できます。また、業務によっては複数のドローンを使い分けられるため、スムーズな作業の実施や効率的なフローの検討にも役立つでしょう。

操作がしやすい

従来のドローンでは、地面や天井に近づいた場合、次のような効果が起こってしまうため、操作しづらいという難点がありました。

  • 天井効果:旋回流が天井と干渉し、気圧が下がってドローンが上昇しやすくなる。
  • 地面効果:プロペラが作り出す吹き下ろしの気流と下壁が干渉し、ドローンが上昇しやすくなる。

しかし、天井吸着移動型ドローンは気流の向きが逆転するため、従来のドローンと比較して機体が安定しやすくなります。

天井吸着移動型ドローンと通常のドローンの違い

ここでは、天井吸着移動型ドローンと通常のドローンの違いについて詳しくみていきましょう。有効とされる用途が大きく異なるため、使い分けが大切だといえます。

たとえば、住宅地の造成や土地開発など大規模な測量が必要な場合は通常のドローンが適しています。対して、天井吸着移動型ドローンはマンションや戸建て住宅内のメンテナンス、橋梁の調査などに適しているため、業務内容に合わせて使い分けましょう。

通常のドローンは幅広く使用できる

通常のドローンは次のような場面で活用できます。

  • 高所からの施工箇所の確認
  • 外構工事や住宅地の造成などリアルタイムでの施工状況共有
  • ビルメンテナンス
  • 山間部や森林のある場所での測量
  • 安全確認

現場での施工や施工管理で役立つ場面が多く、安全管理から情報共有まで可能です。そのため、作業効率化や人材のリソースの確保、コスト削減につながるといえるでしょう。

ただし、防水機能付きのドローンが少ない点や風の強弱に左右される点、使用する土地の飛行制限の把握が必要となる点には注意が必要です。加えて、狭所での操縦は非常に難しいため、初心者では操縦できない点もデメリットといえます。

天井吸着移動型ドローンは狭所で使用できる

天井吸着移動型ドローンは次のような場面で効果的に使用できます。

  • 住宅内の天井や床下の調査
  • 人が入る隙間のない部分の外観調査
  • 橋梁の調査

メンテナンスや点検業務に特化しており、とくに人間が入れない場所の情報共有が可能な点はメリットだといえるでしょう。また、橋梁の調査では、高所作業車を使用する従来の方法に加え、天井吸着移動型ドローンを活用すれば、作業時間の減少や業務効率化が可能となります。

ただし、施工や施工管理に役立てようとする場合、通常のドローンの方が向いている点はデメリットです。また、現在は室内や比較的風邪の影響を受けない場所での使用を前提としているため、広い空間と強風での対応は今後に期待するしかありません。

まとめ

天井吸着移動型ドローンは、天井に張り付きながら移動するドローンを意味する言葉です。現状では、実証実験の段階であり、世の中には普及していません。しかし、有効に活用できれば、住宅内の点検作業やメンテナンス業務の効率化と作業負担の軽減が可能です。

今後、建設業では、人材への負担を最小限にしたうえで生産性を向上させていく動きが必須となります。そのため、天井吸着移動型ドローンが業界に普及していくかも含めて注目しておきましょう。