鹿島建設、竹中工務店ら、CO2排出量を70%削減した「CUCO-SUICOMドーム」の試験施工を完了
NEDO※1のグリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」プロジェクト(以下、本事業)の一環として、鹿島建設株式会社(社長:天野裕正 以下、鹿島)は、デンカ株式会社、株式会社竹中工務店とともに、本事業を実施するコンソーシアムであるCUCO(クーコ)の幹事会社として、コンクリートの製造過程で排出される二酸化炭素(CO2)の排出量が実質ゼロ以下となるカーボンネガティブコンクリート※2の開発を進めています。
今般、鹿島は、技術研究所(東京都調布市)の隣接敷地において、鹿島保有の「KTドームⓇ」技術を活用し、躯体部分に低炭素型コンクリート「ECMコンクリートⓇ※3」とカーボンネガティブコンクリート「CUCO-SUICOMショット」を活用した「CUCO-SUICOMドーム」の試験施工を完了しました。
試験施工では、これら両コンクリート材料の吹き付け、ならびに「CUCO-SUICOMショット」の炭酸化養生※4を現場で行いました。KTドームの技術に両材料を用い、これらの工法で構築した環境配慮型コンクリートドームは世界で初めてです。これにより、従来の吹付けコンクリートと比較して、CO2排出量を70%削減することに成功しました。
この実績を踏まえ、2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)の会場に、本試験施工のものと同規模のCUCO-SUIICOMドームを本事業の一環として建設する予定です。
今後、NEDOとCUCOは、カーボンネガティブコンクリートや低炭素型コンクリートを活用した環境配慮型コンクリート構造物の建設技術の確立ならびに社会実装を実現することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。
※1 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
※2 製造時のCO2排出量よりも、CO2削減・固定・吸収量の方が多いコンクリート
※3 ECMセメントを使用したNEDOプロジェクトにおいて1大学7社が共同開発したコンクリート
※4 高濃度のCO2環境でコンクリートを養生し、CO2を安定な形で吸収・固定する方法
CUCO-SUICOMドームの外観
開発の背景
鹿島が開発した「KTドーム」は、国内工場で製作したドーム型のポリ塩化ビニル(PVC)膜に空気を送り込んで膨らませ、その内側に配筋を行った後にコンクリートを吹き付けることでドーム型の躯体を構築します。施工はドーム内で行われるため、天候の影響を受けにくく、安定した工期でスピーディーな施工が可能です。
その一方、躯体に用いる吹付コンクリートには、製造時に多くのCO2を排出するセメントを用いることから、より環境に配慮したコンクリートとその施工方法を確立する必要がありました。
そこで鹿島は、KTドームの躯体に低炭素型コンクリート「ECMコンクリート」とカーボンネガティブコンクリート「CUCO-SUICOMショット」の技術を複合した新たな吹付け工法を確立し、大阪・関西万博会場での建設を目指すこととしました。
大阪・関西万博は、そのコンセプトのひとつに「人類共通の課題解決に向け、先端技術など世界の英知を集め、新たなアイデアを創造・発信する場」を掲げています。CUCO-SUICOMドームは、人類共通の課題であるCO2排出量の削減に向けた新しい建設技術の実現に資するものと考えます。
技術と成果の概要
CUCO-SUICOMドームでは、膨らませた膜の内側に断熱材などを施工した後に配筋を行い、ECMコンクリートを吹き付け、さらにその内側にCUCO-SUICOMショットを吹き付けて躯体を構築します。CUCO-SUICOMショットはCO2を吸収・固定しながら固まるため、吹付後にドームを密閉し、内部にCO2を充満させた状態で一定期間養生を行います。
両コンクリートの吹付けは、鹿島の知見とノウハウにより使用材料とその調合を工夫したことで実現しました。また、CUCO-SUICOMショットの炭酸化養生にあたっては、ドーム内部に本体より若干小型のドーム(内膜)を膨らませ、本体と内膜の隙間のみにCO2を充填することで、CO2の使用量を減らすとともに、充填に必要なエネルギーも減らすことができる新手法を採用しました。
コンクリートの採用範囲については、全体工期との兼ね合いで炭酸化養生期間を計算した結果、CUCO-SUICOMショットを33㎜とし、ECMコンクリートを167㎜(開口補強部267㎜)としました。
今回、躯体にECMコンクリートとCUCO-SUICOMショットを用いたことで、従来の吹付コンクリートと比較し、材料由来のCO2排出量を70%削減できました。
なお、両コンクリートの吹付けによるドームの建設と、CUCO-SUICOMショットの建物躯体部分への適用は世界初となります。
CUCO-SUICOMドーム断面図
炭酸化養生の仕組み
コンクリート由来のCO2排出量削減効果
施工手順
(1)国内工場で製作したドーム型のポリ塩化ビニル(PVC)膜に送風機で風を送り膨張させる。
(2)膨張したドーム内部に断熱材などを施工した後に鉄筋を配筋し、その後ECMコンクリート、CUCO-SUICOMショットの順で吹き付け、鉄筋コンクリート造ドーム躯体を構築する。
(3)炭酸化養生用の設備と内部ダクトを設置する。その後、内膜をドーム内で膨張させ、ドーム本体と内膜との隙間にCO2を充填してCUCO-SUICOMショットの炭酸化養生を実施する。
今後の展開
この環境配慮型コンクリートドームの施工手法を用いて、大阪・関西万博会場にCUCO-SUICOMドームを建設する予定です。
NEDOとCUCOは、「2050年カーボンニュートラル」社会の実現に貢献すべく、さらなる研究開発を進めてまいります。
CUCO-SUICOMドーム外観(イメージ)
(参考)
エネルギー消費とCO2排出を6割以上削減できるECMセメントを開発
(2014年8月5日プレスリリース)
https://www.kajima.co.jp/news/press/201408/5c1-j.htm
「KTドーム®」工法を実工事に適用
ドーム型構造により柱や梁のない大空間を実現
(2021年12月23日プレスリリース)
https://www.kajima.co.jp/news/press/202112/23a1-j.htm
NEDOグリーンイノベーション基金事業
「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」にコンソーシアムとして提案し採択
(2022年1月28日プレスリリース)